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地方分権の重要性が唱えられて久しい。その議論は、東京一極集中の是正から地域活性化、はたまた道州制に代表される統治機構改革まで多岐に渡り、総論賛成・各論反対の域を出ないのが現状である。
とはいえ、少なくとも行政に関しては、大きく三つの改革が行われた[i]。まずは1999年の地方分権一括法[ii]によって国が地方に委任してきた機関委任事務が廃止される。続いて2000年代初頭の三位一体改革[iii]を通して、国庫支出金や地方交付税交付金の見直しとともに約3兆円の地方への税源移譲が行われた。そして2010年代、国家戦略特区などの地方創生政策が官邸主導で展開され今に至る。その成果への評価はさておき、行政における地方分権が歴代内閣で着々と推し進められてきたのは事実である。
一方、「政治の地方分権」については、いまだ道半ばであると言わざるを得ない。地方議会議員の殆どは国政政党に所属し、最終的な意思決定に関しては東京に拠点を置く各政党の本部に依存している。建前としては中央政府と地方政府は対等とされながら、蓋を開けてみれば「国会議員、その子分の都道府県議会議員、さらにその子分の市町村議会議員」というピラミッド型の組織構造になっている政党が目立つ。「地域のことは地域で決める」というよく耳にするスローガンは、残念ながら骨抜きとなっているケースが多い。
そこで注目したいのが、地方に本部を置く「地域政党」である。昨今、大阪維新の会や都民ファーストの会などを筆頭に、全国各地で大小さまざまな地域政党が存在感を強めている。今回はその中でも、全国の地域政党の先駆けである「地域政党京都党[iv]」を研究対象に据えた。本レポートでは、2023年春の統一地方選挙前後に際して京都党の創設者、候補者、支持者にヒアリングを行い、地域政党を通じた政治の地方分権の可能性について考察した結果を記述する。
そもそも地域政党とは何か。実のところ、地域政党の明確な定義は存在しない。国政政党のように法律によって政党要件が規定されておらず、現在の法的な扱いは「その他の政治団体」となる。これは総務省ならびに各都道府県の選挙管理委員会に届け出さえすれば認められることから、その後自らを地域政党と定義すれば簡単に新たな地域政党が誕生してしまう。したがって、ブームに乗じて雨後のタケノコのように乱立することも多い。
そのような現状に対して、今回ヒアリングを行った京都党の創設者である村山祥栄氏は、地域政党の定義として以下の四点を挙げている[v]。
① 議員、首長もしくはその候補者が存在する組織であること
② 活動エリアを自ら定めていること
③ 党是・理念を共有していること
④ 郷土愛に立脚した地域主義者を支持基盤に持つこと
①や②は当然として、村山氏は特に③党是・理念の必要性を強調した。先述の通り、大阪維新の会などの躍進を受けて地域政党が乱立した時期があったが、その多くは共有されるべき理念が曖昧であり、利害や思想の対立の中で容易に瓦解してしまったという。その点、京都党においては、党の定義から綱領、基本政策まで明確に言語化されている[vi]。地方議会における「会派」と地域政党の違いも③の有無で説明されるだろう。会派は利害関係の中で形成されるため集散離合も珍しくないが、政党を同じくする場合には理念の共有が不可欠となる。
また、京都市という土地柄の影響もあるに違いないが、京都党の選挙戦においてはまちに対する強い思いをもった市民の熱が感じられ、④の重要性も痛感した。
全国の主な地域政党(筆者作成)
上図は筆者が作成した全国の主な地域政党一覧である。知事や市長など首長主導で設立されたもの、京都党のように地方議会議員が立ち上げたもの、新党大地のように国会議員が代表を務めるものなど様々なパターンが存在する。上図に記載されている政党のほかにも、京都党も所属している地域政党サミット[vii]には現在10政党が所属しており、全国各地に様々な形で地域政党を掲げる政治組織が存在していることがわかる。
なお、近年は海外においても地域政党が存在感を増している。特に、新自由主義や過剰な民営化に反発する「municipalism(地域主権主義)」と呼ばれる市民主体の動きが地域政党として政治力を獲得する新たな潮流が現れ始めた。アルゼンチン第三の都市ロサリオにおける市民政党「都市の未来」の躍進を皮切りに、スペインの「バルセロナ・コモンズ」、フランスの「市民コレクティブ」など、再公営化や直接民主主義的な住民参加を重視する地域政党が注目を集めている[viii]。
京都党はその名の通り、「京都第一主義」「京都の京都による京都のための政治」を掲げ、2010年の設立以来、一貫して京都市に根差した政策立案や議会活動を行ってきた。2023年の京都市議会議員選挙においては7名の候補者を擁立、うち5名が当選し、京都市議会における交渉会派要件を単独で満たした。現在は「維新・京都・国民市会議員団」を形成し、会派としては自民党に次ぐ第二勢力となっている。
京都市に根差していることを強調する京都党のポスター
(2023/3/27 京都市内にて筆者撮影)
2023年春の統一地方選挙におけるマニフェストにおいても、市外事業者に対する「京都ブランド税」検討、宿泊税を通じたオーバーツーリズム対策、洛西地域におけるBRT(バス高速輸送システム)の導入など、地域特有の課題に対する政策案が掲げられていた[ix]。
特に筆者が注目したのが京都ブランド税である。この施策は、京都市民が景観制約やインフラ維持費用を負担しながら作り上げてきた京都というブランドに市外企業がただ乗りし、大手ドラッグストアや外資ホテルの利益として売り上げが域外へ流出してしまう現状に異議を唱えるものとなっている。市外の事業者が京都市でビジネスをする場合には相応の負担を追加で行うか、もしくは拠点を市内に設置することを選択させる。これは東京や大阪など市外の利害関係者にも配慮が必要な国政政党や域外の政党には主張が難しく、地域に根差すからこそ唱えられる地域政党ならではの政策だと言える。
このような地域に特化した政策を地域政党が主張していくことで、国政政党も全国一律のパッケージ政策ではなく地域性を加味していくことが求められ、結果的に住民により良い行政サービスが提供されることになる点も、地域政党の意義の一つだろう。
また、京都党は既存政党との違いとして、今ある課題に対応するのではなく、これから起こりうる問題への対策を考える未来志向型の政党であることを強調している。実際に、筆者が密着していた京都市左京区支部長の河村諒(※選挙時は「河村りょう」)氏は、かつて京都市役所に勤務していた頃の知見を活かし、京都市の財政が破綻寸前であることを行政資料から見抜き、メディアを通して広く世間に知れ渡る前から財政再建の必要性を発信し続けていた。河村氏はそうした姿勢を「交通事故が起きたから信号機をつけるのではなく、事故が起きるリスクを見越して予め信号機を設置する」スタンスだと例えた。
京都党京都市左京区支部長の河村諒氏(左)と党創設者の村山祥栄氏(右)
(2023/4/1 京都市内にて筆者撮影)
一方で、地域政党に関してはいまだ課題も多い。京都党関係者へのヒアリングを通じて筆者が感じたのは以下の三点である。
第一に、先述の通り明確な法的定義がないことから、国政政党に認められている政党助成金や寄付控除といった優遇制度が存在しない。ゆえに国政政党の擁立する候補者に比べて資金面で厳しく、政治の地方分権が進まない一因となっている。地域のことを地域で決められる世の中にするには、まず地域政党について法定義を行うことが第一歩となるが、法律制定に関与できる既存の国政政党にそのインセンティブは乏しい。全国の地域政党が連合を組み国政政党に影響を及ぼせるような時代が来ない限り、状況は改善しないであろう。
第二に、人材獲得が難しい。メディアへの登場頻度などから国政政党に比べ知名度の劣る地域政党は、そもそも候補者の確保が難しく、限られた人材の中で戦っていくしかない。候補者数を確保するために入党基準を緩和することは理念の曖昧化や人材の質の低下に繋がり政党組織の崩壊を招きかねず、京都党では獲得可能な議席数を減らしてでも人材の質を担保する方針が採用された。他党議員や無所属議員の勧誘も一手ではあるが、新人発掘以上の困難が生じるのは予想に難くない。
多様なバックグラウンドを持つ京都党の候補者
(2023/4/1 候補者選挙事務所にて筆者撮影 ※掲載許可確認済み)
第三に、地域政党が成立するにはある程度の都市規模が必要となる。京都党の応援に来た人口数万人の他自治体の市議会議員は、「うちのまちでは『自民党かそれ以外か』という構図しか存在しない。特定の支持政党を持たない浮動票が少なく、地域政党を設立しても候補者・支持者ともに獲得が難しい」と述べ、最低でも政令市レベルの人口規模が必要だと語った。この点に関しては、今後各地で地域政党が躍進していく中で認知度が増せば、小規模な自治体でも可能性が高まっていくだろう。
なお、当初想定していなかった発見としては、「地域を第一に考える」という共通ゴールが明確であることで、左派・右派の思想の幅を乗り越えた団結が見受けられたことが挙げられる。これは支持基盤となる組織によってある程度イデオロギーが固定される国政政党とは異なる点であり、多様性の中で幅広い議論が行われ、柔軟な意思決定に繋がる余地を感じた。
また、支持者へヒアリングを行う中で、地域政党の応援を通じて地域課題や地域の魅力への理解が深まり、シビック・プライドが高まる傾向が感じられた。年長の支持者が候補者に対して地域の歴史を物語る場面も目にし、住民と地域政党の間で双方向のコミュニケーションが行われること自体が地域の発展に寄与する部分もあるのではないかと考えている。
イデオロギーによる棲み分けが先行し、議論すら成り立たないことも多い昨今において、「まちを良くしたい」という共通のゴールを掲げることでそれを乗り越えうる地域政党の役割は大きい。多様化する価値観や幸福観を内包しうる存在として、国や地域の課題に対して多様なソリューションを提案する土台として、地方議会を再び「民主主義の学校」という身近な存在に取り戻す起爆剤として。地域政党による政治の地方分権の可能性を引き続き探求していきたい。
[i] 曽我謙悟(2019)『日本の地方政府』中公新書, p.215-216
[ii]正式名称は「地方分権の推進を図るための関係法律の整備等に関する法律」
https://www.shugiin.go.jp/internet/itdb_housei.nsf/html/housei/h145087.htm
(最終閲覧:2023年8月1日)
[iii]総務省「国から地方への税源移譲 (三位一体の改革)」
https://www.soumu.go.jp/main_sosiki/jichi_zeisei/czaisei/czaisei_seido/zeigenijou.html
(最終閲覧:2023年8月1日)
[iv]地域政党京都党HP
http://www.kyoto-party.com/ (最終閲覧:2023年8月1日)
[v]村山祥栄(2013)『地域政党』光村推古書院, p.74-83
[vi]地域政党京都党HP「地域政党京都党 綱領」
http://www.kyoto-party.com/principle/general_principles.html (最終閲覧:2023年8月1日)
[vii]地域政党サミットHP「参加政党」
https://local-party-summit.jp/participation/index.php (最終閲覧:2023年8月1日)
[viii]岸本聡子(2023)『地域主権という希望:欧州から杉並へ、恐れぬ自治体の挑戦』大月書店
[ix]「地域政党京都党 市民とのお約束」
http://www.kyoto-party.com/file/2023manifest.pdf (最終閲覧:2023年8月1日)
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Taigi Izaki
第42期
いざき・たいぎ
Mission
自立した地方政府による「多極国家日本」の実現