Thesis
近年、先進諸国において深刻化する教育格差。日本に住む私たちにとっても例外ではありません。教育格差の背景にあるのは貧困問題だけでしょうか。本レポートでは日本の教育格差を解決するアプローチとしてリユースやリサイクルを活用した持続可能な教育支援の方法についての考えをまとめ、現役塾生として現在筆者が取り組んでいる活動についてご報告いたします。
私は昨年10月より地元関西に戻り、子どもの貧困や教育格差問題に関する研究・研修を行っている。なかでも特に力を入れて行っているのが、学用品や制服のリサイクル活動です。
昨年執筆したビジョンレポート「アフターコロナ時代に求められる子どもの貧困対策 ~財政に依存しない子ども・子育て支援の探求~」においても述べた通り、我が国における子育てや教育に関する公的負担の割合は低く、金銭的にも精神的にも子育て世代への負荷は大きいという課題について、私は入塾前から強い問題意識を抱いていました。
確かに、現在日本ではすべての子どもたちが教育にアクセスするための権利が保障され、公教育が提供されていますが、実際には教育は完全に無償というわけではなく、教育に関する費用の相当部分をそれぞれの家庭が私費負担として支払っているという問題は、子どもの貧困支援が始まって10年近く経つ現在も顕在しています。
学校内における教育のコストだけでもかなりの負担感を子育て世代に与えてしまっているが、それに加えて塾や習い事などの学校外教育にも高額の費用がかかるため、経済状況や家庭環境によって学力に大きな格差が生じてしまい、子どもたちの進路に影響を与えています。貧困による学力格差は子どもや親の努力不足では決してなく、明らかに社会問題であると私は考えています。
また、「教育にお金をかけられない」という状況が子どもに与える影響は、学力だけではありません。経済的に厳しい家庭で育つ子どもたちが、お金が理由で様々なことを諦めなければいけないという「諦めの連鎖」という問題が様々な研究で指摘されています。そして、こうした小さな機会のはく奪状態が蓄積されることで、やがて子どもたちの意欲が削がれ、自尊心や自己効力感を低下させてしまうことも明らかになっています。子どもがおもちゃをねだるときに「あの子のうちはお金があるから」といって親が反対する場面を目にしたことがある方もいるかもしれませんが、「頑張っても、私には無理だ」という気持ちの背景には、意外にもこうした何気ない言葉の積み重なっていることもあるのです。学校という小さな社会の中で勉強道具は一つの自己表現であり、かわいい筆箱やキャラクターの鉛筆などが彼らのコミュニケーションのツールでもあります。そんな中、短い鉛筆を使い続けることがはずかしいと感じている子どももいます。
そんなときにふと自分のデスクを見た時に、ボールペンやマーカーがたくさん溜まっていることに気が付き、余っているところにはものはたくさんあって、それらを有効に活用することができるかもしれないと考えるようになりました。
そこで私が6月から始めたのが「わたしのふでばこプロジェクト」という活動です。家庭で使わなくなった学用品などを回収し、必要とする子どもたちに届けることで、教育にかかるコストを少しでも減らすこと、あるいは物を大切にする心を育みたいという思いから始めた自主プロジェクトである。このプロジェクトを通じて学用品を受け取った子どもたちに「これは私のもの」と喜んでもらいたいという願いを込めて「わたしのふでばこプロジェクト」と名付けました。
開始から3カ月余りの活動のため、まだまだ手探りではあるが、周りの方々のご協力に支えられながら、必要としている子どもたちに学用品を届けています。
引き続き実践活動を通じて、子どもたちの学びと笑顔を支えるために求められる支援や対策に関する見識を深めていきたいと思います。
また、このプロジェクトのもう一つのサブテーマは情報発信の方法を学ぶことです。
以前NPOで活動していたときに課題だと感じていたのは、支援の情報が必要な方に届いていないこと。せっかく支援制度を用意していても、窓口型の支援体制では家事や育児で忙しい子育て世代の方たちにとってアクセスがしにくいという現状があります。
この問題を解決するために、訪問型のアウトリーチ支援に取り組む団体や行政はもちろん、行政のウェブサイトをDXでシンプルで見やすくするサポートを行っているIT企業の方などにたくさんお話を伺いました。
様々な実践者の方々に教えて頂いた学びを生かして、私自身もプロジェクトの情報発信の際はシンプルさとアクセスしやすさを重視するようにしています。なかでも特にリアクションを実感しているのは、LINEアカウントを使った方法です。
気軽にメッセージ感覚で問い合わせていただけるようで、利用者の方からの反応が良いと感じています。最近は若者支援や自殺対策などの現場でもLINEやSNSが広く活用されていると聞きます。
支援が必要な方との情報交換がもっとカジュアルになるように、引き続き方法を模索してまいりたいと思います。
塾の研修を通してある方から頂いた言葉でとても印象的であったものがある。
「仕事はどこにでもあります。地域であなたが必要とされていること、それが仕事です」。地域福祉にもまさにこの言葉が当てはまるといえる。お互いの助け合いで支えあうことは、言い換えればお互いを「活かしあう」ことにつながる。こうした地域福祉と制度がかみ合い連携していくことで、一人で困りごとを抱え込むことなく、安心感のある生活をおくることができるのではないか。
今後の研修においても、現場での困りごととしっかりと向き合いながら活動していきたい。
Thesis
Shinju Nakayama
第40期
なかやま・しんじゅ
Mission
子ども・子育て世代を包摂する社会の実現