論考

Thesis

連邦議会のユニークな文化に迫る
―ワシントンDC実践活動報告②―

 多様性を原動力とした国家全体の利益を考えた国家経営を研究するため、ワシントンDCに赴任し、米国連邦議会フェローとして研修を開始した。米国政治を理解するために、議会という政治の現場で実践活動に取り組んでいる。本稿では議会スタッフの視点から連邦議会の特殊でユニークな文化や環境を考える。

ユニークな連邦議会文化―上司は連邦議員―

 ワシントンDCにある米国連邦議会や議員会館及びその周辺一帯のことをCapitol Hill(キャピトル・ヒル)と呼び、そこで勤務する人々を総称としてHill Staffer(ヒル・スタッファー)と言う。それは連邦議会スタッフや議会関連のスタッフであることを同時に意味する。
 議会スタッフらにとってその上司(the Boss)となるのは連邦議員である。上司である議員の方針によって異なるが、スタッフは上司のことをファーストネームで呼ぶことが一般的である。スタッフ同士のコミュニケーションも基本的にインフォーマルなものが多いことも特徴である。
 議会スタッフは上司となる議員の政治信条やその意向に沿って法案成立に向けた準備やリサーチ、有権者との橋渡しをすることに加え、多忙な議員に変わってレセプションやイベントの代理出席をすることもしばしばだ。議会開会中は予想のできない毎日であり、急ぎのタスクも多く予定を立てにくいためフレキシブルな対応力が求められることも多い。上司を支えるチームメンバーの一人としてチームワークも必須となる。
 議会開会中は、男性議会スタッフはスーツにネクタイ、女性もビジネススーツで身を固めて多くの会合や法案通過に向けて取り組んでいるが、議会が休会中は男女スタッフともにカジュアルダウンするなどオンオフの切り替えある職場文化であることも議会の特徴である。

連邦議会事務所のしくみ

 議員事務所によってそのスタッフの人数や仕事内容は異なるが、多くの事務所は図のような人事体制を取っている。筆者のヒアリングや複数の事務所訪問経験、文献により作成した。一般的に議員は議会のワシントン事務所と選挙区に事務所を構えるのが通例であり、本稿はワシントン事務所の人事や組織に焦点を当てる。

 首席補佐官の影響力は多大である。スタッフのとりまとめ役のみならず、場合によっては議員の政策方針も話し合うこともある仕事だ。立法ディレクターは外交から、経済、内政、文化幅広い法案に触れながら議員の投票行動に影響する職種である。広報はSNSの普及から昨今重要度が増しているポジションでもある。そして、スケジューラーというユニークな仕事は議員のスケジュールを管理する大変重要なものである(前活動報告‘政治家のトレードオフ’参照)。職制上は首席補佐官の下になるが、議員当人のスケジュールを管理しているため議員個人との信頼関係が重視される職種である。基本的に議会スタッフは議員やスタッフのスケジュールを外部に漏らしてはならないことが掟である。議員は限りある時間で議会の仕事、有権者との面談やステークホルダーとの関係構築、家族との時間をやりくりしてその時々の優先順位を決めて作っているため、それを公にすることはできないのである。

ご縁が導く世界

 連邦議会は何よりも「ご縁」の世界であり、この世界への入り口は様々である。選挙ボランティアをしていた職員がワシントン事務所の空席により採用されたり、夏休みのインターンからスタッフとしての仕事をいただいたり、様々なストーリーがある。そして一たび中に入ればネットワーク構築が議員スタッフとして残るための一つの方策となる。法案成立に向けて議会スタッフ同士で、それぞれ上司である議員の法案投票への意向を確認することもある。議会スタッフは1つのポジションに対して在職期間が平均して2~3年とも言われ、離職率が高い(他議員事務所への異動やロビー団体への転職が多い)。議会スタッフ同士のネットワークが転職へのご縁を繋いだりすることも少なくない。議会スタッフ間では(特に休会中は)コーヒーを飲みに行こうという合図で、お互いの仕事の意見交換や転職活動を行う文化がある。

Every letter is an opportunity.

 有権者の声をとにかく大事にする。たとえ選挙区の異なる学生であっても、彼らの困りごとに真摯に対応する姿勢を私は研修を通して学んでいる。政治は人々の困りごとを解決に導く一つの手段であり、国民の声は連邦政府にまたがる課題にもなるからである。筆者が忘れもしない元議会スタッフからいただいたアドバイスは「Every letter is an opportunity(意訳:全ての声は政治の機会として受け止める)」である。1つ1つの国民の声に対応することが、長期的には政治家への信頼や支持に繋がっているのだと感じる。ニュースにはならなくとも、多くの議員らは地道に活動し国家や国民のよりよい社会や生活のために昼夜問わず活動している。その姿を見ながら自分も政治の基本に立ち返っている。
 議会スタッフは「国際社会の中での米国政治」、「米国政治の一部としての連邦議会政治」、「議会内の政治」、「議員を取り巻くステークホルダーとの政治」、そして「議会スタッフ内の政治」に挙げられるような重層的な政治レイヤーの一部になり、アクターとして関わることとなる。時には己の無力さを知り、時には「政治」をハンドリングしながらこのユニークで特殊な政治都市ワシントンの醍醐味を感じ生き残っていくのである。

(米国連邦議員事務所にて撮影)

参考文献

Politico(2020) ‘Who’s Who in a Congressional Member’s Office’, Dec 20, 2020, [https://www.politicopro.com/blog-assets/whos-who-in-a-congressional-members-office_smaller.pdf]

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日野原由佳の論考

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日野原由佳

第42期

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