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2022年11月

塾生レポート

米国政治家というプレイヤーを理解するために                   ―ワシントンDC実践活動報告①―
日野原由佳/松下政経塾第42期生

 多様性を原動力とした国家全体の利益を考えた国家経営を検討するため、ワシントンDCに赴任した。米国政治を理解するためにまずは連邦議会で政治を動かす「政治家」像をつかむのが目的だ。座学やリサーチをはじめ、研究者や実務者と意見交換を行いながら探究している。

 

ワシントンDCという地の利

 ワシントンDCはいうまでもなく米国の政治の中心地である。政府機関ではホワイトハウスから連邦議会、最高裁判所、省庁機関などが集まっている。政策分析や政策そのものに影響を及ぼすロビー団体やシンクタンクも軒を連ねている。外交においても、各国の大使館や世界銀行や国際通貨基金の本部があるなど、米国政治行政のみならず国際政治の要所でもある。
 連邦議会では下院議員であれば各州の選挙区から、上院議員は各州からそれぞれ選出される。それぞれの州や選挙区民の困りごとや要望の解決策を法案、仕組みとして確立するためにワシントンDCの議場内外で各議員は奔走している。本稿では上院・下院問わず米国連邦議会に選出された「政治家」への理解を深めるための3つの見方を提示したい。


 

政治の根深い年功序列制度

 米国議会でもっとも大切な秩序は年功序列とされている現実である。中でも外交や金融、通商、教育など各分野に分かれている委員会は上院で24、下院では20存在しており、委員会の委員長は(当選回数の多い順の)年功序列で選任される習慣がある。その理由は縁故や世襲と関係なく、超党派で委員長を選出することが最良の方法と考えられてきたからだ。初当選したばかりの議員は経済やエネルギー、インフラ等の重要と言われる委員会のメンバーに入ることすらかなわないのである。
 共和党議員は連続して3期以上委員長や委員を務めることを禁じる任期制限を内部規則として実施し、年功序列から脱却しようとしている。一方で、民主党は過去に任期制限の取り組みに失敗しており、そこには当選回数の多い年長議員の抵抗が根強く残っていることが挙げられる。能力や成果主義と言われる米国といえども、政治の世界は伝統的な価値観が残っており、政治家はこの土壌であらゆる政治議論を発展させていくのである。


政治家のトレードオフ

 連邦議会の政治家らは、日々国家の将来を決める様々な選択を迫られている。例えば、打ち合せ1つを取ってみても議会では様々な委員会活動に代表される議会内活動に始まり、ロビー団体、政治資金団体、シンクタンク、民間団体等の外部との会合まで数多く存在する。議会活動においても多くの会議が同じ時間帯に実行されることも少なくないため、議員はそのときの優先順位やステークホルダーとの関係性、個人の政治パフォーマンスを考慮して常時、選択を迫られている。議会法案の賛否においても、その選択1つ1つは選挙区民からの反対や、政治生命を左右するリスクを常に追いながらの決断の連続である。
 議員事務所ではスケジューラーと呼ばれる議員のスケジュール管理を行う役職がある。一見単なる予定管理にも見えるが、議員のプライベートを含め各議員のステークホルダーとの関係性や優先順位を熟知している必要があり、大変重要な役割に位置づけられている。法案のみならず、政治家の限りある時間のマネジメントはトレードオフの連続ともいえるだろう。国家や国際政治に影響を及ぼす決断を行いながら、同時に選挙区民の声、政治献金、ロビーやシンクタンクなどあらゆるステークホルダーとの関係性を構築し、さらに自身の家族との時間を有効につくるのが米国政治家の人間像である。


変化し続ける多様な声

 3つめは、政治家にとって最も重要である国民の声を代表して政治政策に反映することである。そしてその国民の声は時代や時とともに変容するものである。特に対中感情の急激な悪化は米国政治に加えて国際政治に大きな影響を及ぼしている。ピューリサーチセンターによると、2018年以降中国に対する否定的な見方は増加傾向にあり、米国人の8割近くが中国を好ましくないと見ている。これは歴史的な高水準であり、7割の米国人が現在の対中関係を悪いと表現している。一方で2011年頃まで対中感情は好意的な見方が否定的な見方を上回っており、米国の多様な世論は絶えず変化し続けることを忘れてはいけない。つまり、国民の声は変化するものであり、常に世間の声を聞くことができなければ国民の現状を理解できず支持を失うことにもつながってしまうのである。


連邦議員/政治家の姿

 本稿では「政治家」個人に着目して政治家目線での政治活動で特筆すべき項目について提示してきた。議会内での年功序列に挙げられる政治制度の慣習がある環境下において政治家が日々直面するトレードオフの現実、そして国民感情の変容という世間の声を受け止めながら国家の将来を左右する決断を担う政治の一瞬一瞬に政治家の人間性が反映されている。米国政治家は米国政治を動かし、時には国際政治にも多大な影響を及ぼすプレイヤーという認識はあるが、彼ら彼女らが政治決断をする上で日々向き合っている日常を理解することも米国政治のダイナミクスを理解する上で重要な示唆であると考える。
 多様な人種や価値観を国家全体の利益として国家経営を主導する「政治家」とはどんなものか、ワシントンDCという地の政治文化を肌で学びながら現地現場の研修に従事し、引き続き当地で研鑽に励みたい。



(米国連邦議員事務所見学時にて撮影)


<参考文献>
Pew Research Center (2022) ‘Negative Views of China Tied to Critical Views of Its Policies on Human Rights’ June 29, 2022,
[https://www.pewresearch.org/global/2022/06/29/negative-views-of-china-tied-to-critical-views-of-its-policies-on-human-rights/, 2022年11月6日アクセス]

2022年11月 執筆
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