論考

Thesis

社会課題解決への志を持つ仲間をつなぐプラットフォーム「willink」活動報告

多様性をこれからの日本の国家として成長の原動力としていくために、あらゆる人材が社会で活躍できる社会を目指したい。社会において多様性を尊重する風土が醸成されるためには多様な働き方や生き方の選択肢を示すことが重要であると考え、とくに職場における男女格差是正の視点から社会課題解決へ志を持つ仲間をつなぐプラットフォーム「willink」という団体を立ち上げた。

多様性を巡る国際社会と日本のギャップ

 多様性(ダイバーシティ)とは人種や文化、宗教、性差、属性を超えた人々が存在することである。多様性を尊重する風土の醸成は国際社会において国づくりから組織の経営まであらゆる場所で取り入れられており、多様性なき社会に成長はないというのが世界の常識である。私が以前勤務していた国際機関では、多様性の尊重は職員に必要な資質として位置づけられており、実際に面接では必ずと言っていいほど多様性ある組織や人々とどのように仕事をしてきたか問われるほどであった。これは一例に過ぎないが、グローバル化する社会の中で自分とは異なる他者と上手に仕事をしなければならないのはどの国であっても社会でも同じではないだろうか。

 それでは日本はどうだろうか。世代や性差、属性を超えた活発な組織はあるだろうか。世界経済フォーラムのジェンダーギャップ指数2021では日本は156か国の中で120位と、政治経済分野において突出して順位が低い。これは、政治経済分野で男女間の不平等があることを意味している。国際社会は多様性を欠かせない要素として認識しているのに対して、日本は依然として多様性が尊重される風土が醸成されているとは言えない状況にあるといえるだろう。

同じ問題意識を持つ同世代の人々との出会い

 J-Win(Japan Women’s Innovative Network)というNPOは各企業から研修を受け入れて職場のダイバーシティを進めている組織である。このNPOの活動の一環としてジェンダーギャップに関して研究しているグループから、これまでのキャリアにおいての課題やそれをいかに乗り越えてきたか取材を受けた。30~40代で企業の管理職手前の女性らがメンバーの中心になって活動している。そんな人々の会社組織における現場の声もヒアリングしていくうちに、多様性の重要性は誰しもが認識しているにも関わらず、それを危機意識として自分事としている人々が少ない現実も垣間見ることができた。共通の問題意識を持ちつつ、私たちの世代だからこそ、何かできることはないか考えるきっかけをいただくことができた。

多様性が欠如することで生じる組織への課題や影響

 多様性が組織においてなぜ必要なのか、まずは整理をしたい。多様性が失われることで同質的な価値観しか醸成されず、その結果として組織の利益を阻害することになる。さらには後進も育ちにくく、イノベーションも起きにくいことから生産性が低下することになる。多様な人材がいない組織には投資魅力も下がってしまう。したがって、多様性はめまぐるしく変わる国際社会を背景に先を読むことが困難な時代において必要不可欠な組織づくりの要素である。一人一人のマインドセットの側面において多様性を受容する意識改革と、組織として世代や属性を超えた多様な人材を強みにしていく組織改革が多様性を尊重する風土の醸成に必要な条件となってくる。

 しかしながら、会社等の組織において管理職以上の女性比率が依然として低く、職場以外の女性たちと悩みを共有する場や相談する場があまりないことが課題として挙げられる。そのため、女性が管理職になってもモチベーション維持が困難になっているようだ。加えて、女性間において自分自身の仕事や活躍が多様性の醸成に一石を投じていること、つまりエンパワーメントを行うことも重要である。全体として女性だけの課題と捉えるのではなく、広く男女ともにあらゆる生き方や働き方の選択肢があるということを発信することで、多様性を尊重する風土が醸成され、本課題に対する一翼を担っているのではないかと考える。

社会課題解決への志を持つ仲間をつなぐプラットフォーム―willink―

 多様性を尊重する風土が醸成される社会へ向けて「私たち」に何ができるか議論し考えた。社会課題解決への志を持つ仲間を増やすこと、そして女性からも仲間を増やしリーダーとなっていく重要性を再認識した。私たちが共に成長していくことで、あらゆる障壁があったとしても課題解決への道筋を見つけていけるよう、モチベーション維持にも寄与するだろう。志(will)を持つ人々を繋げる(link)プラットフォームを持つために、企業に所属しながら有志で活動する意思のある女性らとともに「willink」という団体を立ち上げた。特筆すべきは業種や職種を超えた繋がりであるため、自身を常に客観的に捉えることができることである。職務経験を重ねた30代から40代は職場での責任が大きくなるだけでなく、ライフスタイルも変化しやすい時期でもある。人によっては慣れてきた仕事をこなすことは、成長実感も少なく、刺激にも乏しいかもしれない。だからこそ横のつながりを大切にしていきたいものである。

 2022年4月下旬には「多文化共生から考える”多様性”や”働き方”」をテーマに埼玉県川口市芝園団地自治会事務局長である岡﨑広樹氏(33期)を招いて働き方や多様性がより享受される世の中になるためのwillink活動キックオフイベントを実施した。自分と考えが異なる人との関わりや経験、人と繋がることの大切さについて自身の体験に立脚して考える対話型イベントになった。多文化共生事例から、誰しもがステレオタイプをもっているという認識があることを理解し、まずは自分自身を見つめ直すことが重要である。「多様性」という言葉は理想が先行しがちな言葉であるからこそ、現状を受け止めることから考えたい。私個人としても、多文化共生を事例に自分の言葉で「多様性」や「ジェンダー」という言葉をアウトプットするヒントをいただいた。今後の「willink」の活動に活かしていきたい。

  

参考資料:Japan Women’s Innovative Network(J-Win) https://www.j-win0.jp/

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日野原由佳の論考

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Yuka Hinohara

日野原由佳

第42期

日野原 由佳

ひのはら・ゆか

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