論考

Thesis

転機に立つ日本の政党

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松下政経塾

1996/3/29

政策調査室では、現在、ドイツの研究機関との共同研究を進めている。日本の政党の現状と問題点について、中間報告をお送りする。

OECDは1996年のアジア地域の経済成長率について引き続き8%を越えるという予想をしている。全世界の経済成長率の平均予測が2.6%であることを考えれば、まさしくアジアは成長のセンターである。経済発展に伴い政治の面でも民主主義が進み、各国の政党も様々な変化に見舞われている。
 松下政経塾政策調査室は、昨年、ドイツのフレデリック・ナウマン財団から「東・東南アジアにおける政党および政党制」について研究プロジェクトの委託を受けた。中国、韓国、ASEANなどの研究機関と共同研究で、日本の政党の特徴とこれからの課題を探るというものである。 日本の政党の特徴といえば「中選挙区制」、「選挙システムの複雑さ」、「政党法がない」などいろいろと挙げられるが、大きな特徴として「組織政党でない」、そして90年代に入ってから特に顕著となった「政党理念の不在」ということがあるのではないだろうか。今月はこの二つを中心に日本の政党政治について分析する。

◆弱い政党組織

 政党とは何か。「選挙を通して市民と政府をリンクさせる組織」(蒲島郁夫筑波大学教授)。しかし、日本の政党は市民と政府をリンクさせる以前にそれ自身、一般党員、つまり市民とのリンクが弱体である。
 参考に、1995年の参議院選挙の比例代表党派別得票数と党員数を挙げてみる(得票数は全国市区選挙管理委員会連合会『選挙時報』1995年8月号、党員数は1996年1月各政党本部からの聞き取りによる)。

  

自由民主党  

約1110万票/約250万人  

社会民主党  

約 688万票/約 11万人         

(ただし協力党員を含む)  

新党さきがけ 

約 146万票/約 3万人  

新進党    

約1251万票/約 49万人  

日本共産党  

約 387万票/約 36万人

 これを見てまず言えることは、ヨーロッパと比べ一般党員の数が圧倒的に少ないということである。たとえば、イギリスは人口6000万に対し、労働党員が600万人、保守党員が530万人いる。ドイツは人口8000万に対し、キリスト教民主・社会同盟(CDU・CSU)員が86万人、ドイツ社会民主党(SPD)員が92万人いる(ただし旧東ドイツ地域〔人口1700万〕がまだほとんど組織化されていないので、それを除外して考える必要がある)。彼ら党員は支持政党の政策を理解し、党費を支払い、ボランティアとして選挙運動に参加する。
 一方日本は、選挙で700万近くの票を獲得する社会民主党(旧・日本社会党)にしても、その党員数はわずか11万人にすぎず、250万人の自由民主党(以下、自民党)、36万人の日本共産党を除けば、各政党の党員数は得票数の4%にも満たない。資格も問題だ。
 そこで政党に代って集票組織の役割を果たすのが、各種の圧力団体や候補者の個人後援会である。その結果、有権者は政党の政策ではなく、政党と利益団体との関わりや候補者個人の業績・個性・将来性などを判断材料とした。ただこの問題には選挙制度が大きく関係しており、党の責任と簡単に割り切れない側面をもっている。1選挙区から3人ないし5人の議員を選ぶ従来の中選挙区制では、一つの選挙区に同じ党から複数の立候補者が出るため、党の政策による差別化ができないという事情があった。日本の政党が大きくなれない理由にはこの他いろいろなことが考えられるが、厳密な意味での政党政治の歴史が浅いということも忘れてはならない。これらの問題点が次に挙げる理念の不在につながる。

◆魅力ある政党理念と政策の不在

 1995年の参議院議員選挙の投票率は44.5%で戦後最低だった。歴史的に見ると、各種の世論調査において「支持政党なし」層が60年代後半以降に激増し、支持政党を持つ人々の中でも「消極的支持」層が拡大している。60年代以降、急速な経済発展によって、それまでに比べ格段に豊かな社会が実現した。そのため、わざわざ政治に積極的に参加したり、関心を持たなくてもそれなりの生活水準は確保されるようになった。
 さらに、冷戦構造の終結によってイデオロギーの対立がなくなり、それまで日米安保や自衛隊の合憲問題などあらゆる問題について対立してきた自民党と社会党の差が、93年に自民党が38年間守ってきた与党の座から落ちたことにより一挙に縮まった。この年、社会党、新生党、公明党、日本新党、民社党、新党さきがけ、社民連、それに参院内会派・民主改革連合の7政党・1会派に支えられて発足した細川政権は、「自由民主党政権の外交防衛政策を継承する」方針を打ち出した。そして翌年、自民党、社会党、新党さきがけは連立政権を組み、社会党が自衛隊合憲、日米安保堅持など政策面で大転換を遂げた。これによって主要政党の政治理念、綱領、政策に違いはほとんどなくなってしまった。
 残念ながらこうした状況はすぐには変わりそうもない。現在、衆議院議員の最大の関心事は、新しい選挙制度の下で当選することだといわれている。小選挙区制の下では51%の支持を得る必要があり、そのため政党には過半数の有権者の支持を得にくい大胆な政策を打ち出すことは難しい、という認識がある。こうしたことがますます市民を政党から遠ざけることになっている。引き続き研究を進めたい。

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