論考

Thesis

公開討論会が政治を変える

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共同研究

1998/8/29

立候補者が自分の政策やビジョンを公開で討論することは民主主義の基本―その思いでこの3年間、公開討論会の可能性を模索してきた小田全宏塾員(松下政経塾第4期生)。彼の活動は「投票に行こう―大海の一滴で大きな変革を」(毎日新聞7月7日)などマスコミでも大きく取り上げられた。今回の参議院選での活動を聞く。

今年7月に行われた第18回参議院選挙は、58.84%という予想外の高投票率の中、幕を閉じた。史上最低の投票率になるだろうと言われ、民主主義の危機が叫ばれていた。おそらくこれほどまでに投票率が問題になった選挙は他になかっただろう。しかし、国民の意識には明らかに大きな変化が生まれている。「棄権」は決して何の変化にもつながらない消極的現状追認である。国民は今回そのことに気がついたのである。
 私は、この選挙に向け、3年前から候補者に対する公開討論会を全国の選挙区選挙で開くことを計画し、実際に24カ所で開催した。公開討論会とは、各候補者が一堂に会し、様々なテーマについて自らの政策や信条を述べ合うものだが、こうして各候補者の考え方を並べるとその違いは歴然とする。また東京では日比谷公会堂において憲政史上始まって以来の各党の党首と幹事長による政策討論会を実現した。憲法には主権が国民に存することが明記されているが、どれだけの人が自分の自覚的な判断に基づいて投票しているのだろうか。私たちが開催した公開討論会に足を運んだ人は「選択」の大切さに気づいたようだ。

 私はこの公開討論会運動を「リンカーン・フォーラム」と名づけた。この名はリンカーンがゲティスバーグで語った「人民の人民による人民のための政治を滅ぼしてはならない」に由来している。ところが、今の公職選挙法では、第三者が各候補者を一堂に集め討論会を開くことは原則として禁じられているため、実現には様々な紆余曲折があった。しかし実際に開催してみると、どの会場の参加者も熱心で関心の高さをうかがわせた。
 各候補が有権者の前で信じるところを開陳し、議論することは民主主義の原点である。今回の参院選では自民党が大敗したが、これは野党が勝利したというより、迷走した自民党が自壊した結果にすぎない。もし今回の投票結果を野党が「勝った勝った」と喜ぶならば、たちまちその熱狂は衆愚政治に陥ってしまうだろう。

 松下政経塾では「政治を正さなければ世の中はよくならない」というスローガンを掲げて活動してきた。しかしその主体者は「政治家を志す者」ではなく国民であることを今一度自覚しなければならないだろう。
 私は今回の活動を通して「政治」という世界の大変さをしみじみと感じた。そして、私たちが何のために政治の世界に参入しているのか、原点に立ち戻らなければならないことを痛感した。国民は飾り立てられた偽善の言葉でなく、その政党や候補者の内側からほとばしり出た真実のメッセージを待っている。私はこの公開討論会が全国に広がることによって、日本の民主主義が成熟すると確信する。来る統一地方選挙や衆議院議員選挙では、すべての選挙区でこの公開討論会の嵐を起こし、真の国民主権を樹立するきっかけになればと思う。どうか松下政経塾出身の議員の方々も有権者の前で勇気を持って日本の将来を論じてほしい。
 日本は今、待ったなし。国民一人一人の小さな意識改革がやがて大きな力になることを信じるのである。

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