論考

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統一問題で問われる韓国の対応

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1996/11/28

潜水艦侵入事件や外交官テロ疑惑、中距離ミサイル発射実験計画など、次々と国際問題を引き起こす北朝鮮。とはいえ、南北統一は近いというのが大方の専門家の見方である。その日に備え、韓国はどのような対応をとればよいのか。

◆北朝鮮政治権力の行方

 北朝鮮の今後については、「急速な崩壊論」「軟着陸論」「軍事冒険論」と様々なことが言われているが、最も現実的なのは「現在の経済危機を乗り切ることは難しく、結局、崩壊に至るだろう」という説である。それは、金正日政権が中国型の改革・開放を進めざるをえないにもかかわらず、体制内部の限界により実行できないでいるからである。
 今現在、あるいはすでに北朝鮮は崩壊のプロセスに入っているのかもしれない。しかし、金正日権力体制の崩壊がそのまま北朝鮮の崩壊につながるわけではない。
 金正日に取って替われるほどのカリスマ性をもった人物が存在せず、また改革エリートグループによる 集団指導体制の実現もないとすれば、軍部による集団指導体制が現れる可能性が一番高いが、そうなると軍部の集団指導体制は改革と保守政策の間を揺れ動きながら、階層間、地域間の軋轢と矛盾により崩壊の道を辿ることになるだろう。

◆韓国の統一政策

 このようなシナリオが最も説得力を持って語られている現状の中で、韓国は対北朝鮮政策にどのような方向で取り組むべきだろうか。
 まず、今年9月に起きた北朝鮮の潜水艦侵入事件と外交官テロ疑惑で回復できない状態にまで至っている南北関係の硬直化と韓国の強硬な対北朝鮮対決政策の意味から考えてみたい。

 韓国の対決政策が成功を収めるためには、1)韓国が北朝鮮を崩壊に導けるくらい優勢な圧倒的力を持っていること、2)周辺諸国がすべて韓国の吸収統一を受け入れるか、少なくとも積極的に介入してこないこと、という二つの条件が必要である。
 しかし、現実にこうした条件が満たされる可能性は非常に低い。また仮に統一の機会が与えられたとしても、莫大な統一費用を負担する力は韓国にはない。
 したがって、あまり強硬な対北朝鮮対決政策は、韓国の世論や右翼支配階層に対する政治的ゼスチャー以上の意味を超えてはならない。報復のために戦争をも辞さないというような極端な対応は、かえって韓国の国際的孤立を招きかねないということを考慮する必要がある。

 これまでいろいろと話のされてきた統一シナリオの中で、北朝鮮の軟着陸を通じた統一案が最も望ましいとするならば、韓国は北朝鮮がロシアや中国の例に学び、体制矛盾を克服できるように改革・開放に積極的なエリートグループの形成を助けることに政策の重点を置くべきである。
 そのためには、南北間における相互体制の認定と信頼関係の回復をめざしながら、民間中心の経済交流を積極的に推進するのが望ましい。朝鮮民族の自主的な統一に向け、韓国は北朝鮮の経済改革・開放政策が順調に進むよう、最高のパートナーとなるよう努めるべきである。
 特に、民間部門での経済交流の活性化は、最も有効な方法の一つであるので、政府はより多くの企業が安心して対北朝鮮投資を行えるように、相互信頼関係の形成などを含めた投資の環境作りに努力すべきである。
 地政学的に朝鮮半島は極東の軍事的な要衝地にあり、周辺諸国の利害関係が複雑に絡み合っているという特殊性を持っている。それゆえ朝鮮半島の統一問題は、単に南北朝鮮の 当事者だけの合意や統一願望だけでは解決できない。韓国は積極的に統一外交政策を展開し、民族の自主統一に向けて主導権を握るべきである。

◆統一実現に向け、原則に立ち返れ

 冷戦時代の同盟友好関係やイデオロギー次元での一方的な支援は急速に減りつつある。ここで韓国国民と政府は、基本原則にたち返って統一課題に取り組む必要がある。
 第一に、民主政治の成熟と経済的力の蓄積を通じて、自由民主主義体制の優越性を確実なものにする。これら二つの力が朝鮮半島の統一を推進していくうえで、最も大きな原動力となる。
 第二に、朝鮮民族の自主平和統一をめざす。民族統一は基本的には南北当事者の問題であり、外国勢力への依存や介入による統一は有り得ないし、また望ましくない。
 第三に、南北対話と交流の窓口を多様化する努力を払う。市・道・郡レベルの地方自治団体および民間における営利・非営利団体が経済・学術・文化・スポーツなどの諸分野で 活発に交流を図る。そのために法律的、制度的な準備を整え、統一問題に関する政府次元での規制を緩和する。
 第四に、統一に対する実質的準備をする。南北が経済統合を成し遂げるためには、北朝鮮の一人当たりGNPが少なくとも韓国の60%の水準に達しなければならないという研究報告がある。だとすれば必要とされる統一費用は約1兆ドルとなる。これを確保するため「統一税」などの法律を制定し、15~20年の長期計画で資金を貯めるなど実質的な準備を進める。
 その他にも両体制の統合のために、制度や法律に関する専門研究機関を政府レベルで設立し、政治・経済・社会・文化・教育・宗教などあらゆる分野で具体的な政策を研究する。
 第五に、周辺諸国との友好協力関係を強化する。韓・日・米の協力体制はもとより、北朝鮮に対して決定的な影響力を持つ中国との協力関係をより緊密なものにする。そのためには、東アジア地域の共同繁栄に関する明確なビジョンを示し、統一韓国が極端な民族主義に陥らないよう具体的な地域の協力体制を提示する。


(チョン・ヒージェ 1957年生まれ。ソウル大学法律学部卒。)

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