Thesis
先頃、韓国国防大学院の韓庸燮(Yong-Sup Han)教授が松下政経塾を訪れ、緊迫する北朝鮮情勢と、今後の対応策について講演を行った。その講演内容の要約を以下に紹介する。
現在、北朝鮮については「急速な崩壊論」、「軟着陸論(ソフト・ランディング論)」、「軍事冒険論」という3つのシナリオが言われています。第1の「急速な崩壊論」は、北朝鮮はいずれ崩壊するという前提の下に、それは近いと見るものです。駐韓米軍司令官のガリ・E・ラクは、米国議会で北朝鮮は間もなく崩壊すると証言しています。この論を主張する研究者たちは、そのプロセスを次の7段階に分けています。
そして北朝鮮は現在、第3段階か、あるいは第4段階にあり、暴動の主導者に時々公開処刑が行われているといいます。
これに対し、北朝鮮がこの第4段階から第5、第6段階に自動的に移行することはないという意見があります。これが、北朝鮮は徐々に改革・開放政策を進め、時間はかかるが韓半島は安定するというソフト・ランディング論です。その論拠は次の点です。第1に北朝鮮は金正日体制により完全に統制されている社会であり、北朝鮮の民衆は1日に1食でも与えられれば自ら立ち上がることはない。第2に金正日体制にはいかなる分裂の兆しも見えず、また金正日に取って代われる者もいない。第3に北朝鮮の食糧危機を過大に受け止めすぎている。実態はそれほど深刻ではない。第4に北朝鮮にはまだ経済回復の力があり、改革・開放政策を推進し、外国の経済援助を得られれば、体制の改革は可能だ、というものです。
しかしこれにも批判があります。まず北朝鮮経済は5年間マイナス成長で、全く回復の見込みがない。さらに食糧危機は農業の構造的な欠陥の現れであり、政治構造を含めた社会の改革なしには打開できない、といったことです。
第3のシナリオは、国内的な危機を乗り越える手段として韓国に攻撃を仕掛ける可能性が高いという見解です。これは、北朝鮮の現体制は国家管理能力を失っており、軍事力によって統治されている兵営国家であるという見方に拠るものです。実際、北朝鮮は国家予算の約30%を軍事にあて、その軍事力の3分の2以上を前方地域に集中させています。
この3つのシナリオの中で何が最も現実的でしょうか。それは皆さんの判断にお任せするとして、判断に当たっては事実を正確に認識しておく必要があります。私は、金正日の能力はあらゆる面で父の金日成に遠く及ばないとみています。北朝鮮の経済状況は悪化の一途で、GNPは1989年に比べ30%も減少し、ここ7年間は食糧危機が続き、海外駐在の大使館は20カ所閉鎖されています。こうした現実をみると、北朝鮮に国家としての能力はもはやなく、そのために必死に米国との関係改善を図ろうとしているのだと分かります。米国との関係改善がなければ、安全保障の面だけでなく、経済援助も期待出来ず、国内問題の解決はありえないからです。
そこで「長期にわたる崩壊論」とも呼ぶべき第4のシナリオが浮上してきます。北朝鮮には軍内部の対立もなく、改革の意志をはっきり持つ集団もない。ゆえに経済危機を乗り切ることも出来ないが、短期的な崩壊に至る可能性も低い。結局、長期にわたり徐々に崩壊する。
では、北朝鮮に対し、どのような態度で臨めばよいのでしょう。
これには「サンシャイン・ポリシー」と「ウィンド・ポリシー」という2つの考え方があります。前者は北朝鮮の軍事冒険を心配し、北朝鮮の改革・開放を導くために経済援助を行い、市場経済や国際秩序のなかへ引き込むべきだというものです。具体的には「条件無しの援助論」と「条件付きの援助論」に分かれます。米国は前者を主張し、それに必要な費用は韓国と日本に負担させようと考えています。しかし私は北朝鮮の核開発放棄や軍事挑発の放棄を条件とする「条件付き援助論」が妥当だと考えます。
他方、「ウィンド・ポリシー」とは強硬な態度を柱とするもので、こちらもハードとソフトの2つに分かれます。前者は積極的な制裁を支持するもので、後者はこのまま放置すれば国際的孤立に耐えられず、援助を求めて協調的な態度を取るようになるというものです。
そこで最後に、具体的な対応策として次の2つを提案します。まず1つは、この問題には韓、日、米が相互協力してあたるということ。中国とソ連の分裂を利用し利益を得るという、北朝鮮の外交戦略を思い出してください。この戦略は今日でも変わっていません。ですから北朝鮮に利用されずに北朝鮮の態度を変えさせるには、韓、日、米の相互協力が不可欠です。
もう1つは、四者会談を通じて、現在の休戦協定を平和協定に変えることです。北朝鮮を国際社会に引き出すには、休戦協定の当事者である中国と北朝鮮に、国連司令部の中心国である米国と、韓国を加えた四者会談を行うのが最善の策です。それによって韓国と北朝鮮の相互信頼の回復を図り、韓半島の軍備縮小を進めます。こうした努力は、北朝鮮の不安定な将来に対し有益でしょう。
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