論考

Thesis

「連帯」を生んだ造船所破産

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1997/1/29

ポーランドは昨年7月、OECDに28カ国目として加盟した。旧共産圏の東欧では3番目である。しかし、現在のポーランドを象徴するのは、OECD加盟よりも東欧民主化のさきがけとなった「連帯」を生んだグダニスク造船所の解体問題であろう。

1980年8月31日。この日、ポーランドの北西にあるグダニスク造船所(旧レーニン造船所)では、1946年の共産化以来、最大規模の反政府集会が行われた。1万人以上が参加した集会の重要議題は、食料品の値上げと造船所運営をめぐる共産政権の無能と無責任を追求することだった。
 集会主導者は後に大統領になった自主管理労組「連帯(ソリデリチ) 」のワレサ氏。同時に、この集会はポーランド史上、および世界労働運動史上においても重要な1ページを飾ることとなった。後日、「連帯」創立記念日として記録されることになった。
 以後16年の歳月が流れ、1996年8月31日、元「連帯」の同士たちは、16年前のあの熱い日の思いを問い直すため、ワルシャワに集まった。参加者は10万人以上。行列は5㌔メートルにも及んだ。ポーランドの現地マスコミによると、ポーランドのどんな有名人も、どんな団体も動員できない数の大規模な集会だったという。
 しかし、表面的な派手さとは別に、今回の記念行事は今までの集会とはまったく異なる状況のなかで行われた。「共産党政権は投資誘致という名目で外国企業に祖国の土地を売っている。共産党政権がやっている投資誘致が労働者のためなのか、共産党員のためなのか検証すべきである」。集会は始めから終わりまで、一貫して政府を糾弾する発言が続けられた。

 現在、ポーランドを含む東欧諸国は自由市場経済に向けて、社会構造の転換を急いでいる。そこで資本力のない国は、経済開発のきっかけとして海外資本の受け入れを率先して行っている。海外資本の導入というのは、つまるところ「自由化に基づく競争の論理」を意味する。
 「連帯」が直面している問題は、このような競争原理の中で必ず現れる既存秩序の再調整、つまり失業と人員削減である。96年8月8日、2百万人余りの「連帯」組合員は、この問題に直接対峙することとなった。非能率の象徴として注目されて来たグダニスク造船所に対して、グダニスク地方裁判所がついに破産を正式に宣告したのである。破産の理由は 1億2千万米ドルに上る負債である。造船所で働いて来た7千人の労働者たちは、一転して勝利の勇者から失業者に転落してしまった。

 「連帯」神話の象徴であるグダニスク造船所の破産宣告は、国営企業で働いている「連帯」組合員全員に強い衝撃を与えた。グダニスク造船所の破産は、当然他の国営企業にも影響を与えると予想されるからである。「連帯」の赤い旗の下に、かつての同士たちが集まった理由は、このような危機意識のためであった。
 そして自分たちの利益を守るため彼らがとった道は、政府の国営企業整理策に対抗する手段として、「連帯」の立場を直接国家政策に反映させられるように、今秋行われる総選挙に「連帯」から候補者を立てるという決議案を採択したことであった。これが「直接行動」と言われる「連帯」の手法である。
 しかし残念なことに「連帯」のこの行動は、ポーランドの一般の国民感情とは相容れなかった。

 「記念式で国民が確認したことは、共産独裁政権を崩壊させたかつての『連帯』の姿ではなく、見苦しいまでに過去の栄光にしがみつく名分なき『連帯』の姿、それだけであった」。ポーランドを代表する英字新聞VOICE紙は、「苦い16年間(Bitter Sixteen)」と題する記事で、「連帯」の主張はいまや国民の考えとまったく異なる時代錯誤的なものだと論評した。
 80年代の体制変化志向から、90年代初めの体制改革志向、そして21世紀を目前に控えた現在はこれ以上の変化を望まない既得権保持志向へと、「連帯」は変身した。
 80年代に「連帯」が掲げていた「参与と連帯、自由と民主」というスローガンは、急激に変化する現在の経済構造下で「年金保障と住宅手当新設、復職優先」といったより現実的で実質的なものに置き換えられた。もはやグダニスク造船所と「連帯」は、ポーランド国民にとっては革命でも神話でもなく、何の価値もないただの処分対象にしか過ぎなくなっていたのである。


(ユー・ミンホー 1962年生まれ。延世大学卒。ソウル大学行政学研究科終了。)(文責・編集部)


1996年6月11日、政府がグダニスク造船所の閉鎖を決定したのに対し、座り込みで抗議する労働者たち。(写真提供:ワールドワイドフォトズ)

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