論考

Thesis

道路特定財源の一般財源化だけでは不十分 ~全国総合開発計画と16本の長期計画廃止の必要性~

「聖域なき構造改革」という大号令の下、「国債発行の30兆円以内への抑制」、「地方交付税交付金の見直し」、「特殊法人の見直し」、「公共事業の見直し」などを柱にスタートした小泉内閣。発足から半年が過ぎ、ようやくその真価が問われている。そんな中、構造改革の焦点として浮上してきたのが道路特定財源の一般財源化である。この問題について、民主党の前原誠司衆議院議員に話を聞いた。

財政事情が厳しい中で、国債発行を30兆円以内に抑えて財政再建の道筋をつけたい小泉首相の意向と、特定財源(注1)をできるだけなくし、予算配分のフリーハンドを持っておきたい財務省の思惑が合致し、道路の整備に使われる道路特定財源(注2)の一般財源化に「構造改革」の矛先が向いている。
 動機はどうであれ、この方向性は正しい。なぜなら、大まかにいって、道路は特定財源という財政的裏づけがあるという理由で作り続けられるのが当然のこととされ、道路と空港を除く公共事業のほとんどは借金、つまり建設国債でまかなわれることになってしまっているからである。そのため、道路と空港以外の公共事業を行おうとすれば、必然的に財政悪化が進むことになる。
 特定財源の一般財源化に話が及ぶと、当然、暫定税率(注3)の見直し論が出てくるが、現状の税収不足では、本則税率に戻せないことは国民も納得せざるを得ないだろう。問題はむしろ、既得権益を失うことになる国土交通省と、道路族といわれる族議員の抵抗である。
 しかし、道路特定財源の一般財源化だけで、公共事業の根本的な問題点、たとえば規模そのものの過大さ、無駄の多さ、談合などによるコスト高、あるいは縦割り予算による使いきり主義などが是正されるわけではない。道路、治水、治山、空港整備、港湾、公園、下水道などの予算枠を定めた長期計画と、同時にその大枠を決めている全国総合開発計画を廃止しなければ、公共事業費の削減はおろか、縦割り予算消化主義の悪弊は根本的に断ち切れない。
 本来、治山・治水・海岸の護岸整備は一体でやるべきである。なぜなら山の保水能力を高めるために山の手入れをしっかりしておけば(治山)、河川への負担は少なくてすむ(治水)。したがって、土砂を堆積させるダムや河口堰といった巨額の費用がかかる巨大構造物を作る必要性が減り、自然流が確保されることによって土砂が海に流れ込み、海岸の土砂の流出を防ぎ、護岸工事の必要が減るからである。しかし、現実は、それぞれ管轄が異なるため、別々の長期計画に則ってまったく別個に行われている。治山は農林水産省、治水は建設省、護岸整備は運輸省である。今年から建設省と運輸省が国土交通省に統合されたので、表面上、治水と護岸整備は国土交通省に一本化されることになったが、扱う局が違うため、結局は以前と変わらない。
 必要なことは、仕事の非効率とそれに伴うコスト高を生む16本の長期計画を廃止し、公共事業費枠は一本化することである。同時に、補助金行政の弊害として何でも国に頼む悪弊をなくすため、できるかぎり財源と権限を地方に委譲し、限定された財源の中で、「あれかこれか」という優先順位に基づいた選択を、住民自身が行う仕組みを作ることである。政治家や首長に頼んで公共事業を引っ張ってくるといった今までのやり方は、過去へ葬り去るべきである。
 
(注1)使途が特定された財源のこと。道路特定財源の他、都市計画税などがある。
(注2)揮発油税・軽油引取税・自動車取得税などで、道路整備以外に使用することができない。
(注3)道路特定財源の税率は、法律で決められた税率(本則税率)ではなく、平成15年3月末迄の暫定措置として、一時的に決められたもの。これを暫定税率という。一例を挙げると、揮発油税は本則税率ならば24.3円/リットルだが、暫定税率として48.6円/リットルと2倍の税が課せられている。

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前原誠司の論考

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Seiji Maehara

前原誠司

第8期

前原 誠司

まえはら・せいじ

衆議院議員/京都2区/国民民主党

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