論考

Thesis

新聞づくりの現場から

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共同研究

1999/7/29

新聞の紙面は世相を的確にあらわす。新聞を読む時、まず目に入るもの、それは「見出し」だ。私たちはタイトルによって記事を選択し、記憶に留める。整理記者として見出しづけを行っている仲野豊塾員(松下政経塾第1期生)に新聞の紙面から見た現代日本について語ってもらった(甲斐信好)。

「何でもありだな」。同僚記者がつぶやいた一言に、妙に納得した。常識で計り知れない事態が連日起きる昨今である。大は阪神淡路大震災、地下鉄サリン事件から、自社連立政権、神戸の中学生連続殺人、大銀行や名門証券会社の破綻など、一面トップ級も目白押し。しかし、社会面だって大ニュースからベタ記事まで「エーッ」と驚くネタには事欠かない。
 教育現場の荒廃は目を覆うばかりである。中学校で教師が生徒に刺殺される。校長がセクハラを行い、女性教師が教え子に淫らな行為をするという三文小説もどきの事件もあった。家庭もひどい。実の母親がパチンコや果ては男友達と遊びに行き、幼い子を死なせてしまう。「鬼の母」という見出しは今や人権の制約から使えないが、鬼もたまげて地獄に逃げ帰るような残酷なせっかん死も続発している。時間に追われ見出しをつけながらも、疑問と怒りは尽きることがない。常識という人間の規範が、音を立てて崩れているように思う。

 怖いのは、その様な「非常識」「異常」が、日常化によって気にも留められなくなることだ。新聞紙面でもパチンコ中の子供の死の扱いは、小さくなる傾向だ。住専への公的資金は6700億円余りで日本中が大騒ぎしたが、今回の銀行への公的資金の投入は数十兆円単位だが、すんなり通った。ゼネコンへの債権放棄となっても、批判の声は小さい。数百兆円という財政赤字も1200兆円という個人金融資産があれば大丈夫ということか。億単位の脱税、千万円単位の盗みにもそれほど驚かなくなった。数万円のコンビニ強盗の記事など、穴埋めにしかならない。「自分の体を売ってなぜ悪い」と開き直られれば答えに窮する援助交際など、買った側が特殊な立場でもない限り記事にもならない。根は限りなく深い。
 防衛、外交、経済、社会etc.etc.考えるべき問題は無限にある。だが、一般の最大関心事はというと、ひょっとすると2大熟女の過熱論争かもしれない(私は女性誌とワイドショーはマスコミとは区別してほしいと願っているのだが……)。あおられた話題で流行を追うのでなく、自ら関心を持って考える姿勢―これは「人間の条件」でもあると思う―を踏まえて今後も新聞づくりに生かしていきたいと考えている。

 紙面制作技術は、私が携わって来たこの十年の間にもずいぶん進歩した。カラー写真が増え、地球のどこからでも現像なしに新しい映像が飛び込むようになった。ワープロ、パソコンの使用で原稿も早くなり、掲載記事の引用や参照も容易になった。印刷を行える拠点も増え、テレビにこそかなわないがかなり短時間で紙面化できるようになった。15年前は朝刊に大相撲の結果を載せるのがやっとだった新潟でも、前夜の選挙結果がかなり入れられるようになった。インターネットの活用なども含め、技術は着実に進んでいる。
 だが、いつの時代でも変わらないのは、携わる人間の意識と能力だ。不正や疑問は正し、生の人間が主役のドラマに泣き、笑い、怒る。そしてその基準として「常識」を忘れないこと。「第一の読者」といわれる整理記者歴も十年となった。改めて基本に立ち返って仕事に励みたいと思っている。

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