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2022年6月

塾生レポート

日本を海洋大国にするための第二歩:ノルウェー・アイスランドの水産現場から、日本の漁業資源管理制度について再考する
松田彩/松下政経塾第42期生

 

はじめに

 2022年7月の塾生全学年参加のイスラエル合同研修後、筆者は、アイスランドとノルウェーに約3週間滞在し、離島を含む生産者、水産加工事業者、商社、エコノミスト、The Directorate of Fisheries(現地の水産庁)、研究者など、多岐にわたる意見交換をした。
 アイスランドとノルウェーは、漁業管理手法において、いち早く、総漁獲可能量(Total Allowable Catch、TAC)の設定、そして個別漁獲割当(Individual Quota、IQ)の導入をして、持続的に大量に漁獲しているという事実から、世界の中で水産資源管理の優良事例として位置づけられている。
 一方、日本では、平成の終わりに、70年ぶりの漁業制度改革が行われ、水産資源管理はTACに基づいて管理を行うことを基本とする規定となった。令和2(2020)年度から改正漁業法は施行されたが、筆者が今まで実践活動をしている中で、現場の足並みがあまり揃っていない実態が見えてきている。
 今回のレポートでは、漁業資源管理制度の比較を通して、日本の現行システムについて議論し、制度改革の過渡期を迎えている日本にとって、最適なスタイルとはなにかを考える。


1、アイスランド・ノルウェーで見た漁業資源管理制度とは?

 アイスランドとノルウェーには、産業従事者への補助金は一切ない、[1]それぞれ自国内での情報を統合した透明性の高い漁業資源管理システム、数千トンの船を保有する大規模な商社によって国全体の約94パーセントの漁業が為される、など、日本の漁業状況とかなり違う。科学者が科学的に資源量を調査し、TACという天井を決めた上で、IQにより各法人、各船舶、各漁民の最大可能漁獲量が決められる。効率化は図られ、資本力があれば、割当を買い、魚を最大限捕り、儲ける。まるで割当の奪い合いと言っていいほど、「Quota」に絶対的価値が置かれている。
 その割当の根拠は科学者によるデータだが、どうして、ここまで未完成の科学データを信じられるのだろうか。そもそも、2ヶ国共、公共信託法理の理念を基礎としていて[2]、国民から信託された政府にとっては、国民共通の財産である水産資源を管理することが義務である。科学者は、ルール設定の拠り所を提供し、国はトップダウンでアウトプットコントロール[3]をしなければならないのである。
 また、どれだけ地方地域や離島に行っても、ITが普及していて驚いた。船の大きさに関係なく、漁が終わり、浜に戻る前に、現時点で漁獲高がどれだけあるかオンラインのプラットフォーム上での報告義務がある。浜に戻ってくるとき、その報告の数字から10パーセント以上漁獲が増えていた場合は、処罰される。
 ノルウェーの漁獲物の約80パーセントは大規模な船で行われるが、洋上でオークションが行われ、デンマークやイギリスの港に水揚げすることもある。離島などの個人小規模の漁民の場合は、顔なじみの業者の場所で水揚げすることが多い。



(ノルウェーの漁業セクターへの補助金は1980年代にピークになったが、2012年にゼロになった)



(電子オークション中。)



(左:アイスランドの水産庁でヒアリング。右:大規模漁業関係者にデータを提供するエコノミストと)



(いつもの浜で、いつもの関係で、和やかな雰囲気で獲ってきたお魚を計量中。将来は漁師になると決めている中学生も手伝っていた。)



(ノルウェーの離島Runde島にある、浜で水産物を引き取る会社にて。Sunnmøre og Romsdal Fiskesalgslagというプラットフォームで、次は、いつくらいに、どの船がどの魚種をどれくらい運んでくるか確認していた。)



(船の名前や製品の状態、誰が受け取ったかなど、誰でもアクセスして確認できるサイト)



(ノルウェー近くから、アイスランドの離島であるウエストマン島に到着した、驚くほど大量のサバ。日本漁業に比べて、はるかに大規模ということがわかる。)


2、日本の伝統ある漁業管理システムと、混乱する現場

 一方、日本の漁業は、江戸時代から連綿と続く共同管理システムが元となり、明治時代になって近代法律を被せているだけの形で行われている。「地元漁業者による資源の保護・培養」[2]という理念のもとでの自生的制度を背景とし、インプットコントロール[4]を中心に進められてきた。日本の全国津々浦々の沿岸では、漁協を中心とした共同体で、人々の話し合い、人間関係ベースによって多様な小規模漁業の海面利用調整が為されている。
 そのような地域ごとでの慣習に基づいた日本のインプットコントロールでは、結局、国全体で一年間でどれだけ漁獲が為されたかは、統計を取った後からでしか分からない。最終的なアウトプットが管理できないこの手法では乱獲につながると、国際社会に限らず、国内でも非難されている。令和になり、ようやく、世界のスタンダードのアウトプットコントロールに寄せた漁業制度改革が舵を切られたというわけである。
 しかしながら、現場は混乱している。例えば、今年6月末に鹿児島市内で行われた、TACに関する漁獲管理の説明会では、阿久根市のイワシ加工業者さんが、「韓国沖で捕れる魚群と同じなのに韓国とは協議ができていないし、何故かカタクチイワシの漁獲管理にしらすは含めないから、実質的な意味を持つ漁獲管理にならないだろう」と言われていた。「机上の空論で漁師の首を絞めているだけ」「わざわざ禁漁期間を設けたりしても、巻網がごっそり取っていくなら漁獲管理しても意味がない」などという声も聞かれた。それでも、何もしなかったら、資源は確実に減ると考え、管理はしていかなければならないことは、分かっているということだった。ただ、どのように=「HOW」という部分の合意形成が、関係者の中で全く為されていない。しかも、阿久根市の漁師さんたちは、漁の最盛期に行われた説明会には誰も参加できていなかった。



(鹿児島県阿久根市のイワシの加工会社さんの様子)


3、科学的管理だけではない日本の自主的管理

 確かに、アイスランドやノルウェーの大規模管理と、収益性第一の経営手法には圧倒されるものがあった。しかし、世界的に進んでいると見なされている、このようなTACやIQのアウトプットコントロールを主としたやり方が、果たして日本漁業に合っているのだろうか。
 「日本政府も我々の方式を推進していった方がいい」と、アイスランドとノルウェーのヒアリング先で言われ続けていたが、ロフォーテン諸島のノルウェー海藻協会の方からは、細部の管理を現場に任せる、ボトムアップ的な日本の管理システムを褒められ、嬉しかった。日本は漁村や漁港によって規模も魚種も漁法も違い、一概に一律の政策を振り翳せない。漁師さんたちが話し合って、禁漁期間を定めたり、網の目のサイズを変えたりなど、自主規制をしながらそれぞれの漁場を守っている。
 隣の芝生は青く、他国の資源管理はうまくいっているかのように見えるのかもしれないが、ノルウェーの漁業改革も相当な年月を要し、1960年代にニシン資源、1980年代にタラ資源が崩壊したことにより、合理的な漁業管理が推進されたという経緯がある。漁船別個別割当(Individual Vessel Quota,IVQ)導入により、多くの小規模漁民、特に北部の漁業者はサーモン養殖や油田事業の労働者となった。漁業従事者が激減し、水産加工業など関連産業も打撃を受けたが、地方や離島から人がいなくならないように、政府は、地域維持政策として、所得税などの減免といった優遇を図っている。
 このように、ノルウェーでも地域差があり、未来の方向性が合わないという理由で2020年に南北で漁協の組合が分裂したが、日本漁業者はノルウェーの漁業者の約10倍、漁船数も約200倍、魚種もかなり多様であり、大規模に漁業を行うことは不可能である。
 昨今、「No one will be left behind」という理念が浸透し、グローバルスタンダードも変わりつつあるので、漁協を中心とした人間組織、信頼関係、創意工夫を大事にしながら、日本独自の「共同管理」を続けてほしいと考える。


おわりに

 今回のレポートでは、漁業資源管理制度という側面から、アイスランドとノルウェーの水産現場を分析し、日本にとっての「国際的にみて遜色のない科学的・効果的な評価方法及び管理方法」[5]とは何かを再考してみた。
 日本各地の浜を歩いて生産者の方々と話す中で、水産庁への風当たりは強いと感じていて、政府が強引にトップダウンで改革を進めているようでは、現場はついてこないことも体感できた。しかし、水産庁の職員たち始め、政治関係者もそれぞれの現場を把握できていないまま、TAC等の数字を決めていかなければならないのは重々承知の上である。
 筆者は、世界の中の様々な立場の人と関わりながら、俯瞰的に産業や環境をみて、最終的に経済性とのバランスがとれる、日本の水産業の未来を政治的に判断できるようになるまで、引き続き研修に励みたい。従来の方法でも、アイスランドやノルウェーの方法でもない、日本の現状に即した価値基準を創造し、世界へ堂々と打ち出し、日本の水産資源管理の手法も世界のスタンダードのひとつの形とできればと考えている。




[1]Gullestad, Peter & Aglen, Asgeir & Bjordal, Åsmund & Blom, Geir & Johansen, Sverre & Krog, Jorn & Misund, Ole & Rottingen, Ingolf. (2013). Changing attitudes 1970-2012: Evolution of the Norwegian management framework to prevent overfishing and to secure long-term sustainability. ICES Journal of Marine Science. 71. 173-182. 10.1093/icesjms/fst094.
[2]牧野光琢、坂本亘、(2003) 日本の水産資源管理理念の沿革と国際的特徴 日本水産学会誌69:368-375
[3]TACの設定等により漁獲量を制限し、漁獲圧力を出口で制限する産出量規制
[4]漁船の隻数や規模、漁獲日数等を制限することによって漁獲圧力を入り口で制限する投入量規制
[5]水産庁、「水産政策の改革について」7頁、https://www.jfa.maff.go.jp/j/kikaku/kaikaku/attach/pdf/suisankaikaku-40.pdf
2022年6月 執筆
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