論考

Thesis

日本を海洋大国にするための第五歩:カリブ海諸国との関係から考える日本の安全保障とは~

はじめに

 筆者は、2023年4月、カリブ海に浮かぶ3か国を巡行した。中国や北朝鮮と外交関係があるアンティグア・バーブーダ、台湾承認国であるセントルシア、また先住民生存捕鯨を行っているセントビンセント及びグレナディーン諸国(以下、SVG)の3か国である。カリブ海はアメリカに近く、社会主義国キューバも北側に位置している。さらに、フランスやオランダなどの領土の島嶼国もあるので、帝国主義時代からの名残を感じる。そのため、世界情勢や国際秩序を考える上で、カリブ地域は非常に示唆に富んでいる。このレポートでは、日本の安全保障についてカリブ海諸国との関係[1]から論じる。

日本とカリブ海諸国の関係

 正式な外交関係は、宗主国イギリスからカリブ海諸国が独立した後にさかのぼる。[2]基本的に、日本は国際協力機構(JICA)を通じて、建物やエンジンなどのインフラ提供だけでなく、技術や制度づくり、人材育成といった協力も、長年行っている。カリブ海諸国も、日本と同様に地続きの国境を持たない島嶼国であり、特に、漁業という観点からは共通点も多く、日本のもつ漁業振興のノウハウが、水産技術協力という形を通して、持続的な開発・管理に貢献している。そして、日本とカリブ海諸国との経済的なつながりを強化している。

国際協力機構(JICA)セントルシア事務所にて。一番右側は所長の三村一郎氏。右側から二番目が筆者(2023年4月17日、撮影・筆者)

 

セントルシアの漁港にあった、この施設や機械が日本から送られたことを伝える看板。セントルシアに限らず、SVGやアンティグア・バーブーダの漁港や市場などでも見られる。(2023年4月17日、撮影・筆者)

 

ブルーエコノミー推進の取り組みのひとつである海藻養殖場にて(2023年4月18日、撮影・宮原徹也氏(JICA水産案件専門家))

 

 漁業におけるこの強い結びつきは、そもそも捕鯨から始まっているのはご存じだろうか。「鯨類を含むすべての水産資源は、科学的根拠に基づき持続的に利用すべき」[3]だという日本[4]の理念を共有しているカリブ海諸国の数票があることで、国際捕鯨委員会(IWC)の総会で反捕鯨国と戦えている現実がある。

カリブ諸国との協力関係から日本が得られるものとは 

 筆者は、「世界においてGDP第三位である経済大国の日本が、見返りが捕鯨国劣勢のIWCでの票のみという、そのような小国との関係に日本国の予算を使うのはいかがなものか」と質問されたことがある。このように、カリブ諸国が小国だという認識の人もいれば、地球のどこにあるかすらわからない人もいるほど、日本人にとって馴染みは薄い。
 しかしながら、筆者は、水産関係の国際会議だけに限らず、日本の目標である国連安全保障理事会の常任理事国への道に大切な「一票」が、これらの友好国からあることが軽視されてはいけないと考えている。
 2023年3月末に、中米のホンジュラスが台湾との外交関係を終了したニュースがあったように、中国の巨額の資金援助により、中国との関係が近い発展途上国が増えている。目先の利益のため、諸外国の投資金額に自国の政治信条が左右されるのも理解できないわけではないが、日本としては、世界において平和と民主主義の定着を図るため、同じ価値観を共有する国を減らさない外交努力や訴求力が必要となる。そして日本の地道な国際貢献が、世界の平和と安定につながることを証明していくべきなのである。

日本からアンティグア・バーブーダに贈られた水産局の建物の前にて。左側はHassett Julian氏(The Chairman of Antigua Fisheries Limited)。(2023年4月24日、撮影・Senator Shenella Govia)

 

見えた解決すべき課題

 カリブ海諸国の道路を走っている自動車の8割以上が日本車[5]だということに、率直に驚いた。「日本車は同じ右ハンドルだというのがまず一番。そして、リーズナブルで、とてもタフで壊れない。」と現地の人々は口々に言う。筆者が日本人だと分かると決まって、日本語のままのナビについての質問をされたのは余談であるが。しかしながら、やはり世界のトレンドは電気自動車になりつつあることは否めない。カリブ海諸国政府も、EV購入にあたり補助金を出したりと、すでに電気のチャージングステーションを立ち上げている。日本は、カリブ地域市場における日本車普及率の落ち込みを阻止すべく、民・官で協力体制をひき、売り込みをする必要がある。
 また、日本が贈った製氷機がすべて壊れて使われていないという事態が発生していた。壊れた部品を取り寄せるのに時間がかかるうえ、直してもまた壊れたというケースが複数あった。日本の辺鄙な離島にも当てはまることだが、アクセスが非常に悪い場合は、部品の入手やメンテナンスのことまで考えたうえで無償支給をしなければ、日本独自の丁寧な技術協力による国際貢献には結びつかない。

アンティグア・バーブーダにて、日本語のカーナビや説明書がそのまま使用されている日本車(2023年4月23日、撮影・筆者)

 

おわりに

 実際に訪問する前は、カリブ諸国を一緒くたに考えてしまっていたが[6]、今回の調査研究を通して、カリブ地域のそれぞれの島嶼国が、地理的条件や国内政治情勢に影響を受けながら、異なる外交的方針を持っていることが理解できた。また、カリブ諸国内の移動は、ニューヨーク、ロンドン、トロントに行くより、断然不便であった。カリブ地域で統合されていない所以である。
 以前は、筆者がアメリカと中国に約12年間在住していたという背景から、大国との関係だけに目を奪われていた。しかしながら、これからは、このようなカリブ地域の多くの国と日本の間の協力関係からも、エネルギーや海洋資源などを守るべく、日本の安全保障について考えていきたい。経済的な直接的な見返りを求めるのであれば、予算削減したくなる支援もあるだろうが、日本は、今後もカリブ地域への関与を強化していく方針をとることが望ましいと考える。

[1] このレポートの「カリブ海諸国」とは、便宜上、筆者が訪問した3か国を指す。

[2]セントルシアの1979年2月22日独立後,日本は同年3月9日これを承認。1980年1月11日外交関係樹立。SVGの1979年10月27日の独立と同時に、日本は同国を承認。1980年4月15日外交関係樹立。アンティグア・バーブーダの1981年11月1日の独立後、日本は同月6日これを承認。1982年10月4日外交関係樹立。(外務省の国・地域の基礎データhttps://www.mofa.go.jp/mofaj/area/latinamerica.htmlを参考、最終アクセス日2023年7月28日)

[3] 水産庁、「捕鯨をめぐる情勢(令和5年3月)」2頁、「鯨類の利用に関する我が国の基本的立場」を参照(https://www.jfa.maff.go.jp/j/whale/attach/pdf/index-1.pdf、2023年7月13日アクセス)

[4] ごく一部の政治家を除いて、超党派の政治家が同じ認識であり、同じスタンスをとっているので、国民の総意である。

[5] 例えばセントルシアの場合は、対日輸入額は、およそ14億で、品目は自動車と原動機である。(外務省の国・地域の基礎データhttps://www.mofa.go.jp/mofaj/area/latinamerica.htmlを参考、最終アクセス日2023年7月28日))

[6] 在トリニダード・トバゴ大使館がカリブ諸国9か国を管轄している事情を鑑みた筆者の印象である。

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松田彩の論考

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Aya Matsuda

松田彩

第42期生

松田 彩

まつだ・あや

Mission

米中関係を踏まえた総合安全保障の探求

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