松下政経塾 The Matsushita Institute of
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2022年8月

塾生レポート

「多様性」から仕掛けるまちづくり―飛騨高山を事例に―
日野原由佳/松下政経塾第42期生

 日本が国家として多様性をこれからの成長の原動力としていくために、あらゆる人材が活躍できる社会を目指したい。今回は地方の側面から多様性や働き方の選択肢を考え、一次産業や都心ではできない働き方、価値観を探るため、岐阜県高山市を訪れた。まちづくりの仕掛け人に焦点をあてて、あらゆるステークホルダーを巻き込んだ持続可能なまちづくりの仕組みを検討したい。

 

岐阜県高山市の特色と課題

 高山市には古い町並みや朝市があり、近隣には世界遺産に登録された重要伝統的建造物群保存地区である白川郷とも近い距離にあるため、日本人のみならず、アジアからの外国人観光客にも人気の観光都市として栄えている。特に、第二次世界大戦時に「命のビザ」で多くのユダヤ人を救ったことで有名な、杉原千畝にゆかりのある地域を結んだ杉原千畝ルート推進協議会の構成自治体として高山市は位置づけられている。その効果は大きく、イスラエルから来日する観光客の3割は高山市を訪れているという。
 国内外ともに中部地方における一大観光都市ではあるものの、少子化や高齢化の影響は避けられず、加えてコロナ禍によって多くの観光客の減少に直面している。

  


「多様性」を取り入れたまちづくり

 注目すべきは、高山市の地元企業の有志らが目を付けた「多様性」である。
 2014年に宗教の違いや食の制限を超えて、あらゆる人々に広く安心して受け入れられる環境整備、食のバリアフリーを目指し飛騨高山フードバリアフリー協議会が設立された。食のバリアフリーとはベジタリアンや体質によるアレルギー、さらには宗教戒律によって食に制限がある人も食へのバリアをなくして食べることができることである。設立当時はアジアからの観光客をターゲットに東南アジアからの観光客が食をより楽しむことができるよう「飛騨高山ムスリムフレンドリープロジェクト」をスタートさせたという。ハラール(Halal)という、イスラム教の戒律に則って処理された食べ物を普及させたり、あらゆる人々が安心して訪れることができる町を目指していた。そして高山市の立地の観点からユダヤ教の観光客も多いことを受けて、日本酒でもコーシャ(Kosher)というユダヤ教の戒律に則った認証の取得を行った。現在は日本酒のみならず、野菜やお米でもコーシャ認証を取得している。このような背景から2021年から「飛騨高山フードバリアフリー協議会」とより包括的な食のバリアフリーを中心に、宗教の違いや食の制限を超えてあらゆる人々に広く安心して受け入れられる環境整備を目指した活動を実施している。

  

 多様な食への環境整備を行うために、地元有志らは地域の強みは地域で広げるという取組を進めている。例えば、コーシャ認証を一つとってみても認証を取得するプロセスには多くの事務手続きが生じ、申請書や言語対応など多くの時間が割かれることが予想される。さらには、金銭面においても申請費用や継続して認証取得をするための準備費用など負担は少なくない。従って、人件費や申請に係る費用対効果を考慮すると地元の中小企業では認証取得へのハードルが高い。何をしたらいいのか、誰に問い合わせたらよいのかといった申請側の負担を軽減するために、同協議会事務局が個別に相談を受けたり、申請及び申請に係る補助金申請支援を実施している。同協議会のメンバーは正会員、準会員、賛助会員と分かれており、認証には興味はあるがやり方がわからない企業にも負担が少ない形で参加できるよう門戸を開いている。この背景には、特色ある街づくりのため地元有志らが個人の力で認証を推し進めたり既存の業界のみが取り組むのではなく、業界を超えて地域全体が緩やかな繋がりをもって仲間を増やして、共に地域の強みを拡大していく仕掛けを見ることができる。そこには地域人材のみならず、外からの人材や考えを寛容に受け入れて地域全体の成長に繋げる多様性を強みにするプロセスがあった。


イスラエルのメンタリティに学ぶ仕組みづくり

 同協議会事務局で、株式会社Ferme du Soleilという植物工場を経営している五十嵐優樹氏は元農水省職員並びに在イスラエル日本大使館職員としての経験をもって、高山市において起業しながら民間の立場からまちづくりに参画している。五十嵐氏によるとイスラエルのキブツと呼ばれる集団農場で協力しながら生きていく仕組みに着想を得たそうで、まち全体で地域の強みを作る大切さを自身の経験から教示いただいた。また、イスラエルはスタートアップの設立が盛んな国として有名であり、人口比でのハイテクスタートアップ企業数やベンチャーキャピタルの投資額は世界1位である。スタートアップの設立は資金繰りや運営においてリスクを抱えるが、イスラエルにおいて失敗すらしない者は信頼されないという土壌があるという。飛騨高山との地縁がなくても、よそ者というリスクを背負いながら果敢に挑戦する重要性を提示していただいた。
 協議会に加えて、五十嵐氏を中心に飛騨高山の自然保全に農村振興、飛騨高山の木材や農産品の価値向上を目指した「飛騨高山アグロフォレストリープロジェクトチーム」を設立している。建材の端材ロスをなくすため、再生型チッププランターを作ったり、それを広葉樹の種子とセットにして小学校に配布し、育てた苗木を飛騨高山の森に植樹して持続可能な循環型森づくりをしていこうと同志を集めたものである。五十嵐氏は事務局として運営から活動まで全体に携わっている。高山市が東京都千代田区と森林整備協定を結んでいる背景から2022年7月には東京都日比谷にて「HIBIYA WOOD DAY!!!」というイベントに出展するなど精力的な活動を展開している。プロジェクト構成メンバーは製材、建築、農業、酒造、飲食、家具、オブザーバーとして自治体が入るなど多岐に渡り、さまざまな業界や業種が集える仕組みを整備している。各業界やメンバー自身が持つ相乗効果が本プロジェクトを通して大いに期待できるであろう。同時に、あらゆるステークホルダーを巻き込む仕組みづくりの一例として今後の地方や地域の発展に向けた青写真になると考える。


まちづくりのモデルチェンジ

 地域が抱える課題は様々で、現状において少子高齢化の進行はすぐに止まることはない。コロナ後の地方社会を見渡すと持続可能なまちづくりも、これまでのモデルが立ちいかない状況になってきている。地方や地域が紡いできた伝統や歴史を重んじつつ、持続可能性を見出すことのできる人材がまちづくりに携わることで新しいまちの強みが確立されていくだろう。多様な経験を培っている人材による地方や地域での新しい持続可能なまちづくりのモデル展開やその形を見出す過程に、多様性を強みにする国家経営のヒントを感じることができた。

 最後に、本取材や意見交換にご協力いただいた飛騨高山フードバリアフリー協議会会長の清水大地氏、副会長の有巣弘城氏、事務局の五十嵐優樹氏に御礼申し上げます。


参考資料
飛騨高山フードバリアフリー協議会 https://www.hidatakayama.com/
飛騨高山アグロフォレストリープロジェクトチーム https://www.ht-agroforestry-pt.org/
株式会社Ferme du Soleil  https://ferme-du-soleil.co.jp/
2022年8月 執筆
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