松下政経塾 The Matsushita Institute of
Government and Management

日本語英語


研修レポート 一覧へ戻る
2012年10月

研修レポート

三人寄れば文殊の知恵、四人寄れば…?
林俊輔/卒塾生

松下政経塾開塾以来、続く伝統行事である「100km行軍」を、無事、クリアすることができた。しかし、ゴールするまでには、様々なドラマが待ち受けており、同期4人で協力し合い、お互いの力を出し切った結果、何とかゴールするこができた。その壮絶な記録の一端をここに残す。

 

 2012年10月4日朝、スタート地点に立った時、正直、大いなる不安を抱えていた。それもそのはず、約1か月前に剣道でアキレス腱を痛め、ようやく何とか歩けるようになるまで痛みが引いたのが、約1週間前のこと。今回の100km行軍への参加を決断したのは、実にスタートの3日前である。
 36歳という年齢を考えても、直前まで歩くこともママならない状態で大した練習や準備もせずに、100kmも歩けるものなのか、本当に行軍に参加するかどうか、葛藤の連続であった。
 と言うのも、100km行軍の基本的な考え方は、連帯責任である。そう、100kmウォークではなく、行軍なのだ。それゆえ、私一人の我儘で迂闊に参加を決断し、万が一、リタイヤすることがあったら、同期全員に迷惑をかけることになるのである。しかし、だからこそ、同期が一丸となって歩くことに意義があるのだ。来年、後輩と一緒に歩けば良い、と簡単に割り切れるものではなかった。
 悩みに悩んでいる中、同期は「歩くことを決断して、もし途中で私がリタイヤすることになったとしたら、その時点で一緒に止めよう」と言ってくれた。これで心は決まった。あとは、自らの力、全員の力を信じて歩くのみである。そんな思いでスタートした100km行軍であった。

 いざ、スタートした後、事態は急速に動き出す。私の足の状態などよりも、もっと深刻な事態が噴出するのである。それは歩き始めて、早々の20km頃のことである。
「足とか腰とかじゃなくて、熱で頭がぼーっとしてダメかも…」
 突然、塩根塾生が大幅な体調不良を訴えだす。チェックポイントで熱を測定する度に、どんどん上昇していく。途中、解熱剤が多少効き、一時抑えられていた熱も、40kmを超えたあたりから再び上昇傾向で、ついには38度5分を記録する。

 まずい。歩いている塾生の意思に反して、このままでは遠く茅ケ崎の本部から、ドクターストップがかかってしまう。そんな不安がよぎる中、岡崎塾生からはある作戦が耳打ちされる。
「とにかく、ここはペースを落としてでも、まずは熱を上げないこと、これを最優先しましょう。そして、次のチェックポイントでドクターストップがかからないよう、体を冷やすものを準備しましょう」
 その通りだ。いくら戦う意思があったとしても、次のチェックポイントで高熱が続いているようであれば、必ずドクターストップがかかってしまう。これを回避しなければ、そもそも、これから迎える後半の長丁場を歩くことすらできなくなってしまうのである。岡崎塾生の提案は功を奏し、ペース鈍化と、熱さまし用保冷剤の効果もあってか、50km地点でのチェックポイントを無事、通過することができた。この戦いを続ける権利を得たのである。

 後半に入ると、今度は熱で体力を奪われた塩根塾生のスピードが如実に落ち始める。そこで、今度は槻谷塾生から驚くべき提案がなされる。
「俺、引っ張るわ」
 そして、おもむろにカバンから帯状の道具を取り出し、塩根塾生と自らの体を結んでいく。110kgを優に超える巨体を、本当に引っ張り始めたのである。槻谷塾生の、この一見、無謀とも言える決断と勇気と、火事場のクソ力が、軍の士気を高め、再び歩みが進み始めることになった。

 塩根塾生も、熱で体力が低下し、疲労が他の誰よりも大きくなる中、苦しさを口にせずにひたすら歩き続けた。まるで槻谷塾生と繋がっている帯から、気概が伝わったかのようである。

 そんな中、私はと言うと、時計と向き合い、全員でゴールするためのペース配分に頭を悩ませていた。どれだけ頑張っても24時間以内にゴールしなければ、元も子もないのである。疲労が蓄積し、歩みが止まりそうになる中、ペースが落ちないよう、一人、先頭をひた歩いた。残り時間と距離と全員の体力とを、常に様子見、勘案しながら、カラ元気を身にまとい、ひたすら全員の目線を上げるべく、先頭を歩き続けた。

 その間、同期4人の心は一つである。
「必ず完歩する!」
 そのために、全員が今できることを考え、お互いを支え合い、共通の目標に向かって一つになったと言えるだろう。自分のためだけではなく、お互いが、お互いを思い、知恵を出し合ったことが、持てる力以上の力を引き出したと言えるのではないだろうか。
 また歩いている私達、同期の力だけでなく、諸先輩や職員を初めとした様々な皆様が24時間付きっきりで、応援し、支えてくれなかったら、最後まで気力、体力が続くこともなかったであろう。
 まさに松下政経塾の研修心得である「五誓」のうち、松下幸之助塾主がもっとも重要なものであるとおっしゃっていた「感謝協力の事」を感得した瞬間ではないだろうか。かくして、心身ともに疲労しながらも、無事全員ゴールすることができたのである。幸いにして、当初心配した私の足も大きな損傷も無く、歩き切ることができた。

 100kmを完歩した24時間弱の短い時間に、多くのことを学び、多くの人に感謝し、多くの感動を得ることができた。
 しかし、この感動を得るために「もう一度歩くか?」と問われると、こう即答するだろう。

  「今回、一回だけで結構です」

と。

2012年10月 執筆
  1. HOME >
  2. 卒塾生一覧 >
  3. 林俊輔 >
  4. 三人寄れば文殊の知恵、四人寄れば…?
ページの先頭へ