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実践活動報告

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名古屋から車で1時間ほどの岐阜県第二の都市、大垣市。大都市と隣接した地方都市にも過疎化と地方衰退は差し迫る。大垣市上石津地区を事例として、日本の中山間地域の農山村で起きている課題を考察する。
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 中山間地域の農山村の実態を把握するため、岐阜県大垣市上石津町を訪れた。同町は2006年3月に大垣市に編入された。当初、周辺地域を含めた広域市町村合併を協議していたものの、足並みが揃わず、同じく大垣市に編入された墨俣町とともに、旧大垣市と隣接しない行政飛び地となっている地域である。そのため、大垣市は岐阜県内第二の都市であるにも関わらず、上石津町地域自治区としてある程度の独立行政を営まざるを得ない特殊な環境にある。同地域は大垣市の面積の約6割を占めるものの、人口は約3.6%と少ない中山間地域である。
 
 南は名古屋、西は京都・大阪、北は北陸からいずれも1-2時間程度でアクセスできる恵まれた立地ではあるものの、中山間地域が抱える課題が凝縮されており、これからの農業、地域を考える上で多くの示唆が詰まっている。以下に三点、大きな課題を列挙する。
 
1)耕作放棄の拡大
 
 人口減少とともに、耕作放棄地が増加している。山間地の条件不利地での耕作放棄だけではなく、同地区内でも比較的条件のよい平場の農地においても、虫食い状態で耕作放棄が広がっている。親世代が農業を営んでいたものの代替わりによって、都市で働いている子供世代が相続し、地主不在となった農地が放棄されているのである。
 
 農地であるが故に、相続税、固定資産税は大幅に優遇されている土地であるが、実際には耕作されていない土地が多々あるのが実情である。本来、国策として食料生産を担う農地に対する優遇措置であるが、各戸の主張は別として、実態としては農地として活用されていない土地をどのように処していくのか、今後更に問題は大きくなっていくことだろう。
(写真1 平野部に点在する不在地主の農地)
 
2)災害対策
 
 上石津町のなかでも時山地区は急峻な地形のため、これまでに何度も豪雨による中小の土砂災害が発生している地域であるが、2年前の2012年9月に大風16号による大雨により、時山地区の三つの谷で土石流が発生した。幸い避難完了後であったため、人命、身体に被害が及ぶことはなかったものの多くの人家に土砂及び濁流が流入する事態となった。
 
 ここに山間地域の危険が多く潜んでいる。一人では動くことが難しくなっていく高齢者が増え、集落維持機能としての山林や水路など共同管理が行き届かなくなり、治水能力が低下しており、災害対策の基本である自助、共助の機能が損なわれている現実が存在している。加速度的に危険エリアが増加する中、地方では行政の効率化や基礎体力不足から公助機能すら危ぶまれる現実に直面している。
(写真2 2012年の土石流災害の爪痕が今もなお残る時山集落)
 
3)獣害対策
 
 稲がたわわに実り、見渡す限りの田園風景に心癒される…地方の農村と聞いて想像するのはこんな風景ではないだろうか。しかし、現実にはそこにそのような風景ばかりではない。前述の耕作放棄地や、米の生産調整による休耕田となり、雑草が繁茂した圃場が目につく。そして、何より、「見渡す限り」ではなく、そもそも見渡せないのである。それもそのはず、各々の田んぼや畑は獣害対策のため、高いフェンスに囲まれ、まるで欧州や中国の城塞都市を彷彿とさせる風景である。これが美しい田園風景と言えるのだろうか。確かに統計上は、そこは田畑である。
 
 しかし、現地に行って目にする実態は、想像とは大きく異なっている。このギャップこそが、農業振興、地域振興の大きな問題の一つではないだろうかと考える。現場には、想像ではない、現実がそこにある。その実態をしっかりと見据えた上で、どうするべきか、どうしていきたいのか、本当の議論が始まるのではないだろうか。
(写真3 高いフェンスに囲まれた収穫を間近に控えた圃場/図4 岐阜県の野生鳥獣による農作物被害額の推移)
 
 2017年には隣町養老町に、名神養老SAスマートインターチェンジが供用開始され、さらに2020年には東海環状自動車道が全線開通し、隣市に北勢インターチェンジが開設される。これを機に、同地域では更に人口流出が加速していくのか、新たな価値を創出し、アクセスのよい立地を活かし周辺地域から人が流入し活性化していく地域になるのか、今、戦略を練り動き出さねば、間に合わない。
 
 これは何も上石津地区に限ったことではないのである。全国の農村では同様の問題や、全く異なる課題が、現在もどんどん進行している。単なる農業問題ではない。地域がどうなりたいのか、地域をどうしていきたいのか、地域経営の視点が大いに求められるのは間違いない。

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林俊輔の活動報告

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Shunsuke Hayashi

林俊輔

第33期

林 俊輔

はやし・しゅんすけ

株式会社de la hataraku 代表取締役/アジアユニバーサル農業研究会 事務局

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