論考

Thesis

アクティブ・ラーニングで大学を変える

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共同研究

1999/9/28

冷戦後の世界のキーワードは「民主化」と「持続可能な開発」だ。この二つのキーワードを重ねたのが「参加型開発」であると毛利勝彦塾員(横浜市立大学助教授、松下政経塾第4期生)は言う。政府開発援助(ODA)額は世界一となった日本だが、それを支える人材養成は大丈夫なのか。国際開発や国際関係の分野で参加型教授法に取り組む意義を語ってもらった。

大競争時代のグローバル・スタンダードはどのように決まるのだろうか。良いアイデアが周りに認められるのをじっと待っていたり、より良い技術や製品をより安く売っていれば良かった時代は終わった。良かれ悪しかれ、グローバル社会の中では、積極的に発信する者の基準が結局は受け入れられていくのではないだろうか。
日本人は受信モードから発信モードへと脱皮せねばならない。そしてそのためにはアクティブな学習法が必要となる。大学でも自らが課題を探求し、解決策を見つけ、それを発信していく教育が課題となっている。教育は未来の政治を左右する。私は教育や政策を変えることによって日本と世界は変わると信じ、アクティブ・ラーニングの方法としてケース・メソッド教授法と政策ディベートを実践している。

ケース・メソッドとは、事例教材を材料に、これを学習者が議論することによって問題解決策を探る手法だ。事例教材には現実に人々が遭遇した困難な状況やデータがストーリーの中に織り込まれている。そのストーリーを読むことで学習者はバーチャルな体験を積んで問題を発見し分析していく。実際に私が作成した教材には、1995年のアジア太平洋経済協力会議(APEC)大阪会議や97年の地球温暖化防止京都会議を取り込んでいる。学習者は、日本政府や企業、市民団体などのリーダーが直面した課題を自分に置き換えて解決してゆく。大学院や学部の授業で使ってみると、学生の採る解決策は現実のそれとは全く違っていてとても面白い(ケース・メソッドを使った教授法や事例教材の作成方法については、国際開発高等教育機構(FASID)でセミナーを開催しています。興味のある方はご参加ください)。

政策ディベートでは、ある政策テーマについて、賛成側チームと反対側チームが論理と証拠に裏づけされた討論を展開する。その結果を第三者の判定者に点数で評価してもらう。最近の私の授業では、「日本はアジア通貨基金創設にイニシアチブをとるべきか」、「日本は環境税を導入すべきか」などについてホットなディベートが展開された。
「本格的なディベートをやってみて、人間的に少し成長できた気がする」という感想を述べた学生もいた。討論者も判定者も、ディベートの準備や討論のプロセスを通じて、伝統的な講義形式の授業よりもはるかに多くのことを体得していることを実感する。
ケース・メソッドもディベートも欧米で生み出されたものだから日本社会には向いていないという批判がある。はたしてそうだろうか。現実の課題への解決策は一つではなく、「正解」もない。「正解」を見つけることよりも、むしろ日本発のオリジナルな解決策を考え、欧米先進国やアジア、アフリカ、ラテン・アメリカの途上国を巻き込みながら、それをより適切な形に変えていくことのできる人材をグローバル社会は求めている。いまやODA額が世界一となった日本にとって、それを支える人材養成こそが重要だ。アクティブ・ラーニングで大学から日本と世界を変えていきたい。

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