松下政経塾 The Matsushita Institute of
Government and Management

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1999年7月

塾報

ハワイから異色のトレンド調査団
甲斐信好/卒塾生

 ハワイ大学ビジネススクールから調査チームが政経塾を訪れた。塾生とのディスカッションから日本の社会・経済のトレンドをつかみ、日本人観光客の多いハワイでのビジネスに活かそうとするものだ。塾生が一緒に考えた「ハワイの島起こし」は?

 
 「世界中のどんな場所も、ここハワイより私の心を打つことはない。また世界中のどんな場所も、ここハワイのように、また昼寝をしたり、散歩したりしたいと切望させることはない」(マーク・トウェイン)と謳われたハワイ。1960年から途切れることなく毎年何百万人もの観光客(1991年には7百万人)が訪れる観光の島だ。そのハワイ大学マノア校ビジネススクールから調査チームが6月4日、松下政経塾を訪れた。
 院生・卒業生からなる一行は、日系人のジュリー・イナツカさんとケアラ・カキハラさん、それに日本人の久手堅憲之さん。一般に米国のビジネススクールに入学するには企業経験が必要とされる。彼らも皆、日系企業や米国の官公庁での勤務経験がある。
 調査目的は日本の社会・経済トレンドを探り、ハワイのビジネスにプラスになるものを発見しようというもの。ハワイにおける日本人観光客の消費動向についてはこれまで様々な研究がなされてきたが、肝心の日本国内の事情を考慮することが少なかったという反省があるという。ハワイの企業10数社をスポンサーとして、5月26日から6月16日まで、日本の官公庁、百貨店、広告代理店などを訪れた。その中で日本の若い世代と率直なディスカッションをしたいと政経塾を訪問する運びとなった。松下政経塾に来訪するゲストの大半は、日本の政治経済や教育システムに関心を持ってという場合が多く、今回のような目的は珍しい。彼らを今年入塾した20期生11人が迎えた。

■日本人1人=米国人2人分

 『日経エンターテイメント』誌によれば、「景気の先行き不安、円安もあって、日本人の海外旅行ブームは一段落しており、今後大きな伸びは期待できない。その分、各国とも日本人観光客の奪い合いが激しく、日本では海外旅行の代名詞ともいうべきハワイに対しても、グアム、オーストラリア、香港、シンガポールなどの宣伝攻勢が目立っている」という。このことを裏付けるかのように、「ハワイは過去9年間、不景気が続いています。そこからもハワイの経済が米国本土ではなく、日本と連動していることが理解できると思います」と久手堅さんが話を切り出した。沖縄出身の彼は、沖縄にある米国務省の外局・海外放送情報サービスに8年間勤務していた。観光が基幹産業であるハワイ経済にとって、年間200万人以上という日本人観光客の存在は大きい。数こそ米国本土からの観光客に次いで第2位、全観光客の3割程度だが、観光客一人当たりが使う金額は米国人の150ドルに対し、300ドル(1995年)だ。日本人は1人で米国人2人分のお金をハワイに落としていることになる。日米の使用する金額の差は、大半がショッピング特にブランド品の購入に充てられると考えられる。塾生にとって、ハワイの経済に占める日本の存在は、自分たちの想像以上に大きかったようだ。
 「ハワイのイメージは何?」という質問を投げかけたのはイナツカさん。ワイキキビーチにあるシェラトン・モアナ・サーフライダーホテルに8年間勤務し、日本人客を担当していた。日本人塾生からいろいろな意見が出されたが、大別すると「ハワイは日本語が通じて安全。だから人気がある」という組と、「ハワイは人気がある。だから行きたくない」というへそ曲がり組に分れた。
 これに対し、「中国は大陸だから海に憧れる。現在、中国人にとって海外リゾートは東南アジアだが、ハワイにはとても魅力を感じる」(中国からの特別塾生)、「1995年から96年にかけて韓国でもハワイ旅行がブームになった。でもホノルル以外には行きにくい」(韓国からのインターン)などと、多国籍軍(?)の政経塾らしいコメントもあった。
 沖縄や東南アジアのリゾートがブームになると逆にハワイへの観光客が減るという。「今回の調査で、日本とハワイという視点だけでなく、アジア太平洋のハワイという戦略を持つことが最も重要だと実感した」とは久手堅さんの感想。

■インターネット・ショッピング

 トレンド調査としてディスカッションのテーマになったのが、インターネットを通じたショッピングだ。ハワイを訪れる日本人は、従来の若い女性中心からファミリーへと変わりつつあるものの、いまだにその目的はショッピングという人も多い。そこで、ハワイを訪れなくともショッピングに関心ある層を対象に商売ができないか、日本にショップまで出せない企業でもインターネットを通じて品物を売ることが可能ではないか、という問題意識が生まれた。
 塾生からは、インターネットへの接続料金が日本では高いこと、支払いにおけるセキュリティー(クレジットカードの番号がもれるなど)、気安く返品できるかどうかが鍵であること、日本には通信販売の歴史が無いなどの問題点が出された。一方、日本でもテレビ・ショッピングが3分間の放送で数百万円の売り上げを計上したり、通信販売専門会社の伸びも著しい。結論として、いわゆる無店舗販売の可能性は大きいが、「価格が安いとか品質が良いとかそこでしか買えないとかの、ユニークな価値あるものでなければ成功しない」という意見が出された。
 さらに商売の基本的な考え方として、「ビジネスで成功しようというだけでは、長い眼で見るとうまくいかない。売ろうとしているものが消費者に心からの満足を与えるか、本当に世の中に必要なものか考えなければ成功しない」があげられ、時代の最先端ツールと日本の「商人道」を結び付ける話となった。

 2時間に渡るディスカッションの感想を、「日本の調査で一番楽しかった。新聞やインターネットで手に入る情報しか教えてくれない訪問先もあったが、塾ではとてもオープンでフレンドリーな本音が聞けた」と述べたのはカキハラさん。彼女はロスアンジェルスの日系企業に3年間勤務し、現在はハワイ大学アジア研究プログラムの助手を務める。
 母親が日本生まれというイナツカさんは、「母から伝統的な日本人の素晴らしさを教えられてきた。日本に来て若い人があまりにアメリカナイズされていたり、女子高生の援助交際の話を聞いてショックを受けた」。紙面の制約で塾生からの反論を掲載できないのが残念だが、日本の今の姿を考えさせられる機会でもあった。


1999年7月 執筆
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