松下政経塾 The Matsushita Institute of
Government and Management

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Activities
1999年5月

塾報

特別塾生発表会
甲斐信好/卒塾生

 松下政経塾には地方自治体や海外の企業から派遣されて、その年新たに入った塾生たちと共に研修をする(一年以内)特別塾生がいる。彼らの発表会が、3月15日に送り出し機関である県庁・市役所の代表者を交えて松下政経塾で行われた。その発表内容を紹介する。

 
■説明責任の大きさを学ぶ

 佐賀県庁から派遣されてきた小野裕之特別塾生のテーマは、「マネジメントとしての行政運営を考える:検証~ニュージーランドにおける公共部門改革」。最近、限られた財政収入という条件と効率性の追求という目的から、「行政を経営の観点から考えよう」という提案が広くなされている。小野塾生は行政組織運営の根本的転換を行ったニュージーランドで、財務省、地方自治体、労働組合など11カ所の調査を行い、日本では報道されていない改革の影の部分まで含めて詳細な報告を行った。
 ニュージーランドでは各省に大臣はいるが、実際の業務の運営にあたるのは大臣ではなく、民間から雇い入れたチーフ・エグゼクティブである。彼らは提示された予算のなかでどれだけのことができるかというプランを立て、それを大臣に買い上げてもらう。つまり、予算に見合った業務の達成度を提案して、そのプランを実行・実現する業務請負契約を大臣との間に結ぶのである。その際、国籍は問われない。以後はこの2人を軸に政策が遂行され、結果が評価される。この制度は、官僚制に伴う効率の悪さや秘密主義を取り払おうと生まれたものだ。
 ニュージーランドのこの行政改革が劇的な効果を上げ、世界的な注目を浴びたのは衆知の通りだが、一方で行政が政治色を強く帯びるようになったという側面もある。また、公務員が流動化して、その経験や蓄積があまり評価されなくなった。これらはトップダウンの組識に見られる特徴で、「上からの命令と下からの提言」という両者のバランスが大きく変化したためである。小野塾生は改革という言葉について「改革とは問題の交換である。一つの課題を達成したからといって、問題が無くなることはありえない。一番大切なのは、今、解決すべき課題は何であるのかという明確な認識だ」と言う。ニュージーランドの経験は次のような課題の変化を表している。すなわち、行政に要求されるものがあらゆるサービスを行うという供給重視から、住民に選択した機会を提供するように変わりつつあるということである。そしてそのために情報公開が必要とされ、行政の説明責任(アカウンタビリティ)がこれまで以上に求められる。小野塾生は「説明責任の大きさをニュージーランドで実感しました。これから仕事をさらに客観的・合理的に進めていこうと思います」。この研究結果は近く報告書にまとめれらる予定だ。

■トポフィリアとは何か

 金沢市から派遣された坂口友治特別塾生のテーマは「子どもに残すサステナブルコミュニティ」。人間性に根ざした、半永久的に残すことのできるまちづくりを追求した。
 坂口塾生は自分の考えを説明する中心概念として「トポフィリア」をあげる。この言葉は、ギリシャ語の「トポス=場所」と「フィリア=愛」を合せたもので「場所への愛」を意味する。中国系米国人の地理学者のイーフー・トゥアンが広めた。たとえば生まれ育った土地への愛着を持っている人は、死ぬ時には故郷の土地で死にたいと考えるだろうし、混雑しようとも正月やお盆には帰省するだろう。人々がこのような思いを抱く「場所=空間」を、合理性や経済性のみを追求した再開発や都市計画で破壊するのは最小限に留めなければならない、という考えである。この点で「トポフィリア」は「コミュニティ」と言い換えることができるし、小さな子どもがもつ感覚でもある。私たちの心にある懐かしい風景は、ほとんど子供時代に刻まれたものだからだ。坂口塾生は、時にはしゃがんで子どもの視線に戻って、東京の根津、滋賀県長浜市、シンガポールのリトル・インディアとよばれるインド系住民の居住する地区などいくつかのまちを見てきた。
 それらの経験から得られたのは、地域を再生する手がかりは場所への敬意を払うことだという確信である。
 「取り壊すしかないと思われるような古い建物にも、経済的、美的以外の価値がなにかあるかもしれない。そのような内在的価値を見出し、点(たとえば古い建物)から面(保存すべき古い町並み)としての地域の広がりを持つようにする。大切なのは、地域住民が積極的に何かに参加すること。公的資金を慎重に生産的に活用すること。そして何より大切なのは時間の継続性を断ち切らないことだ。今、行政に求められているのはこのような内在的プロセスを深めることではないか」。
 こう締めくくって発表を終わった。

■ミドル管理者育成のポイント

 韓国・大宇グループから派遣された金柄圭特別塾生のテーマは「日本企業の21世紀型ミドル管理者育成の方向」。低成長やグローバル化など経営環境の変化、高齢化に伴う生産性の低下など、中間管理者を取り巻く状況は厳しい。これを「ミドル層の危機の時代」ととらえ、それに対する日本企業のミドル管理者育成のプログラムについて調べたものである。
 具体的には松下電器の目標管理システム、リクルートの経歴開発コース、丸紅のミドル管理者育成システムなどを調査した。
 日本の現状を金塾生は次のように述べた。
 「私は韓国で兵役につきました。そこで、地図と銃だけを持たされて、決められた日時までに決められた場所にたどり着け、という非常に苦しい訓練を経験しました。しかし、日本企業で何人かの人たちに話を聞くうちに、彼らの置かれている状況は、あのとき私が体験したものよりももっと厳しいのではないかと思うようになりました。それは、少なくとも私は到達地点と地図を持ってましたが、彼らは目的も目標もなく、それを自分で見つけるところから始めなければならないからです」。
 こうした調査の結果、金塾生は、日本企業のミドル管理者育成を「オン・ザ・ジョブ・トレーニングを通じての能力開発、ジョブ・ローテーションを通じてのキャリア開発という、二つの手段によるミドル管理者の戦略的な育成、および経営理念の共有が鍵である」とまとめた。

 政治家やビジネスの分野へ、また政策研究者やNPO創設へとはばたく松下政経塾の塾生とともに、特別塾生のネットワークも着実に広がりつつある。本年度も地方自治体や中国、韓国などから4人の特別塾生が松下政経塾の研修に参加する。


1999年5月 執筆
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