松下政経塾 The Matsushita Institute of
Government and Management

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1999年1月

塾報

中国はどこへ行くのか
甲斐信好/卒塾生     渡辺利夫

 1998年、アジアは深刻な通貨・金融危機に苦しんだ。そして1999年、そこから抜け出す鍵は日本と中国が握っている。政経塾出身国会議員の集まりである未来政治研究会が、渡辺利夫・東京工業大学教授(松下政経塾理事)を招き、中国の今後について話を聞いた。アジア経済の第一人者が若い政治家に語ったエッセンスをここに紹介する。

 
●労働者のプロレタリアート化?

 中国経済の最大のテーマは国有企業改革です。1998年3月、朱鎔基首相は3年以内に国有企業改革を完成させると言明しました。この問題は財政改革・金融改革と切っても切れません。なぜなら財政にとって支出面でも収入面でも大きな比重を占め、金融問題を引き起こしているのもまた国有企業だからです。
 中国には6万近い国有企業がありますが、そのうち代表的な1000社を選び改革の手を集中し、残りの企業は市場メカニズムに任せるというのが朱鎔基首相のプランです。選ばれた1000社の改革には株式制を導入する。中国経済は「帰らざる橋」を渡ったのです。はっきり言えばこれは「民有化」です。
 民有化を進めれば、余剰人員の整理が起こります。中国の労働部長(日本の大臣にあたる)は向こう3年間に、少なくとも800万人、多ければ1000万人の失業者が発生するとしています。現在で2000万人が失業しているのですから、3年後には1億1000万人の国有企業従業員のうち3000万人もの人間が職にあぶれることになります。中国のマスコミでは報道されませんが、すでに地方都市では幹線道路に失業者がバリケードを築き、治安警察と対峙するような状態が起こっています。私はいささかの皮肉を込めて「労働者のプロレタリアート化」という表現を使っています(笑)。このような現象が頻発するようになった時、中国はどこへ行くのでしょうか。

●中国共産党の自民党化

 政治的には、中国共産党の社会に安定をもたらす影響力が日に日に薄れています。一党支配のメカニズムが崩れかけているのです。これはますます加速化するでしょう。なぜなら中国共産党一党支配のもっとも大切な末端機構である、各国有企業の党委員会がどんどん市場経済の中に融け始めているからです。党委員会も中央の指示を離れて、企業経営のほうにどんどん向いてくる。
 このような大変な問題を、なぜ朱鎔基首相は3年以内に解決するなどと言ったのでしょう。私は「共産党一党支配のメカニズムが続くのは3年以内だからだ」と言ったことがあります。そのような短い期間かどうかは別にして、中国共産党は今、非常に難しい舵取りの時期を迎えています。今すぐ中国共産党が倒れることになったら中国は大混乱に陥る。しかしもし30年後にも共産党が存在していたら中国の発展はない。中国共産党はこの間にその使命を終えなければならない、と言った識者がいます。
 しかし、一方、中国共産党は「社会主義市場経済」などというロジックを生み出すように、イデオロギー的に非常な柔軟性のある存在でもあります。一党支配のように見えて、内部は百家争鳴、実質上の多党制が行われているという見方も可能です。「中国共産党の自民党化」などという人もいます(笑)。いずれにしても中国は今後、経済と政治の微妙なバランスの上に国家を運営していかねばなりません。そして中国がどのように変わるにせよ、日本に与える影響が大きいことも自明です。若い政治家として、慎重に中国を見て欲しいと思います。


1999年1月 執筆
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