松下政経塾 The Matsushita Institute of
Government and Management

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経済・産業・通商
2004年7月

塾生レポート

日本の基幹電源の将来像を考える(1)
福田達男/卒塾生

 国際社会の中で我が国が自律的な、そして自立的な発言が出来ずにいる理由は多々あるが、その一つにエネルギー自給率の低さがあることは一般にはあまり認識されていない。低い自給率の結果、日本の外交は、中東に影響力のある様々な国々の顔色を伺わざるを得なくなり、また中東に関係するであろう様々な事象への対応が及び腰になっている。私は、エネルギーの自給率を向上させることは我が国の国家としての自立への一助となるもの考えている。今回は、その第一稿として私案の概要を説明する。

 

1.はじめに

 私はこれまで日本の基幹電源の将来像を考え続けてきた。国際社会の中で我が国が自律的な、そして自立的な発言が出来ずにいる理由は多々あるが、その一つにエネルギー自給率の低さがあることは一般にはあまり認識されていない。現代の文化的生活の大前提は「電気が供給されること」にある。その電気供給の為には、発電の為の燃料が必要であり、その燃料を運ぶ輸送手段の為の燃料が必要であり、換言するればそれは「エネルギーの供給」ということになる。のちに詳しく述べるが、我が国はそのエネルギーの96%を輸入している。その内50%は石油であって、石油の86%を中東一極から輸入している。その結果、日本の外交は、中東に影響力のある様々な国々の顔色を伺わざるを得なくなり、また中東に関係するであろう様々な事象への対応が及び腰になっていることは否定のしようがない。私は、エネルギーの自給率を向上させることはただ単に国民生活を安定へと導くことのみならず、我が国の国家としての自立への一助となるもの考え、その向上へ努力をするものである。

2.我が国を取り巻くエネルギーの現状

 先に述べたように、現在、我が国のエネルギーは危機的状態にある。“危機的状況”にあることさえ認識されていない程、危機的状況にある。エネルギー自給率は4%を切った。ウランをワンスルーの国産エネルギー源に算入すれば20%(1)と多少増加するが、同様にウランを国産エネルギー源に算入した場合の数字は、ドイツの39%、フランスの50%、アメリカの74%、イギリスの123%(2)であり、先進国中最下位である事に変わりがない。そして、我が国がエネルギーの50%を依存する石油の中東依存度は79%であり、この数字もアメリカの21%、欧州の34%(3)等に比べ極端に高い。

 エネルギーは現代社会の命綱である。我が国の命綱は、現在もなお中東情勢に完全に依存しているといっても過言ではない状態である。

 平成14年6月に制定されたエネルギー政策基本法の規定に基づき、平成15年10月に国会に報告されたエネルギー基本計画は、(1)省エネルギー、(2)輸入エネルギー供給源の多角化や主要産出国との関係強化、(3)国産エネルギー等エネルギー源の多様化、(4)備蓄の確保を四本の柱とした、玉虫色の表現に終始し、我が国の危機的状況、我が国の行く末を、哲学を持って検討した結果とは到底考えられないものであった。そして、そのエネルギー基本計画は、その作成過程が不透明で、国民的議論を経たものとは言えない。むしろ、国民の知らないところで秘密裡に作成されたといっても過言ではない。国家としての戦略の上に設置されるべき発電所については、いわゆる電源三法に象徴されるように、依然として地域の利権、地域の反対といった各地域の事情に起因した施策がとられている。政府の政策立案また政策実行の為の政府、事業者、住民の三者の合意形成は、その試みが全くなされていない。

 国民的に議論されるのは、原発を絶対安全とする側と、絶対危険とする側に分かれ、着地点の無く主張しあう程度である。

 一方で産業部門(各企業)は70年代に起きた二回のオイルショックを経て省エネルギー製品の導入に極めて積極的に動き、日本のGDPあたりの消費エネルギーを米国の三分の一にまで効率化することに成功した。民間セクターの努力によって、政府セクターの不十分な部分をカバーしているといっても過言ではない。

 しかし、近年、その現場でさえJCOの臨界事故、東電の隠蔽問題等、経済効率を追い求めるあまり、安全をないがしろにし、真面目に働く者を踏み台にしている状態となり、片や日本全体としては、エネルギーに関し長期的な戦略に基づいた国家百年の計は皆無という、ミクロもマクロも憂えるに値する状況になりつつある。この状況は、「食糧やエネルギーの長期安定確保の問題など国際的視野をもって解決すべき幾多の難問に直面し、・・・帰するところ、国家の未来を開く長期的展望にいささか欠けるものがあるのではなかろうか」と、松下政経塾の設立趣意書にもあるように、松下幸之助翁が憂えておられた事態が現実のものとなっているとも言うことができる。

3.他国の現状

 アメリカは、原子力委員会から数回の合併・改組を経て1977年に新設されたエネルギー省を中心に、エネルギー確保に向けて実にしたたかに動いている。その結果エネルギー資源を通じて世界を席巻してきたし、現在もその米国優位はゆるぎないものになっている。京都議定書を脱退したのも、単に自国の経済的利益を狙ってのものではないということが最近認識されつつある。原子力については1979年のスリーマイル島事故以降、新規の商用プラント着工は無いが、軍事の名目で予算をとり、ロス・アラモス研究所を中心に着々と研究を進めている。

 中国は、現在一次エネルギー消費量の世界における占有率は9%(アメリカに次いで世界第2位)であるが、人口あたりのエネルギー消費量が仮に日本並になれば、その総消費量はアメリカの2倍を超え、実に53%の占有率となる(2)。1993年にエネルギー自給率100%を割込み、現在、自給率が95%(3)である中国も、更に海外依存度を高めることを見込んで、エネルギーの安定確保に向けて動いている。2001年に決定された第10次五カ年計画では、特に国内の電力供給網強化について述べ、他国と関係する内容については言及を避けたが、既にシーレーン防衛強化やパイプライン建設にむけて動いていることを多方面から聞く。また、最近の話題として、尖閣諸島の領有権問題と海中ガス田との関係が表面化している。

 欧州においては、各国間でエネルギーの授受のシステムを作り上げることによってエネルギーの安定確保を達成していると共に、例えばデンマークのように、かつて2%だったエネルギー自給率を139%にまで高めるといった施策がとられている(自然エネルギーに過度に依存し供給不安定となっている問題が最近クローズアップされてきた)。しかしながら、人口規模や人口密度といった点において、我が国とは状況が大きく異なり、それらの国の施策をそのまま我が国に適用するには無理がある。

4.日本のエネルギー政策の実情

 日本ではエネルギー政策が国会の場で大きな論点になったことは記憶にない。それ程までに深刻なエネルギー不安に陥ったことがないからである。しかしながら、それが万能なエネルギー政策によってもたらされたかと言えば、決してそうではない。エネルギー政策に限らず、日本は政策立案をほぼ官僚組織が独占しているがために、一般の知識を立法過程に積極的に取り入れる体制が整っておらず、政策立案能力に限界をきたしていると言わざるを得ない。その象徴的な結果がエネルギー自給率4%という状況を生んでいると考える。

 1973年の第2次オイルショック以降、少なくとも日本を取り巻くエネルギー事情は図らずも安定し続けてきた。中東の一部の国々で戦争が起こっても、多くの場合サウジアラビアがスタビライザー役を果たして、その国々の生産減少分を補い、中東全体としての生産量の安定化を図ってきた。そのような状況は日本にとって極めて好ましいものであったが、それが未来永劫続くと言う保証はない。全てはサウジアラビアの政情が安定しているという前提での話しである。また、オーストラリアやカナダの鉱脈から採出されるウラン鉱石は、イギリスやアメリカなど海外及び日本国内の複数の燃料加工会社の手を経て最終的に原子炉に稼装する燃料ペレットとなるが、少なくとも日本が現在有している二つの燃料加工ルートが通る数カ国においては、これまでどの国も政情不安定になったことはなく、何れのルートからも安定した原子燃料の供給を得ることが出来た。これら石油火力発電や原子力発電用の燃料が安定して入ってきたからこそ、我が国は自給率4%であっても、残りの96%を輸入に頼って電力の安定供給をすることが出来たのである。その燃料の輸入にあたって、供給元の安定を保とうとする日本政府の並々ならぬ外交努力があったことには敬意を表したい。しかしながら、同時にそのルート上には、日本政府ではどうにもしようがない箇所があったことも忘れてはならない。これまでルート全体が安定していたのは、その手の届かない部分においても偶然にも安定が続いていたからなのである。

 20世紀の戦争のほぼ全てがエネルギー、特に石油の主導権を廻る争いであったのも、我が国がこの混沌とした国際情勢の中で、大きな発言が出来ずにいるのも、世界各国がエネルギーの主導権争いを続け、我が国もその大きな傘の中にいることの証である。私は、我が国の根底にある共存共栄の精神こそ、これからの人類の繁栄幸福に必要なものであると信じている。そのためには、我が国が世界の中で自立し、リーダーシップの一翼を担っていくことが絶対に必要である。日本がエネルギーの安定供給に努力することは、日本が国際社会でリーダーシップを発揮するに絶対に必要なことである。

 現在、我が国政府、特に政治家がエネルギー確保の重要性をどこまで認識し、そして、将来にわたって我が国のエネルギーを安定確保するために、イラン情勢など今正に対応を迫られているという認識をどこまで持っているのか、各国と比べても大きな不安を持たざるを得ないのが現状である。

5.日本のエネルギーのグランドデザイン

 以上述べてきたような様々な不安が我が国には現存する。ここで現状をよく見てみると、果たして我が国のエネルギーのグランドデザインというものは何なのだろうという疑問に到る。これまで色々と資料をあたってきたが、国家百年の計と呼ばれているようなグランドデザインが、ことエネルギーの分野に関して言えば存在しない。それがこれまでの、場当たり的といっては言い過ぎかもしれないが、不安材料を抱えたエネルギー行政に行き着いてしまったのではないだろうか。

 そこで現在の私が考えている日本のエネルギーのグランドデザインについて述べてみたいと思う。

 私は、エネルギーの自給率とは二つの数字があると考えている。一つは平常時、即ち世界情勢が安定しているときの自給率である。もう一つは非常時、即ち世界情勢が不安定になった時である。前者は石油ショックが収まって以降、現在までの世界情勢とも表現できる。この安定した世界情勢の中では、僅か4%の自給率であっても、国民生活に必要なだけのエネルギー、電気を供給することが出来たのであるから、様々なマイナス要因はあるにせよ、これでよしとすることも不可能ではない。問題は後者である。日本が恐れるべきは中東でなんらかの政情不安が発生した時など、世界情勢が不安定になったときであろう。我が国のエネルギー自給率が低いことの問題点は、いざ石油が入ってこなくなったときに対処のしようがない、備えが無いことである。

 現在の我が国の石油備蓄は国家備蓄制度91日、民間備蓄制度78日の計169日、約半年分の国家備蓄がある。これは同様に天然資源に乏しい他のアジア諸国と比べて突出して多い備蓄量であるが、いざ石油が入ってこないとなれば少なくとも現在のような安定した生活はおくれないであろう。また、更に長い目で見れば、石油が遅かれ早かれ枯渇することは明らかである。採掘技術の進歩から新規油田の開発も進んだためか、石油の枯渇について一時期ほど不安に思う動きは減ったが、物理的に無いものは無いわけであるから、孫の世代、ひ孫の世代に枯渇が訪れることは否定のしようがない。また、石油を完全に使い切ることは現在石油の形で固定化されている二酸化炭素を大気中に放出することであるから、その観点からも石油に頼ることは改善せねばならない。

 そこで私が考えている日本の行き着くべきエネルギーの供給体制について述べる。私が考えている供給体制の変革のフローは以下の3ステップである。

(1) 第1ステップ(現在~2020年)
現行システムの円滑運用期
⇒1. 原子力の予防保全強化
⇒2. 化石燃料の安定確保
現状の火力、原子力中心の供給体制を維持する。安定した運用の為に、国内外の安定に努力する

(2) 第2ステップ(2021年~2050年)
脱化石燃料の移行期⇒化石燃料系燃料電池
燃料は化石燃料であるが、燃焼ではなく、燃料電池を主体とした改質によってエネルギーを得る

(3) 第3ステップ(2051年~)
自立期⇒バイオ系燃料電池
バイオマスを主体とした、循環型のエネルギー供給体制を構築する。また、石油が入ってくるうちは、第2ステップで構築した化石燃料系燃料電池も併用する。

 もう少し詳細を述べる。私は2050年程度を目標にして日本のエネルギーの主体を、バイオマスのエタノールにすべきと考えている。エタノールであれば、輸送機関の燃料としても使用することができるし、また、燃料電池の形で各需要端で発電することができる。大規模発電所で発電して高圧電線で遥か彼方の需要端まで電気を運ぶ集中電源方式も終えることができる。そしてなによりも、バイオマスの素晴らしいところは、バイオマス系燃料を仮に燃やしたとしても、その時に排出する二酸化炭素の量は、もとになった植物が生長するときに吸収した二酸化炭素の量をこえることは絶対に無いのである。

 バイオマスが、現在の火力発電に取って代わるほどの基幹電源になるとは信じられない方が多いかと思う。発電容量やコスト、そして技術的な面など様々な否定的意見はあると思う。しかし、その何れもが解決不可能ではないし、また、それでは石油に取って代わる他の電源を提案しているかと言えばそうではない。少なくとも私はバイオマスについて実現不可能とは考えておらず、これからのエネルギー政策の方向性によっては、日本のみならず世界のエネルギー事情を大きく変える可能性のある技術であると考えている。

6.最後に

 今回は、様々私がこれまで考えてきた3ステップのうち、最終段階のステップ3の一部について説明させて頂いた。本年度においてはあと二回、私が現在行っていることについて書かせていただく機会がある。その中で、他の2つのステップも含め、技術的な面のみならず、現在のエネルギー政策が抱える問題点、また改正すべき法律について述べたいと思う。

[参考文献]
(1) Energy Balances of OECD Countries, 2001 IEA/OECD
(2) BP統計, 2001
(3): エネルギー基本計画(骨子)より抜粋
(4) 電源開発促進法、電源開発促進対策特別会計法および発電用施設周辺地域整備法
(5) Energy Balances of non-OECD Countries, 2001 IEA/OECD
(6) 平松茂雄「中国のエネルギー事情と原子力発電問題」、Energy, Security and Environment of Northeast Asia, Center for Global Communications
(7) Kenji Stefan Suzuki、デンマークという国、合同出版(2003/6)
2004年7月 執筆
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