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茶道という「道」に触れて

 「その道に入らんと思う心こそ 我が身ながらの師匠なりけれ」
利休百首の最初の歌である。何事でもその道に入り、その道を学ばんとするには、まず「志」を立てなければならない。この「志」があれば、その人自身の心にすでに立派な師匠ができているのであるというのだ。これは茶道だけでなく、学問の道や政治の道など、すべての面において言えることである。

 茶の心とは、利休の唱えた「和敬清寂」という四字の中に集約されるという。「和」はお互い同志が仲良くする、和し合うこと。「敬」はお互い同士が敬い合うという意味。「清」は心の中が清らかであること。自分自身で、自分の力で、自分の気持ちを清めようとする心である。「寂」とはどんな時にでも動じない心。誰でも自分の未来を予測することはできないのであるから、どんな事態に陥ったときでも、それに動じないだけの心を持たなければならないのである。

 私は四月の入塾以来、茶道に接するに当たって、特に上記の二点、「その道に入らんと思う心こそ 我が身ながらの師匠なりけれ」と「和敬清寂」を常に念頭においてきた。中島宗基先生が政経塾でのご講義の最初の段階で、茶道の型だけでなく、このような「茶の心」をお教えくださったことが、私の茶道に対する想いを真剣なものにした。さらに言えば、わずか半年という短い期間ではあったが、毎週一回の茶道の時間は、私にとって政経塾での生活の一番楽しみな時間となった。

 宗家研修ではこれまでの茶道に対する私の理解を一層深める良い機会であった。それだけでなく日本の伝統、歴史、精神文化というものの一端をこの目で直に触れることができたのはこの上ない喜びである。塾主が我々に何を伝えたかったのか、非常に多くのことがあると思うが、概して「日本」を本質的に理解すること、その一つの方法として「茶道」が一番適していたのでないかと感じた。

 三日間、宗家研修は作務とよばれる掃除からはじまった。私は宗家の玄関口と裏庭の掃除を担当した。この掃除という作業にも「やり方」がある。いかに合理的に、綺麗に掃くか、さらには来てくださるお客様に対していかに気持ちのこもった玄関口を演出するかなど配慮の行き届いた掃除の心がけを教えていただいた。

 宗家研修でその長い歴史と伝統を体感できたのは、今日庵の見学によるところが大きい。利休の四畳半を正しく再現した又隠(ゆういん)や八畳半敷きの寒雲亭など由緒ある茶室は、四百年もの間に多くの茶人を世に送り出した荘厳な雰囲気が漂っていた。この長い歴史と伝統を守り、また明治時代に立礼式(りゅれいしき)を考案したり女学校に茶道を取り入れたり、広く海外に広めるなどして引き継いできた裏千家の素晴らしさを実感した。そしてこれまで初心者の我々を寛大な心でお教えくださった中島宗基先生から直にお点前をいただいたときは、深い感銘と感激を覚えた。

 実技研修では政経塾での茶道よりも緊張感を数段増して取り組んだ。先生は懇切丁寧に教えてくださるだけでなく、ユーモアあふれるお話を交えて指導してくださった。町田宗芳先生の濃茶のお点前はまさに芸術そのものであり、その動作一つ一つに感動を覚えた。白波瀬宗幸先生は江戸弁で言うところの「粋」という表現がまさに当てはまる方で、「お稽古としての茶道」と「究める道としての茶道」のお話や、海外でのご経験など様々なお話がとても有益なものであった。大徳寺を案内してくださった町田宗隆先生の詳細で分かりやすいご説明では、裏千家に伝わる歴史や伝統が深く理解することができた。そして修了式のときに中島宗基先生がご講和くださった「主人公」のお話は、深く胸に刻み決して忘れることはないだろう。

 裏千家の千宗室家元が監修された教科書、「新版茶道」の「はじめに」の部分でお家元は「現代に生きるわたくしたちにとって、今一番大切なことは何でしょうか」と問いかけ、「それは人間としての本来の心を持つということではないでしょうか。動物のように本能的にいきるのではなく、真・善・美の三位一体を備えた人間となるのが本当の人間らしい生き方といえるのです」と述べている。そして「茶道を身につけることが日本人の心の豊かさと和らぎとを得る最上の方法であったかということを、卒業の時に初めて理解できると思います」と述べ、「これからは道としての茶、文化としての茶、修行としての茶といった『道(心)・学(茶道学)・実(実技を通じての働き)』の三つを実践しながら、現代のはげしい移り変わりに対処できる、新しい人間像を、茶道の中から見出すことができることを願ってやみません」と締めくくっている。

 今まさに私はこのお家元のお言葉を噛み締めている。塾主が我々に伝えたかったことの本質がここに垣間見る気がしてならないからである。

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