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意志は痛みを超えて

 「道しるべ  我を問い直し  意志固め」

 100キロ行軍に挑む前に、私の意気込みを詠んだものである。100キロを歩くということは、距離や時間では測ることができるものの、どのような精神状態になるのか、肉体的にどのような疲労が待ち受けているのか、全く想像できるものではなかった。一ついえることは、歩くという意志であり、それは自分自身との闘いであるであろうことだった。私は「24時間以内に完歩できなければ卒塾できない」という小さな次元のことよりも、「これくらいのことができなければこれから待ち受けている人生のあらゆる試練にも耐えることができない」という気迫を込めて自分との闘いに挑むつもりであった。しかし、歩いていく道程で、様々な迷いや岐路があり、その時々で自分を問い直す機会があるのではないか、自分を問い直した結果、改めて自分の意志というものを確認し、さらに強い意志として固めてこようではないか。そう決意して詠んだのが冒頭の句である。果たして100キロを歩いた結果は、私の想像した以上に意志の力が必要なものであった。

 約5キロ地点にできたマメが原因で、朝方の午前三時頃、約70キロ地点を過ぎた頃、葉山の長者ヶ崎をすぎて逗子に向かう途中で、指の皮膚と爪ごとすべてがはがれ、溢れんばかりの血を伴って肉がそのまま露出してしまったのである。靴など履けたものではない。歩くにしても一歩一歩踏み出すごとに、足の指先に激痛がはしる。私の脳裏にはすかさず「リタイア」の文字がよぎった。チームメイトには決して口にすることはなかったが、可能性の一つとして「リタイア」を選択肢に考え始めたのだ。政経塾職員の桜井さんに電話して、「もし、私が辞退したら、他のチームメイトも失格になるんですよね?」と、私がリタイアした場合の事態を想定する。政経塾の研修で原理原則が覆されるはずもない。さらに私がここで一番自問自答したのは、「こんなことでリタイアしていて、今後の人生で起こりうる耐え切れないほどの試練に打ち勝つことができるのか」ということであった。

 ここから私の自分との闘いがはじまった。チームメイトの鳥飼君に、簡単な応急処置をしてもらい、靴下はなんとか履けた。しかし、靴を履くことができない。仕方なく、靴を鳥飼君に持ってもらい、裸足のまま歩き始めた。「右足一歩、激痛、左足一歩、激痛、右足一歩、激痛、左足一歩、激痛…」と、あのときの私の頭の中の感覚はこのようなものである。途中、古山塾頭や先輩方が乗る応援隊が駆けつけ、原田さんが「そんなものは痛みのうちに入らない!靴を履け!!」と暖かい(?!)声援を送ってくださり、サンダルのように軽く靴を履いたものの、片足を引きずりながら歩くことに変わりはなかった。そうこうしているうちに、時間は刻々と過ぎていく。あたりは限りなく透明に近いブルーに染まり、明け方の薄ら明かりに包まれ、人々の生活が始まろうとしている。「このまま足を引きずりながら歩き続けても、24時間以内にゴールに到達することはできない」。強く、強く、自分を問い直した。「これでいいのか!自分に胸を張れるか!…」。

 自分を追い込んで、問い詰めるように考えた。携帯メールに入った声援が私に問いかける。「この道は未来への道。自分の物語」。これが今までの自分の殻を突き破った。「痛みに耐えて歩き抜く!24時間以内に完歩する!!」。逗子駅の市街地に続くトンネルを抜けて、私が腹をくくった「意志」である。トンネルを抜けると私は靴を履いた。意志は、痛みを超えて、私を普通に歩かせた。いやチームメイトよりも早く歩くときもあった。全身筋肉痛も絶好調で、足の激痛も程度を増し、涙がチョチョギレル思いであったが、午前九時過ぎ、政経塾の皆さんに迎えられて、無事ゴールすることができた。血が滲み出てきて、真っ赤に染まった私の白いスポーツシューズ(AIR MAX)が、100キロ行軍で私が自分自身と闘い、強く自分を問い直し、腹をくくって意志を固めた証拠品である。私にとって100キロの道は、未来に続く道となった。

 私が完歩できたのは、当然のことながら自分自身だけの力ではない。サポートしてくださった先輩方や塾の皆様にあらためて深く感謝したい。私を叱咤激励してくださった原田さんがいなければ私は自分を追い詰めることができなかった。ここで謝意を述べさせていただきたい。さらに常に私を気遣ってくれたチームメイトの鳥飼君には感謝してもしきれない。そして私がこのような生活をおくることを寛大に見守ってくださる家族に改めて感謝したい。最後に、携帯メールで私を支援してくださった大切なる私の友人達に最大の謝意を表する。

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小野貴樹の活動報告

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Takaki Ono

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第23期

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