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本レポートでは、2024年5月1日から12月12日までの約7か月半にわたるBeyond Next Ventures India Pvt. Ltd.[1](以下、BNVI社)での経営実践研修について、日々の業務を通しての学びを記す。
はじめに、私が研修をさせて頂いたBNVI社の概要について簡単にまとめる。私は業務の傍ら、「経営とは」についてインタビューをインドのスタートアップ創業者の方々と実施した。BNVI社CEOの伊藤毅氏、そしてインドのスタートアップ創業者へのインタビューについて記述し、松下幸之助塾主(以下、塾主)の経営の要諦を交えながら考察をまとめる。
BNVI社(所在地:インド共和国 ベンガル―ル市)はBeyond Next Ventures株式会社(所在地:日本 東京都中央区 以下、BNV社)の100%子会社である。BNV社は日本とインドのスタートアップに投資しており、日本とインドで運用総額約450億円のディープテックに特化したベンチャーキャピタルである。BNVI社は2019年からインドでの投資活動を開始し、これまでにヘルスケア、アグリ・フード、AI・デジタルなどの分野で15社に投資している。2024年5月7日にはインド向けの新しいファンドを設立した。さらに、インド最大のイノベーションハブであるT-Hubと覚書(Memorandum of Understanding)を締結している[2]。このコラボレーションにより、有望なインドのスタートアップへの投資機会を増やし、日本企業をT-Hubのエコシステムに接続し、日本とインド間のオープンイノベーションを促進している。
2-1. 価値観と採用戦略
伊藤社長は組織文化と個々の価値観の一致を重視しており、これがBNVI社の採用戦略の核をなしている。伊藤氏は、採用プロセスで新入社員に企業の価値観を理解し、共有することを求めている。このアプローチは、社員が企業の長期的な目標と調和し、組織の一員として貢献することを促進する。伊藤氏は、採用時だけでなく、入社後も定期的に価値観を共有する機会を設けており、これによって社員間の一体感とモチベーションが維持されている。塾主は、まず経営理念を確立することの重要性について次のように言及している。「この会社は何のために存在しているのか、この経営をどういう目的で、またどのようなやり方で行っていくのか、という点について、しっかりとした基本の考え方を持つということである。」[3]BNVI社の社員1人1人が、会社の経営理念に共感し、それを業務で実際に実行している。また会社のために、というよりも社会課題の解決、技術の発展のためにという熱意が非常に高いと感じた。
2-2. オーケストラモデルの導入
組織をオーケストラに見立てるこのモデルでは、各個人が特定の楽器を演奏するように、自分の役割において最高のパフォーマンスを発揮する。伊藤氏は、各社員が自身の強みを理解し、それを活かすことで全体の調和と効率を高めることを目指している。このモデルは、多様なスキルと背景を持つチームメンバーが協力し合うことで、より複雑で革新的な問題解決が可能になるという考えに基づいている。これはインドのスタートアップでも同様の組織づくりがなされている。特に創業初期は、CEOはもちろん会社全体のマネジメントをしなければならないが、細かい業務に関して、例えばファイナンスや人事総務、マーケティング、技術などの各セクターでは創業メンバーでその分野での経験を持つ人間に任せる。ある程度事業が軌道に乗り、人員を増やしていくと、その創業メンバーにそのチームのマネジメントを任せていく。塾主も任せて、任せずということについて次のように言及している。「任せた以上はあまり細かな口出しはすべきではなく、ある程度は大目に見ていくということがその人を育てることになる。」[4]後継者やリーダーの育成として機能している。またミドルアップ型の組織の構築に繋がると考える。
2-3. 持続可能な成長戦略
伊藤氏は短期的な成果よりも長期的なビジョンを優先し、持続可能な企業成長を目指している。伊藤氏のリーダーシップの下、BNVI社は革新を重視し、新しいビジネスモデルや製品開発を手がけるスタートアップへ積極的に投資をしている。社内でのイノベーションを促進するために、社員が自ら問題を認識し、解決策を提案できる環境を整えており、これがBNVI社の成長に直結している。例えば、伊藤氏は自ら考え行動する「自創型」の社員を重視している。そのために会社として成長機会を提供している。例えば、ゼロイチ・プロジェクトという社内プロジェクトを積極的に担当させ、プロジェクト管理やリーダーシップの経験を積ませる。これは伊藤氏自身が、前職においてチームをマネジメントする苦労を経験し、上司からの支えで成長できたことから、自分自身にできたのであれば、機会とサポート体制を整えることで、誰でもマネジメントをすることができるという体験談から、社員の挑戦と支援を大切にしている。コーポレートスローガンにもある、「Go Beyond, Be Brave.」 新しいことに果敢に挑戦する風土を指し、起業家を後押しする組織だからこそ、自分たちも起業家マインドを持ち、失敗を恐れずに新境地を開拓し続ける、この文化がBNVI社の成長を支えていると考えている。塾主は時代をつくっていく経営をしたい、と次のように述べている。「自ら時代を創っていこうという積極的な姿勢が今日のような激動の時代には極めて重要なのではないでしょうか。」[5]自創経営により、未来を切り開く新しい技術への投資を習慣化させ、イノベーション創出の場ができ、未来を創ることができると考える。
2-4. 文化と対話の重視
インドという多様な文化が存在する国で経営する上で、伊藤氏は異なる文化背景を持つチームメンバー間の対話と理解を深めることに注力している。オープンなフィードバックを奨励し、上司と部下の率直な意見交換ができる環境も整えている。この取り組みにより、文化的差異に基づく誤解や衝突を最小限に抑え、チームの協調を促進している。また、文化的感受性を持つことで、国内外の顧客やパートナーとの関係構築にも寄与している。塾主は衆知を集めることについて次のように言及している。「衆知を集めた全員経営。衆知を集めて経営していくことの大切さを知って、日頃から努めて皆の声を聞き、また社員が自由にものを言いやすい空気をつくっておくということである。そういうことが日常的にできていれば、ことにあたって経営者が1人で判断しても、その批判の中には既に衆知が生きているといえよう。」[6]裁量内で各自が創意工夫し、多くの知恵が集まる基盤が整っている。
伊藤氏の経営戦略は、伊藤氏の哲学と緻密な計画によって支えられており、BNVI社を成功に導く重要な要素と考えている。伊藤氏のアプローチは、社員の潜在能力を最大限に引き出し、持続可能な成長を実現するための環境を提供することに焦点を当てている。このような経営手法は、他の企業にとっても模範となり得るものであり、特に多文化かつダイナミックな市場環境において、その有効性が示されていると考えている。BNVI社においておよそ7ヶ月半に渡る貴重な機会を頂戴したこと、そして松下政経塾からの支援においてこのような経験を積ませて頂けたことに感謝申し上げ、この経験を私の志の実現に活かしていくことをここに約束したい。
[1] Beyond Next Ventures株式会社ホームページ INDIA インド投資 日印連携
INDIA | Beyond Next Ventures株式会社
(参照2024-12-19)
[2] Beyond Next Ventures株式会社ホームページ INDIA インド投資 日印連携
日本企業とインドスタートアップのオープンイノベーションの加速へ – インド最大級インキュベーター「T-Hub」と戦略的MOUを締結 | Beyond Next Ventures
(参照2024-07-25)
[3] 松下幸之助 『実践経営哲学 経営のコツここなりと気づいた価値は百万両』.PHP1890年3月.p22
[4] 同上、p151
[5] 同上、p176
[6] 同上、p89、90、91、92
松下幸之助 『実践経営哲学 経営のコツここなりと気づいた価値は百万両』PHP1980年3月
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Taro Endo
第44期生
えんどう・たろう
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故郷の復興・創生の実現に向けた未来志向の町づくりの探究