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本レポートでは、2024年5月1日から12月中旬までの約8か月間にわたるBeyond Next Ventures India Pvt. Ltd.[1](以下、BNVI社)での経営実践研修について、日々の業務を通しての学びを記す。
はじめに、私が研修をさせて頂いているBNVI社の概要について簡単にまとめる。私は業務の傍ら、2024年5月1日から7月下旬までの約3か月間、「経営とは」についてインタビューをインドのスタートアップ創業者の方々と実施した。その中からBNVI社CEOの伊藤毅氏及び、ハッピー・トピア(Happy Topia)社[2](以下、ハッピー・トピア社)の創業者であるクンザン(Kunzang)氏(以下、クンザン氏)へのインタビューについて記述し、自らの考察をまとめ、研修の中間報告とさせていただく。
BNVI社(所在地:インド共和国 ベンガル―ル市)はBeyond Next Ventures株式会社(所在地:日本 東京都中央区 以下、BNV社)の100%子会社である。BNV社は日本とインドのスタートアップに投資しており、日本とインドで運用総額約480億円のディープテックに特化したベンチャーキャピタルである。BNVI社は2019年からインドでの投資活動を開始し、これまでにヘルスケア、アグリ・フード、AI・デジタルなどの分野で15社に投資している。2024年5月7日にはインド向けの新しいファンドを設立した。さらに、インド最大のイノベーションハブであるT-Hubと覚書(Memorandum of Understanding)を締結している[3]。このコラボレーションにより、有望なインドのスタートアップへの投資機会を増やし、日本企業をT-Hubのエコシステムに接続し、日本とインド間のオープンイノベーションを促進している。
経営における成功は、適切な人材の採用、価値観の共有、効果的なコミュニケーション、そして持続可能な組織文化の構築にかかっている。本項では、BNVI社CEO伊藤氏へのインタビューを通して、BNV社の経営戦略を中心に、採用、評価、コミュニケーション、チームビルディング、専門特化、文化理解などの要素がどのように統合されているかを分析した。
BNV社の採用戦略は、価値観の共有に重点を置いている。採用時には、候補者に対してBNV社の価値観をプレゼンテーションさせ、自身の価値観とどれだけ一致するかを評価する。これにより、共通の行動指針を持つメンバーを選抜し、社内での議論や業務におけるズレを防ぐ。また、評価基準に価値観の実践度と業務成績を取り入れ、社員が日々の業務で価値観を具体的に実践することを促進している。特に伊藤氏は完璧な人材を求めておらず、荒削りでも頑張れる人材を育てることで、持続可能なビジネス関係を築くことにフォーカスしている。
BNV社では定期的なコミュニケーションを通じて、価値観の浸透を図っている。月1回の全体月1回の全体会議、月1回の社内報(日本語版並びにそれを翻訳した英語版)、半年に1回の目標設定会議などを通じて、全社員へ自身の価値観を文章と言葉で共有する。これにより、価値観の実践が組織全体に伝わるようにしている。
伊藤氏は、各メンバーが専門分野で強みを発揮し、全体として調和を生み出す「オーケストラ」のような組織を目指している。各メンバーの専門性を把握し、それを最大限に活かすことで、組織全体のパフォーマンスを向上させることができる。またBNV社では専門特化型の投資戦略を採用し、特定の分野に特化することで他のベンチャーキャピタルとの差別化を図っている。この専門特化型かつ「オーケストラ」のような組織創りでは、専門分野のキーマンが抜けた場合のリスクが大きい。しかし、経営層がその欠けた部分をカバーする体制を整えており、また各人が自分の持ち場を実感してお互いに尊敬し合う関係性構築を意識することで、リスクの解消に取り組んでいる。BNVI社はインド市場への深い理解とコミットメントを重視している。特にディープテック領域においては、現地文化への深い理解が不可欠である。投資先のスタートアップ、投資家、そしてBNVI社自身の三方が利益を得ることを目指している。
結論として、BNV社の経営戦略は、価値観の共有と実践、専門特化、綿密なコミュニケーション、インド文化の理解に基づいている。これにより、社員ひとりひとりが最大限のパフォーマンスを発揮し、強固な経営基盤を築くことが可能である。このアプローチは、持続可能な組織文化を創造し、グローバルな競争環境での成功を確実にすると確信している。
ハッピー・トピア社は、最新のAI技術を駆使してガチャガチャマシン事業を展開するインドのスタートアップである。現在、ベンガルール(Bangalore)とハイデラバード(Hyderabad)で150台以上の自動販売機を運営しており、全国で5000台以上に拡大する計画を立てている。この拡大は、ジョシュ・アプリ(Josh App)社の親会社であるバース・イノベーション(VerSe Innovation)社(以下、バース・イノベーション社)との戦略的パートナーシップの一環であり、バース・イノベーション社は、ハッピー・トピア社のスマート自動販売機を技術的に支援し、ショッピング体験を向上させることを目指している。[4]
創業者であるクンザン氏が12歳の時(2017年)に、初めてスニーカーの転売で利益を上げたことからビジネスに興味を持ち、後にハッピー・トピア社を創業。ハッピー・トピア社はガチャガチャマシンを用いた子ども向けの玩具を販売しており、マシンはバッテリー駆動で電源不要、データ一元管理で効率的に運用されている。1000種類以上の玩具カプセルは全てインド国内の業者から仕入れたインド製品だ。全てのマシンはデータで一元管理され、バッテリーやカプセルの残量、購入履歴などが即座に確認できる。購入履歴もデータ化され、どの顧客がどこで何を購入したかが把握できる。
彼の今後の展望と戦略は、インド製の玩具を使用し、モディ首相の「中国製玩具輸入禁止」政策に沿った事業を展開し、中東市場への進出を視野に入れている。特にインド神話の神々のキャラクター化を考え、ガチャガチャの枠を超えたビジネス展開を構想しているようだ。また、クンザン氏は、自身が若いという強みを最大限に活用し、ビジネスを展開している。例えば、自ら飛び込み営業を行い、設置場所を確保。若さを武器にした戦略が成功を収めている。松下幸之助塾主の考えにおいて言えば、彼の信条は「率先垂範」[5]になると私は考える。このように彼は、彼自身がまず動くことで周囲を動かす、若さとおもちゃへの愛という武器をひっさげ、自ら飛び込み営業を行うことで、わずか17歳で起業し成功を収めている。
両者へのインタビューから見えるのは、経営における価値観の共有とコミュニケーションの重要性、そしてそれぞれの企業が独自の戦略を持っていることだ。BNV社は、価値観の共有と専門特化による差別化を重視し、持続可能な組織文化を築いている。一方、ハッピー・トピア社は、若さと熱意を武器に、技術革新と効率的な運用、戦略的パートナーシップを通じて急速に成長している。これらのアプローチは、どちらも経営の成功に寄与しており、異なる市場環境における有効な経営戦略を示しているものと私は考える。特にクンザン氏へのインタビューで、インドでは幼いころから両親含む大人と様々なトピックについて議論を重ねるのが習慣であることに驚いた。日常の些細なことから、政治、経済について議論を幼いころから大人と対等にすることで、アクティブラーニングを自然と実践している。
伊藤氏は、“若い方々が挑戦する上でその背中を押したい”と常々おっしゃっている。その思いから、このような機会を頂戴したこと、そして松下政経塾からの支援においてこのような貴重な経験を積ませて頂けることに感謝し、残りの研修期間、全身全霊で頑張りたいと考えている。
[1] Beyond Next Ventures株式会社ホームページ INDIA インド投資 日印連携
https://beyondnextventures.com/jp/india/
(参照2024-07-25)
[2] ハッピー・トピア(Happy Topia)社の概要について Inc42記事を参照
https://inc42.com/buzz/josh-parent-verse-forays-into-kids-entertainment-space-with-happytopia/
[3] Beyond Next Ventures株式会社ホームページ INDIA インド投資 日印連携
https://beyondnextventures.com/jp/news/3152
(参照2024-07-25)
[4] Happy Topia社“Josh appの親会社であるVerSeとの提携について
https://www.siliconindia.com/news/startups/josh-apps-parent-company-verse-has-joined-hands-with-happytopia-nid-226530-cid-19.html
(参照2024-07-25)
[5] 松下幸之助 『実践経営哲学 経営のコツここなりと気づいた価値は百万両』.PHP1890年3月.p128,129,130
松下幸之助 『実践経営哲学 経営のコツここなりと気づいた価値は百万両』PHP1980年3月
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Taro Endo
第44期生
えんどう・たろう
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故郷の復興・創生の実現に向けた未来志向の町づくりの探究