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本レポートでは、2025年5月上旬から同年6月上旬までの約1ヶ月にわたる、とみおかワイナリー[1]での現場研修の内容について、日々の業務を通じて得られた学びを報告する。
まず初めに、私が研修を行った「とみおかワイナリー」の概要について紹介する。その後、実際に携わった業務内容を振り返りながら、現場での経験を通じて得た知見を整理する。加えて、来訪者の方々へのヒアリングを実施し、「なぜ人々はこのワイナリーを訪れるのか」という問いに対して、得られた声をもとに分析を行った。その結果をもとに、ボランティア参加者や来訪者の動機や背景について考察し、ワイナリーが地域社会とどのように関係性を築いているかについても論じていく。
福島県双葉郡富岡町[2]。に位置する「とみおかワイナリー」は、東日本大震災後の地域復興と新たな産業創出を目指す取り組みとして注目されている。震災によって深刻な被害を受けた富岡町において、町民自らが未来を見据えた産業として選んだのがワインづくりであった。
このプロジェクトは、2016年に町民有志10名により結成された「とみおかワイン葡萄栽培クラブ」から始まった。避難指示が解除される前から町内2か所に試験的にブドウの苗木を200本ずつ植栽し、ワイン造りへの第一歩を踏み出している。2018年には「一般社団法人とみおかワインドメーヌ」が設立され、ブドウの栽培活動は本格化した。そして、2020年には外部委託により初めてのワイン醸造が実現し、2023年には事業運営を担う「株式会社ふたばラレス」が設立された。
2025年5月17日には、常磐線富岡駅から徒歩3分、かつて津波浸水区域であった土地に本格的な醸造所と販売施設を併設した「とみおかワイナリー」がグランドオープンを果たした。
現在、富岡町内の3か所、合計7.0ヘクタールの圃場において、約10品種、総数16,000本のブドウの樹が育成されている。この「16,000本」という数字は、震災前の町民数に等しく、「震災前の町の活気を取り戻したい」という強い決意の象徴となっている。こうした取り組みには全国から多数のボランティアが関わっており、これまでに延べ3,000人以上が参加している。ブドウの栽培からワインの醸造・販売に至るまでを一貫して自社で手がける体制が構築されたことで、「とみおかワイン」は地域ブランドとしての地位を確立しつつある。
私は2025年5月17日にグランドオープンした、とみおかワイナリー併設のガーデンキッチン「バッカス」の運営全般に携わった。「バッカス」では、富岡町およびその周辺自治体で生産された地元食材を活用した料理や飲料を提供しており、地域の魅力を味覚から体験できる場となっている。また、来場者はワイナリー内で購入した商品を、目の前に広がるサッカーコート半面ほどの芝生スペース(写真1)に設置された常設テントの中でくつろぎながら楽しむことができ、自然と調和した開放的な空間が提供されている。私はこの施設の運営に関わると同時に来訪者、約200名に対してヒアリングを実施した。以下では、その調査結果をもとに、来場者の動機や傾向に関する分析を報告する。
2-1. 訪問者の年齢層と性別
調査データによると、とみおかワイナリーを訪れた人々の年齢層は非常に幅広く、20代から70代までを含んでいた。特に40代〜50代の中高年層が多くを占めており、性別では男性・女性がほぼ均等に分布している傾向がみられる。この層は、地域社会の活性化に関心を持つ層であると同時に、観光と文化体験を重視する世代でもあるため[3]、ワイナリーの理念と親和性が高いといえる。常に高いと感じた。
2-2. 来訪元の地域
訪問者は近隣の市町村である楢葉町、いわき市、郡山市といった地元地域のほか、仙台市や横浜市などの県外都市からの来訪も確認された。特に仙台市からの来訪者が多く、首都圏や東北の都市部からのアクセス性が評価されていることが示唆される。これにより、とみおかワイナリーは地域内外から人を呼び込む中間拠点としての機能を果たし始めていると考えられる。
2-3. 認知経路と来訪理由
来訪者がワイナリーの存在を知ったきっかけとして最も多く挙げられたのは、「テレビ」「新聞」「折込チラシ」といったマスメディアによる情報発信であった。さらに、専門家によるフィールドワークや大学関係者の活動を通じた認知も見られた。これらは、単なる観光施設ではなく、学びと交流の場としてのワイナリーの可能性を示している。
来訪の理由については、「テレビで見て気になった」「震災復興への関心」「ボランティア活動への参加」「移住を検討している」といった多様な動機があり、観光だけでなく、社会的な関心や地域への共感による来訪が目立っている。特に「移住者」や「復興に関心がある」という補足コメントからは、ワイナリーが富岡町への定住促進や地域との精神的なつながりを醸成する装置として機能していることがうかがえる。
2-4. 分析結果の示唆
本調査から得られた訪問者の傾向は、とみおかワイナリーが単なる観光地にとどまらず、「復興の象徴」「交流の場」「学びの空間」としての役割を担っていることを裏付けている。特に地域外からの訪問者が震災や復興に関心を持ち、ワイナリーを通じて富岡町との接点を得ていることは、今後の地域ブランディング戦略や交流人口の拡大に大きく寄与すると考えられる。
とみおかワイナリーは、このような多様な動機を持つ来訪者を受け入れながら、地域の魅力を多面的に伝える拠点としての機能をさらに高めていくことができると感じた。
とみおかワイナリーの取り組みは、単なる「被災地の産業再生」にとどまらず、地域に新たな求心力を生み出す実践的モデルとして極めて示唆に富んでいると私は考える。震災という未曾有の困難を経験した富岡町において、町民の主体的な参画によって立ち上がったワイン事業は、地域資源を活かした経済循環の創出のみならず、人々の「関係性」や「居場所」にも深く根差した空間を育ててきた。
本調査で明らかになったように、とみおかワイナリーを訪れる人々は、観光客や地元住民にとどまらず、復興支援や移住検討といった社会的関心を持つ層まで多様である。来訪理由も「テレビで見て気になった」という軽やかな興味から、「震災復興に貢献したい」「地域とのつながりを感じたい」といった深い動機まで幅広く、多様な関係性の層が交差する「共創の場」が形成されつつある。
このような状況は、東京一極集中が進行し、地方の過疎化が深刻化する現代日本において、「均衡ある国土の形成」への新しいアプローチを示している。従来の地方創生政策は、都市圏からの移転や拠点分散といった「機能の移動」に依存しがちであった。しかし、とみおかワイナリーが目指すのは、地域内外の人々が自発的に関与し、主体的に「関係をつくる場」であり、これはまさに地域が自らの内側から再生する力を備えることを意味する。
とりわけ注目すべきは、ボランティア活動に参加する人々が「ワイナリーの成長を応援すること自体に喜びを見出している」という点である。この感覚は、近年広がりを見せる「推し活」にも通じ、共に何かを育てていく過程における当事者意識や愛着の醸成が、地域との持続的な関係性を育んでいると言える。とみおかワイナリーは、訪問者やボランティアにとって、単なる観光地でも就労の場でもなく、「心が帰属する場所=居場所」として機能しはじめているのではないかと私は考える。
さらに、飯盛義徳氏の指摘[4]するように、地域における創発的な活動の継続には「強いつながり」と「弱いつながり」の共存が鍵となる。とみおかワイナリーの空間デザインは、地域の人々の継続的な関わり(強いつながり)と、外部からの訪問者という新しい刺激(弱いつながり)が交錯するように構成されており、芝生広場や開放的なテント空間などは、まさにその実現を体現している。中で何が起きているのかが外から見える「可視性」の高い構造は、地域の風通しを良くし、新たな参加者の流入を促している。
とみおかワイナリーは今後、富岡町における新しいまちづくりの起点として、さまざまな人や活動を巻き込みながら、その価値を拡張していく可能性を秘めている。地域再生の鍵は、住民一人ひとりの主体的な関与と、その行動を受け止める柔軟な「場づくり」にあると私は考えている。その意味でとみおかワイナリーは、地域の未来を語り合うことのできる「居場所」であり、社会的創発の萌芽が育まれる場所として、今後さらに重要な役割を担っていくと考える。
[1] とみおかワイナリー ホームページ
TOMIOKA WINERY – Tomioka Winery
(参照2025-6-2)
[2] 福島県双葉郡富岡町ホームページ
https://www.tomioka-town.jp/
(参照2025-7-11)
[3] 中高年者の社会参加活動と情報源の活用との関連について ―年代と活動内容による比較検討― 茨木裕子
NingenKagakuKenkyu_32_2_05.pdf
[4] 飯盛義徳 『場づくりから始める地域づくり 創発を生むプラットフォームのつくり方』 学芸出版社 2021年7月 p.201,202,203
1.飯盛義徳 場づくりから始める地域づくり 創発を生むプラットフォームのつくり方 学芸出版社 2021年7月
2.神尾文彦 デジタルローカルハブ 社会課題を克服する地方創生の切り札 中央経済社 2024年4月
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Taro Endo
第44期生
えんどう・たろう
Mission
故郷福島の復興を実現し、子どもたちが誇りを持てる未来志向の町づくりの探究