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夢と魔法の国を哲学っぽく考えてみる
〜東京ディズニーランドにおける「ミメーシス」及び「アフォーダンス」考察〜

 「ここは、あなたの夢がかなう場所。(Where Dreams Come True)」

 ディズニーリゾートが掲げる、かの有名なキャッチフレーズである。
 ディズニーリゾートは、単なるテーマパークではない。世代を超え、国境を超え、あらゆる人々が共通の体験を通じ、ともに笑い、驚き、発見し、そして楽しむことのできる世界を提供してくれる。そうしてゲスト[1]の心を惹きつけ、幸せな気持ちにしてくれる。まさに「夢と魔法の国」という名に相応しい、世界一のテーマパークである。
 本稿では、そんなディズニーリゾートが、なぜ人々を魅了してやまないのか、その理由を二つの切り口にて哲学的に考察したいと思う[2]

 第一の切り口は「ミメーシス」である。
 ミメーシス(mimesis)とは、現実の模倣や再現を意味するギリシャ語由来の概念である[3]。現実世界をどのように写すか、表現するかを指す言葉であるが、現代的な解釈としては、単なる現実の再現としての意味以上に、現実の解釈や変形、さらには批評としての意味が強い。すなわち、現実をどのように感じ取り、どのように表現するかに注目するというわけである。
 この意味で、ディズニーリゾートをミメーシスの観点にて考察するとは、本テーマパークが、どのように現実世界を受け取り、その上で解釈しているかを考察することである。考察対象としての東京ディズニーランドは、7つのエリアから構成されている。そのため、エリア毎に検討してゆくこととする。
 「ワールドバザール」のテーマは、「活気あふれる20世紀初頭のアメリカの街並」。ヴィクトリア朝様式の優美な建物が軒を連ねる古き良き小さな街を模倣している。ここでは、次々と新しい発明が誕生し、ガス灯から電灯へ、馬車から自動車などへの変遷の歴史が見られる。ゆえに、成長、繁栄、希望、懐古、社交を象徴していると考えられる。
 「アドベンチャーランド」のテーマは、「さまざまな文化が織りなす自然豊かな冒険の世界」。カリブ、ポリネシア、中国、ハワイ、ニューオーリンズなど多様な文化の習合が見られる。これらの文化に加え、ジャングルや海賊がモチーフとなっているところから、自然環境やロマンの模倣、あるいは未知、未開、神秘、勇気、挑戦の象徴となっていると考えられる。
 「ウエスタンランド」のテーマは、「フロンティアスピリットが息づくアメリカ西部の世界」。1790年代から1880年代までのアメリカ開拓時代がモチーフとなっている。馬車や木造サルーン、鉄道などの典型的要素が取り入れられ、時代が忠実に再現されている。これらは、冒険心、自由、自立を象徴していると考えられる
 「クリッターカントリー」のテーマは、「小動物たちの物語が繰り広げられる郷」。ディズニー映画「南部の唄」がモチーフとなっている。アメリカ河のほとりにそびえる赤土の山に住む小動物の生活をのぞき、その物語を体験できる場として、自然との調和を模倣している。優しさや温かさの擬人化、あるいは素朴、平穏、共生、調和、余裕の象徴だと考えられる。
 「ファンタジーランド」のテーマは、「ディズニーの魔法に包まれた夢とおとぎ話の世界」。ディズニーのクラシックな童話やおとぎ話がモチーフとなっている。幽霊たちが暮らす不気味な館への訪問、世界中の子どもたちと出会う船旅などを経験できる。ここは、空想や幻想などの理想の具現化だと捉えることができる。そして、創造、無垢、成就を象徴していると考えられる。
 「トゥーンタウン」のテーマは、「ミッキーと仲間たちが住むゆかいな街」。ディズニーキャラクターたちが住み、働き、遊ぶ、はちゃめちゃで楽しい街の具現化である。カートゥーンのビジュアルスタイルを忠実に再現することで、アニメーションと現実世界の融合を体現している。ここも、クリッターカントリーやファンタジーランドと同様、理想の擬人化であると考えられる。そして、遊び心、機知、笑顔、純情を象徴していると考えられる。
 「トゥモローランド」のテーマは、「科学とテクノロジーが調和する明日の世界」。スリリングな宇宙旅行や新しいテクノロジーを体験することができる。宇宙旅行のアトラクションや宇宙人がコンセプトのレストランなどが存在し、また、建物もSF風映画となっている。したがってここは、進歩的なビジョンを反映し、新たな可能性を提供する、未来の理想の姿だと言えるだろう。そして、革新、期待、可能性を象徴していると考えられる。
 以上の考察から分かることは、東京ディズニーランドは、未踏の地や未来などのまだ見ぬ新たなものを追い求めてゆく「探求的象徴」、慣れ親しんだ空気や落ち着き、穏やかさを再現する「平静的象徴」、ユーモアに富み、ピュアでポジティブな概念を擬人化する「空想的象徴」の三つのミメーシスを行なっていることである。

 二つ目の切り口は「アフォーダンス」である。
 アフォーダンス(affordance)とは、アメリカの心理学者ジェームス・ジェローム・ギブソンが1970年後半に提唱した理論である[4][5]。情報は、環境に依存し、人や動物はそこから意味や価値を見出すという考えである。
 この意味で、ディズニーリゾートをアフォーダンスの視点にて考察するとは、本テーマパークがどのようにゲストに行動の可能性を提供し、体験を促進するか、あるいは意味や価値を付与するか、を考察することである。ミメーシスの際と同様、エリア毎に考察を行うこととする。
 「ワールドバザール」は、パーク入り口に位置し、買い物と食事、情報収集の機会を提供している。夢と魔法の世界のゲートウェイとして、世界観への没入感覚を与えるという意味を持つ。また、手作り感あふれる建物や古風な看板などはノスタルジーを感じさせる。さらには、広場やベンチが設置されていることから、人々が交流する場としての役割も果たしている。
 「アドベンチャーランド」は、探検、冒険、自然との対話という体験を提供している。熱帯雨林を模した環境や、東南アジア風の建築物、アフリカ芸術の木像などは、エキゾチックな雰囲気を醸し出し、冒険心をくすぐると共に、多文化理解を促す。また、ジャングルクルーズやスイスファミリーツリーハウスなどのアトラクションが、自然を体感し、探索する機会を与えている。
 「ウエスタンランド」は、歴史的探索やスリルを提供している。ビッグサンダーマウンテンやカントリーベアーシアターなどのアトラクションを通じて、歴史的な雰囲気と共に、ダイナミックな体験を行うことができる。また、当時の時代背景や生活を知る機会となると同時に、木造の建物や古風な街並みから、歴史的な時代へのノスタルジアを感じることもできる。 
 「クリッターカントリー」は、自然との触れ合い、リラクゼーションを提供している。スプラッシュマウンテンやビーバーブラザーズのカヌー探検などのアトラクションが、自然との直接的な交流を促し、リラックス効果を与えている。また、動物たちのコミュニティからは、協力と共生の精神を読み取ることができ、自然環境の大切さや生態系の理解を深めることができる。
 「ファンタジーランド」は、夢の追体験を提供している。シンデレラ城を中心に、イッツ・ア・スモール・ワールドやピーターパンのフライトなどのアトラクションを通じて、ディズニーのクラシックな物語への没入体験を行うことができる。夢は実現できるとのメッセージを受け取り、希望と幸せを与えてくれる。また、物語には、教訓やメッセージが含まれているため、道徳的学びともなる。
 「トゥーンタウン」は、遊び心とインタラクション、キャラクターとの交流を提供している。ディズニーキャラクターの家を訪れ、直接的な交流を行える。また、触れることで動いたり音が鳴ったりする仕掛けが多数存在するため、五感を使って没入感をもって楽しむことができる。さらには、ガジェットのゴーコースターやロジャーラビットのカートゥーンスピンなどのアトラクションにて、アクティブな体験を行うこともできる。
 「トゥモローランド」は、イノベーションと未来技術の体験を提供している。スペースマウンテンやスターツアーズなどのアトラクションでは、科学の進歩と未来のライフスタイルを感じる体験ができ、科学的な探究心や冒険心を刺激する。また、科学技術や宇宙に関する知識を提供し、学びの場としても機能している。
 以上の考察から理解されることは、東京ディズニーランドは、好奇心を刺激する「探訪」、世界観の中に関わろうとする「没入」、他者との関係を深める「社交」、感情を揺さぶる「情緒」、多様な学びを提供する「教育」の五つのアフォーダンスを行なっているということである。
 本稿考察により、ディズニーリゾートが人々を魅了してやまない理由は、三つのミメーシスと五つのアフォーダンスにあることが理解された。最後に、これらの工夫の背後には、創業者ウォルト・ディズニーの、純粋で、壮大で、慈愛に満ちた宿願が通っていることを忘れないためにも、彼の言葉を引用し、脱稿としたい。

「私はディズニーランドが、幸福を感じてもらえる場所、大人も子供も、ともに生命の驚異や冒険を体験し、楽しい思い出を作ってもらえるような場所であってほしいと願っています。[6]

[1] 東京ディズニーリゾートでは、来場者は「ゲスト」、労働者は「キャスト」と呼ばれる。オリエンタルランドHP「パーク経営の基本理念」より。
2024.06.04
https://www.olc.co.jp/ja/tdr/profile/tdl/philosophy.html

[2]なお、考察にあたっては、特に東京ディズニーランドを対象とすることとする。

[3] 澤田直「存在と無の<あいだ>」『岩波講座 哲学07 芸術/創造性の哲学』,2008年, 17-40頁。

[4] 廣瀬直哉「アフォーダンスとエコロジカル・リアリズム」『椙山女学園大学研究論集』第35巻,2004年, 127-137頁。

[5] 他に、アメリカの認知科学者ドナルド・アーサー・ノーマンが提唱したものもあるが、本稿では、ギブソンの理論を用いることとする。

[6] オリエンタルランドHP「パーク経営の基本理念」より。
2024.06.04
https://www.olc.co.jp/ja/tdr/profile/tdl/philosophy.html

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