論考

Thesis

幸せのかたち

われわれ日本人の幸せのかたちについて考えてみた。お金があれば幸せなのか?人間関係がうまくいっていれば幸せなのか?我々人間がどのように考えを変えれば、幸せを感じることができるのか考えてみた。

1、幸せについて考えるようになったきっかけ

 幸せって何だろう?社会の仕組みに関心を寄せるようになったのは、小学校高学年の頃ではなかったかと思う。私が生まれたのは、福岡県の北東部に位置する行橋という人口約7万人ほどのまちである。鉄鋼業によって栄えた北九州市と元々炭鉱のまちであった筑豊に挟まれたところである。

 重工業によって発展したまちでは、発展後、市民にアレルギー、喘息等の健康被害をもたらした。産炭地では、企業が市民の面倒を見ていたため、可処分所得が多かった。その後、国のエネルギー転換によって、炭鉱が閉山され、その後は行政が生活の面倒を見ていた。その結果、市民の自立心が更に阻害された。この二つの課題を聞き、肌で感じながら、18年間行橋で育ったこと、そして大学入学後からの東京での生活によって、志が形成され、今、松下政経塾にいる。

 故郷に住んでいた時は、行橋が嫌で仕方なかった。イメージで自立した人が多くいる東京で生活してみたいと思った。しかし、住んでみるとイメージどおりではない。東京で生活することでいいところもあれば悪いところもあると思うようになった。お金があれば幸せなのか?ものがあれば幸せなのか?国から補助金があれば幸せなのか?人から干渉されなければ幸せなのか?そんなことを考えるうちに、自分の故郷にも東京にもいいところ、幸せがあるという事に気付いた。今回は、私が考えている幸せのかたちを書きたい。

2、日常生活から幸せをみつける

 幸せとは何か?政経塾に入塾して、高校時代の友人から手紙と或るCDが送られてきた。音楽プロデューサーの小林武史とMr.Childrenの桜井和寿が結成したBank Bandの「沿志奏逢」というアルバムである。この中に「トウキョウシティー・ヒエラルキー」という歌がある。

「笑わないのが彼らのルール いつもオフィスにジョークがあるとしても 金を産むための一つのツール でもかれは娘が好き わが娘の寝顔が好き 紅葉のような掌が好き 家具の谷間に身を横たえて 『これでいいのさ』と多忙な天使は天井につぶやきかける」
「静かに生きるのが彼女のルール 帰りを待つ連れ合いはもうこの世にはいない 期待しないのが彼女のルール でも散歩が好き この街に咲く花が好き 日々の匂いにトキメクのが好き 夕暮れ時に小さな灯りをともし 「もうすぐ会えるから」とさびしげな天使はそっと囁きかける」

 単調ではあっても、決して単なる奇麗事では済まされない、人間のありきたりな生活を歌っていて、何気ないことに尊さと幸せがあることを感じさせる。最後に、醜い、あまりに醜いけれどなぜか美しいと締めくくっている。友人からの手紙には「人間の幸せって、大それたものではなくて、日常生活の中のちょっとしたことに目を向けることにあるんじゃないか?」と記されてあった。

 今年、日経新聞が20代、30代に様々な調査を行ったところ、以外に堅実な生活をしていることが分かり、また、人とのつながり、身近な何気ない出来事を幸せだと感じるという結果も出ている。幸せを感じるには日常生活の充実が一つのキーワードになるはずである。

3、天分を知り、自分が心地よい幸せのサイズを

 松下幸之助塾主は、個人の幸福と社会の繁栄を生むには「お互い素直な心で自分の天分を見出し、人間としての成功をまっとうしなければならない」と言っている。塾主は幼い頃より、立身出世をするように教えられ、社会的地位を得た人、財を作った人を尊敬、崇拝する姿にこれを成功だと思っていた時期もあったようである。しかし、その後、成功というものは決してそのような狭いものではないと考えるようになる。靴屋さんは靴屋さんの、魚屋さんは魚屋さんの、経営者は経営者の、それぞれ各人が異なった使命、天分が付与されており、成功というのは、それぞれに与えられた天分を認識し、完全に活かしきる、まっとうすることによって幸せを得るということなのだ。つまり、天分と使命、幸福の基準、ものさしを持つことが真の幸せにつながると言っている。

 私が考えるに、人間何もかも平等ではありえないはずである。この世の中に生まれた時点から、それぞれに与えられた運命や宿命を背負っているものと思う。例えば、家庭環境が良いか悪いか、どんな才能を持っているか、どんな病気を持っているのか。まさに一人一人には異なった人生、運命が存在していると言える。であるならば、この自分が自分でいられることが困難な時代において、生きる軸と自分のすべての条件を認識し、受け止めることが重要であると考えている。

 他方、人間の生きる源、活力として、欲望は必要不可欠である。塾主も自分の欲望を満たすことが、自分のためになり、他人のために役に立つことであれば、人間、そして社会の繁栄、幸福を実現することに役に立つと述べている。現実を考えると、若い時分は特に欲望をぬぐいさることはできない。若さというもの、自分の可能性や宿命、才能を信じて正面からぶつかる力を与えるものである。でもそれが、人間を苦しめていることを忘れてはいけないのではないか。すべての人が頑張れば何でもできるというのは、人間を苦しめ、失敗した人は努力が足りなかった、才能が無かったとなるような人生観は多少偏りがあるように感じる。

 人間の幸せのサイズは、大きければいいというものではない。かといって、小さくまとまってしまうのも面白くない。幸せのサイズをどのあたりにおいていくのかが人間の器量であるし、人生の面白さ、ダイナミズムである。これを個々人が考え試行錯誤していくことによって、一人一人の幸せが見えてくるのではないか。

4、日本人を幸せにするためのしくみ

 まず、はじめに私は今の日本人は幸せを感じにくくなっていると思う。おそらくそれは、政治システム、経済システム、社会システムがうまく機能していないためである。つまり「20世紀型システム」が制度疲労をおこしているのである。

 それでは、「20世紀型システム」とは何か。中央集権化、福祉目的の機能の拡大、現金給付、生活と生産の断絶、重化学工業化であると考える。重化学工業の構造を支えるために、国家は、大量生産を可能にするための交通、エネルギー、通信などのインフラを整備する必要が出てくる。それと同時に国民の生活と生産は断絶される。このインフラ整備に大きな役割を果たしてきたのが中央集権的な税制である。そして、大量生産を支える購買力を確保するために、現金給付による生活の保障制度などを整備してきた。しかし、システムでは立ち行かなくなり、国民も幸せであると感じなくなってきているのである。

 新しいシステムを考える上で、2年次からゴミ、農業問題、農村を研究して地方の活力ある自治体で現場研修を行う中で、大きなヒントを得たので「19世紀型システム」を絡めて述べてみたい。まず、19世紀は小さな政府であった。生活必需品を、市場からあまり購入していない。つまり、市場経済の機能よりも、家族や共同体の自給自足的機能が大きかったことがいえる。労働に限定して話をすれば、市場経済では蚊帳の外になってしまう、無償労働が前面に出て機能していたことがわかる。それが、市場からものを購入する頻度が増加し、それを購入するために貨幣が必要となってくると、必然的に労働市場で貨幣を調達せざるをえなくなる。それが進むと生活自体、貨幣に依存せざるをえなくなる。この時に失われたのが、今日本が取り戻したいと思っている、家族や地域の共同作業や、お互いを助ける機能だったのであろう。

 私が考えるに、おそらく日本は、様々な機能の大部分を行政にアウトソーシングしてきたのであると思う。家族や地域で本当はできることを、効率追求のためにまかせてきた。先ほど述べたように、人間の幸せとは、生活の細やかさやゆとり、そして人との繋がりを持つことにあるはずである。幸せをより実感できるものにするためには、生活と生産をつなげることと、現金給付をサービス給付に変化させていくことではないかと考える。その為には、住民に最も近い基礎自治体が、住民のニーズに沿った対応と自己決定権を持つことであるはずである。

 加えて、幸せを実感できるようにするには、生活、労働のあり方を創っていくことも関係していると考える。格差問題が議論されているが、現実的に考えれば今後も市場経済はなくならない。これが継続すれば、必ず利益の偏りが起き、格差はできる。今の日本人の価値観では、所属している企業に頼り、そこで出世することが成功の証のように思われている。政治は、現在のシステムから外れてしまった人に対して、セーフティーネットをひけばいいと言う。私はそうではないと思う。もっと多様な生き方があっても良いと思う。地域のために汗をかくことでサービスが提供される仕組みや、特技を活かして多角的に所得を上げることによって、生きがいや生活の実感、人との繋がり、幸せを実感できるはずである。

 自らの生活を見直し、自分たちにできることは自分たちで取り組む。そうすれば、そこに新しい知恵やアイデアが生まれ、幸せが実感できる。我々の世代に求められているのは、身近な生活と人とのつながりを取り戻し、自らの天分を認識して生活し、新しい幸せのかたちを自らの力で創造していくことにあると思う。

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仁戸田元氣の論考

Thesis

Genki Nieda

仁戸田元氣

第27期

仁戸田 元氣

にえだ・げんき

福岡県議(福岡市西区)/立憲民主党

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中小企業振興、規制改革、健康と医療

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