論考

Thesis

大統領選 ドール候補の敗因

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共同研究

1997/3/29

先のアメリカ大統領選挙で劣勢を伝えられるドール候補が巻き返しを図るには、どのような遊説戦略が最適か。インターネットから得られるリアルタイムな情報をもとに、同時進行で仮説を立て、検証してみた。

◆ドール陣営にとっての重点州は?

 共和党のドール候補が残すところ30余日となった選挙戦で勝利を得るには、どのような戦略がふさわしいか。われわれは重点を置いて遊説すべき州(重点州)を設定することにした。具体的には96年10月1日から選挙当日(11月5日)までの期間に、どこを重点的に遊説すべきかを決めるということである。重点州を選出する際の重要なポイントは、過去の大統領選挙における共和党候補の州ごとの勝率、世論調査による各州の支持率および各州の大統領選挙人の数などである。過去の選挙結果(第2次大戦後行われた12回の選挙)から、共和党候補の支持率が高い州には共和党支持者の多いことが推測できる。世論調査における州ごとの支持率はインターネット(http://www.politicsnow.com/resource/polltrak/chamap.htm)から引き出した。

 アメリカ大統領選挙は、一般選挙で大統領選挙人を選出し、その後、選挙人の投票によって大統領、副大統領を選ぶ「大統領選挙人団制」である。一般選挙は「勝者独裁制(winner take all)」によって、1票でも多く票を集めた候補者にその州すべての選挙人が独占される。そのため選挙人の多い州を制すことが、大統領選を制すことになる。
 上記の点を勘案して、重点州を決めた。選挙人数は538人なので選挙に勝つには過半数の270をおさえなければならない。9月20日時点でドールが獲得すると予想される選挙人数は111。逆転にはさらに159人以上が必要である。
 われわれが重点州に選んだのは、カリフォルニア(選挙人数54)、フロリダ(25)、オハイオ(21)、ニュージャージー(15)、テネシー(11)、ジョージア(13)、アラバマ(9)、インディアナ(12)の8州である。選出後、実際の遊説先、遊説先での演説内容および遊説前後の現地での世論調査による支持率の推移をインターネットで調べた。

 96年10月1日から11月4日までの35日間で、ドールと副大統領候補のケンプは29州(コロンビア特別区含まず)を回り、計145回、遊説している。重点州8州への遊説回数は計81回(http://www.usatoday.com/elect/et/etsked.htm)、全体の55.9%だった。内、カリフォルニアが33回、フロリダが20回と飛び抜けて多く、オハイオ(9回)、ニュージャージー(9回)、テネシー(7回)と続き、われわれの仮説と一致した。しかしジョージア(2回)、アラバマ(1回)、インディアナ(なし)はかなり少ない。その理由は、重点的に遊説を行う条件として(1)選挙人数が15人以上、(2)勝率が60%~80%、(3)ドールがリードされている州で支持率差が小さい順(カリフォルニアを除く)という条件設定をドール陣営がしていたためと考えられる。

◆選挙結果とドール陣営の敗因分析

 選挙の結果は、選挙人獲得数159対379(州の獲得数は19対32)でドールの完敗だった(http://www.usatoday.com/elect/estpre96.htm)。州ごとの勝敗状況を見ると、9月20日時点にドールがリードしていた13州(選挙人数111)では予想どおりドールが勝っている。重点州については、アラバマ、インディアナ、ジョージアで逆転勝利を収めているが、残り5州では遊説回数が多いにもかかわらず敗れている。
 その理由は2つ考えられる。まずクリントン陣営の遊説戦略がドールのそれを上回っていたこと。クリントンが重点的に遊説した州はほとんどドールと同じである。しかもドールが選挙人15以上の州を遊説したときには、かなり高い確率で同日あるいはほとんど同時期にクリントンも当該州で遊説している。クリントン陣営からすれば、現状のリードを選挙当日まで保てばよく、これはドールへ支持が流れるのを防いだ。

 もう1つは、ドールは減税案以外で有効な政策提示ができなかったことが挙げられる。公約の目玉として15%の所得税減税案を提示したが、歳出削減の根拠を明示できなかったため、クリントン陣営から「ドールの財政政策は教育、福祉の切り捨てにつながる」と反論され、効果をあげていない。逆にドール陣営はクリントンの人格攻撃しかできなかった。これは遊説先の政策提言の状況を見てもはっきりわかる(遊説先での政策提示についてはhttp://www.usatoday.com/elect/et.htm)。

 さらにインターネットを使ってPolitics Nowが行った出口調査の結果からクリントンの勝因を分析してみる(http://www.politicsnow.com/resource/polltrak.htm)。クリントンとドールの支持率差で最も明暗を分けたのは女性の支持である。男性の支持は45対44とわずかにドールがリードしたのに対し、女性の支持は38対54と圧倒的にクリントンである。ドールは高齢とイメージの暗さから女性票が集まりにくいと言われていたが、そのとおりとなった。また、所得者層別の支持を見ると、年収5万ドル以下の低中所得者層がクリントンで、7万5千ドル以上の高所得者層がドールとなっている。人口比率の高い低中所得者層の支持をつかんだクリントンに利があった。

 インターネットを使ったことによって今回の研究では、リアルタイムな情報が集められた。しかもその情報は、日本のマスコミの分析よりもはるかに高いレベルのものだった。(この記事は同内容の論文を編集部が要約した)

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