海峡を挟んで民間ベースでヒト、モノ、カネの交流が進む中台関係。中国人研究者の視点から両岸経済交流の現状と未来について報告する。
◆両岸の経済交流の特徴
台湾海峡を挟んだ両岸の経済交流は、1979年に中国が開放政策をとったことで第三国経由ながら徐々に始まった。台湾も87年に大陸への親族訪問を正式に解禁するなどその態度を軟化させ、両者の交流が多方面で生まれ、貿易と投資は堰を切ったように動き始めた。ここで両岸の経済交流の特徴をみてみよう。
- 非直通。貿易と投資は第三国経由。中継地は香港が中心だが、マカオ、日本、韓国、シンガポール、タイなども使われている。
- 一方通行。台湾は大陸に対し圧倒的な輸出超過である。これは主として台湾側の制約によるもので、台湾の大陸に対する貿易黒字額は累計で600億ドルに上る。
- 投資小型化。96年6月末まで大陸に投資された台湾資本の平均は1件当り85万ドル。東南アジア地域へ投資されたものの7分の1である。
- 交流分野の狭さ。両者の交流は貿易と投資に限られており、近年ようやく資源開発、金融などの分野が動き始めた。
◆両岸の経済交流の展望
両岸経済交流の今後を考える前に、その発展に影響を与える各種の要因と条件を考察する必要がある。有利な条件から挙げてみよう。
- 同種同文。中国大陸と台湾は海に隔てられているが、台湾の人々の多くは大陸出身で、両岸の人々は地縁があり、風俗人情、言語文化が通じる。それゆえ両岸の経済交流は他の地区と比較にならない優位性を持っている。
- 両岸の相互補完性。大陸は資源、労働力、消費市場の面で潜在的な力を持ち、基礎科学技術も備えている。一方、台湾は十分な資金力と豊富で成熟した経営管理のノウハウ、実用加工技術などの面で優位にある。
- 相互依存度の高まり。大陸と台湾はお互いに第四位の貿易相手である。台湾は輸出の面で、大陸は輸入の面で互いに依存し合っている。ただその依存度は台湾のほうが大陸よりも大きい。
- 台湾の市場変更と中国経済の活性化。これまでの台湾経済は、アメリカの輸出市場と日本の輸入市場に支えられていた。しかし、近年これらの国の貿易保護主義が強まっているため新しい貿易相手を見つける必要が生じている。その新しい市場は言うまでもなく巨大な潜在力をもつ中国である。
- WTO加盟。中国と台湾はともにWTO加盟を申請している。実現すれば両岸の経済交流はさらに発展するだろう。
一方、不利な要因としては次のような点が挙げられる。
- 台湾の対大陸貿易政策。これは両岸の経済交流を阻害している大きな要因である。台湾は大陸市場に過度に依存することを恐れ、両岸の交流に種々の制約を設けている。その一方でシンガポールなどへの「南向政策」を打出し、投資の分散を図っている。
- .大陸側の市場経済への不慣れ。いくつかの点、たとえば行政機構の効率、企業経営の自主権などで大陸はまだ市場経済に慣れていない。
- 発展途上国との市場争いの激化。インドネシア、ベトナムなど東南アジア諸国との強い競争が存在している。
以上の分析に基づいて今後の両岸の経済交流の発展を占ってみよう。
- 貿易不均衡の継続。台湾は大陸の製品の流入を厳しく制限しながら、大陸への投資は増大させている。また大陸の関税率が大幅に下がったため、台湾から大陸への輸入も増えている。
- 台湾から大陸への投資のさらなる増大。95年度に台湾資本の大陸への投資は73.7億ドル(契約ベース)と過去最高を記録した。これは大企業の投資が著しく増加したことによるもので、投資先も労働集約型から資本・技術集約型へと移っている。
- 投資地域の拡大。90年代に入り台湾資本は、投資先を福建省、広東省から上海浦東地区を中心とする長江中下流地帯の華東に移しており、投資対象地域が全方位に広がっている。
- 交流分野の多様化。95年初め、台湾当局は台湾銀行国際業務支店と大陸金融機構が業務連絡を直接に行うことを許可した。また同年4月、台北銀行ニューヨーク支店と中国銀行ニューヨーク支店は業務代理協議を結んだ。
さらに大陸の財政金融界の専門家が台湾で活動することも許可し、その交流範囲は広がっている。
- 三通(直接の郵送、航行、通商)の実現。いずれ実現するのは間違いないが今世紀中にというのは難しいだろう。現在の第三国経由の交流は、時間やお金がかかるだけでなく、様々な面で不便で第一に経済の原則にそぐわない。交流の開放を求める声は次第に高まっている。
去年大陸側は廈門、福州の二つの港を開き、今年3月2日、廈門―高雄間に直航貨物船第1便を就航させ、歩み寄りを見せている。しかし台湾が近い将来、三通を全面開放する可能性は低く、国際的な面から見ても厳しい。アメリカは台湾を通じて間接的に中国を牽制するいまの形に満足しているし、日本も間接貿易から利益を得ているからである。
以上のような条件にもかかわらず、両岸の経済関係は緊密の度合いを高めている。ある段階までいけば、いくら政治的に開放政策を阻害しようとしても無理だろう、というのが私の考えである。
(シュウ・メイ 1993年吉林大学国際経済学科修士課程修了。現在、中国社会科学院日本研究所助理研究員。)(文責・編集部 文中の統計数字は筆者による。)