松下政経塾 The Matsushita Institute of
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2022年6月

塾生レポート

地方をイノベーションのプラットフォームに
伊崎大義/松下政経塾第42期生

 

 この国は閉塞感に覆われている。それは、2022年3月に行われた日本財団による18歳意識調査を見れば明らかだ。日本、アメリカ、イギリス、中国、韓国、インドの6か国を対象に、17歳から19歳の男女へ行われた調査において、自分の国の将来について問う質問があった。結果は以下の通りである。



【出典】日本財団, 18歳意識調査「第46回-国や社会に対する意識(6か国調査)-」報告書
https://www.nippon-foundation.or.jp/app/uploads/2022/03/new_pr_20220323_03.pdf


 「良くなる」と考えている若者はわずか1割ほど、大多数が「この国の将来は悪くなる」と悲観的に捉えているのが、今の日本の現状である。  背景には、少子高齢化に伴う人口動態の変化から、経済が停滞し、地方は衰退し、社会保障費が増大する一方で所得は右肩下がりとなる、暗い未来を思い描かざるを得ない現状があるのではないか。
 筆者は、そのような現状を打破し、日本を再び未来志向の国へと立ち返らせるには、イノベーションこそが重要であると考えている。イノベーションは、既存のアイディアを組み合わせて新たな価値を創造し、世の中をより繁栄させ、人々の幸福を増大させることができる、人類に与えられた武器である。
 人類はイノベーションによって、飢餓を、病を、貧困を乗り越えてきた。ならば日本が直面する様々な社会課題についても、その解決を左右するのはイノベーションではないか。そしてそれは、シリコンバレーや深圳の人間に任せるのではなく、私たち日本人が自ら掴み取るべきであろう。  カギを握るのは、地方である。


1.イノベーションは地方で起こる

 英国貴族院議員にして科学・経済啓蒙家であるマット・リドレー氏は、著書『人類とイノベーション:世界は「自由」と「失敗」で進化する』において、イノベーションは「帝国」では生まれにくいことを喝破している。時が流れるにつれて中央の力は保守化し、テクノロジーは停滞し、エリートは新しいものに抵抗し、資金は事業それ自体ではなくぜいたく品や贈収賄に流れる。古代エジプトやローマ、明やオスマン帝国、そして大英帝国もその歴史をたどり、かつての勢いを失い衰退・消滅の歩みを進めてきた。
 一方、イノベーションが促進されるのはどのような地域か。ルネサンスを主導したのは、大都市パリでもイスタンブールでもなく、ジェノヴァやフィレンツェ、ヴェニツィアといった、イタリアの小さな都市国家であった。グーテンベルクの活版印刷を受け入れたのは分裂していたドイツの小国家で、統率のとれたオスマン帝国やムガル帝国はその新テクノロジーを禁止した。中国でもイノベーションが爆発したのは分権的政府であった戦国時代である。産業革命はロンドンではなく北部のマンチェスターやリバプールで起きたし、シリコンバレーはワシントンには無い。新たな動きを危険なものとして規制する中央ではイノベーションは起こりにくい。
 同じことは、大企業についても言える。官僚的で既得権が大きい「民間の帝国」では、門外漢や破壊者を許容する風土がない限りイノベーションは起こりえず、いずれ新興のベンチャー企業に淘汰される時が来る。
 では、日本における「帝国」とはどこか?いうまでもなく、東京であろう。リドレー氏の説に従うならば、政治家や官僚という規制勢力と大企業の集中する東京では、破壊的なイノベーションは起こりにくい。
 とはいえ、地方であればどこでも良いわけではない。イノベーションとはアイディアの生殖であり、人々が出会い、モノやサービスや考えを交換する場所でしか起こりえないこともリドレー氏は指摘している。
 したがって、この国の諸課題を打破するイノベーションを生み出すには、様々な人が行き交い交流する場を地方に作ることが重要になるに違いない。では、実際にどうすれば地方にそのような「イノベーションのプラットフォーム」を作り得るか。研修の中で考えたことを書き記していきたい。


2.みやこ町~エコノミックガーデニング~オガールプラザ

 筆者は2022年4月、福岡県みやこ町の町長選挙で、新人候補である松下政経塾31期生の内田直志氏の支援を行った。内田氏は、四選を目指した現職に対して見事大差をつけての勝利を飾った。



内田直志先輩(中央)と筆者(左)


 その際、並行して、みやこ町の現状についての調査も行った。みやこ町は人口2万人ほどの小さな町であり、日本の他の多くの過疎自治体と共通するように、「稼げる産業」に恵まれておらず、人口流出が続いている。町民へのヒアリングでは、近隣の苅田町が臨海部ゆえに域外への輸送に有利で、同じ小規模自治体ながら大手自動車企業工場の誘致に成功したのに対し、みやこ町の企業誘致に対する姿勢の弱さを嘆く声が多かった。「よそ者」としてやってきた身としては、咲き誇る桜並木や珍しい石室型の古墳群など見せ方次第で大いに武器になりそうな魅力も多々あったが、住民の関心はあまり高くない印象を受けた。



みやこ町の位置(【出典】Google Map)


 上記の地図の通り、みやこ町は内陸かつ山がちな地形であるため、輸送に有利な港湾や大規模工場を設置するための広い平地を確保できず、大きな雇用や税収を生む製造業を誘致することは難しい。そこで、企業誘致に頼らず、自地域内の産業を育成する方法として筆者が注目したのが、「エコノミックガーデニング」という手法である。
 1980年代にアメリカのコロラド州リトルトン市で始まったこの運動は、企業誘致に頼らず起業家精神にあふれる地元企業が活躍できる環境の創出を目指すものである。人口わずか4万人ほどの衛星都市であったが、行政が中小企業に企業成長のプログラムを提供したり、GPSデータや各種マーケティングデータを提供したりすることで、雇用が増え税収増大に繋がった。
 この分野の日本における第一人者である山本尚史氏は、エコノミックガーデニングとは、豊かな地域経済エコシステムを構築して、新しい動きを次々と展開し、「地元企業が成長するビジネス環境をつくる」ことにより、地域経済を活性化させることを目的とした政策であると定義している(『高度付加価値社会宣言』)。大都市においては常識となっている情報収集・分析手法やマーケティング、SNSの活動なども、地方の小規模自治体ではいまだ手が付けられていないことも多い。ここを行政が支援することで、地域内での小さなイノベーションを促進することが可能となる。また、必ずしも行政主導である必要はなく、地域金融機関がハブとなる場合や、図書館が情報提供の場として効果を発揮するケースも多いという。

 地域が地域の力を用いて成功した事例としては、岩手県紫波町のオガールプラザが著名である。筆者は該当施設の10周年記念シンポジウムに参加した。公共の土地を民間に貸し出し、厳格な収支計画とテナントとの入念な交渉を踏まえて実施に移った公民連携事業の成功の背景には、図書館を集客装置と見立てて利用者向けのサービス店舗を集めた戦略や、バレーボールに特化した体育館を設立して全国を商圏にする「ピンホールマーケティング」など、様々な創意工夫の存在があった。今では紫波町自体の人気も増し、人口減少が解消するどころか待機児童が発生してしまう事態に至っているという。木下斉『地方創生大全』によれば、地元の民間人が高い「パブリックマインド」を持ち、町長がリーダーシップをとって議会をまとめ上げ、自治体職員が複雑かつ地道な行政手続きと向き合あったからこその成果である。



オガールプラザ内の図書館。館内には軽快なBGMが流れており、利用者は周囲を気にせず会話をして良い環境が用意されている。「アイディアの交換」を生む工夫である。


 紫波町も内陸かつ盛岡市や花巻市といった大きな都市の衛星都市であり、みやこ町と条件が近い部分も多い。時代に左右される製造業の企業誘致に頼らずとも、地域の資源を見つめ直し、行政や地域金融機関が民間と連携して稼ぐ事業を作っていくことが地域活性化につながり、ゆくゆくはイノベーションを生む土壌となるに違いない。
 最後に、筆者が参画から関わり、自治体に新たな財源を作ることで地方のイノベーションを活性化させることを目指すソーシャルビジネスについて触れたい。


3.一般社団法人Siisにおけるソーシャルビジネス

 筆者には、イノベーション活性化を掲げる人間が自らで一度も事業を起こしたことがなければ説得力に欠けるという思いがあり、基礎課程時代よりゼロから事業を作り上げる機会を狙っていた。そして今回、実践課程へと移行するに際して、構想段階から参画していた新たな公共ビジネスの創出に挑戦している。
 事業内容は一言でいえば「マンホール蓋広告事業」となる。マンホール蓋というどこにでもあるリソースを用いて、自治体にはインフラ更新に補填可能な広告収入を、広告主には「足元の広告」という新たな広報機会を提供することを目指している。



一般社団法人Siisのビジネスモデル


 マンホール蓋製造技術が世界の中でも突出している日本では、近年、鉄蓋の上にプレートをはめ込み、鉄蓋自体を加工せずともプレートの差し替えによって自由にデザインを変更することができる「デザインマンホール蓋」が広まりつつある。本事業ではその技術を用い、これまでにないマンホール広告業界という業界自体の開拓に挑戦している。
 とはいえ、まだ数は少ないものの、既にマンホール広告事業を行っている自治体はいくつかある。その中でも特に埼玉県所沢市についてはマンホール広告事業のパイオニアとして、町の各所に広告を設置し、著名企業との提携も深めている。



所沢市に設置されているマンホール広告の例(筆者撮影)


 しかしながら、所沢市は様々な営業努力や組織再編を行い事業化に成功したものの、多くの自治体では営業人材やノウハウの不足からマンホール広告事業が安定的な収入にはつながっていないのが現状である。
 一般社団法人Siisはその課題を克服すべく、全国各地の自治体と民間企業を繋ぐ役目を果たしていく所存である。まだ事業が始まったばかりで課題も山積しているが、一つひとつ乗り越えていきながら、自治体に税収以外の収入源をもたらすことで、地方発のイノベーションが少しでも盛んになるよう引き続き精進していきたい。

2022年6月 執筆
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