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志をかたちにする挑戦―新日本的経営の探求と企業家殿堂プロジェクトの実践―

 前回の活動報告から約5か月が経過した。この間も相変わらず自分の未熟さに向き合う日々が続いているが、試行錯誤を重ねながら「自修自得」の精神で研修に取り組んできた。私の研修テーマは「経済性と幸福を両立させる新日本的経営の探求」である。三年目下半期(2025年7月〜11月)の期間は、①「日本的経営」を海外の視点から捉え直す研究、②企業家の哲学を未来へ継承する「企業家殿堂プロジェクト」の推進の二つを中心に研修を行った。以下、それぞれについて報告する。

1.日本的経営をタイとの比較から捉え直す

(1)なぜ「外から日本を見る」必要があるのか
 この半年間、「日本的経営」という概念が想像以上に捉えにくいものであることを痛感した。日本で育った私たちは、日本社会の価値観や感性を無意識のうちに前提としてしまう。しかし、「日本的」とは何かを定義することは容易ではない。
 そこで私は、日本的経営の源流を国内だけで辿るのではなく、「外の文化と比較する」ことでその輪郭が浮かび上がるのではないかと考えた。同じ仏教国でありながら歴史・文化・社会構造が大きく異なるタイに着目し、現地で活動する日本人経営者6名にインタビューを行った。本節では、特に印象に残った点を述べたい。

(2)仕事観・人生観の違い
 タイは一般に「親日的」「仏教国」「穏やかな国民性」など、日本と似た側面を持つと語られる。しかし、実際に現地で人々の働き方や生活観に触れる中で、前提となる人生観・仕事観には想像以上に大きな差があることを知った。
 タイにおいて仕事は「生活のための手段(Work for life)」であり、人生の中心ではない。この価値観は、王室を頂点とする厳しい階層構造や、華僑財閥による経済支配、世界トップクラスの格差社会といった社会背景と密接に関係していると考えられる。努力して仕事をしてもある一定の階層以上になることはできないというタイ社会では、「今を心地よく生きる」ことが優先されるそうだ。
 さらに、銀行口座すら持てない層が存在するため、給料は貯蓄ではなく消費に回る傾向がある。給料日前後で街が賑わうのもその影響であるそうだ。こういった価値観は「ไม่เป็นไรマイペンライ(気にしない)」というタイの言葉に象徴されており、「未来」ではなく「今」に価値を置く前提での仕事観が形成されていることが分かった。

(3)実際の働き方の特徴
 続いて、タイ人の実際の働き方について述べる。タイでは「居心地の良さ」や「生活の安定」を重視する価値観が強く、これは働き方のスタイルに大きく影響している。まず、タイでは ジョブホッピング(短期間での転職)が一般的 であり、2年間同じ会社に勤めていれば「長い」と言われるほどである。優秀な人材ほど引き抜きの対象になりやすく、給与が 1.5 倍で提示されるケースも珍しくない。労働市場において、個人が自らの価値を最大化する動きが活発であり、流動性の高さが特徴的である。
 また、タイ人は 人前で叱責されることに強い抵抗感を持つ。公の場で叱られた翌日に退職してしまう例もあり、「面子」を守る文化が強く働いている。反対に、人前で賞賛されることには素直に喜び、周囲からどのように見られるかが大きなモチベーションとなる。
 さらに興味深い点として、多くの声が一致していたのが 「女性の方がよく働く」 という評価である。実際、女性が管理職やトップに立つことも珍しくなく、女性リーダーが自然に受け入れられている社会である。また、外見や見栄えがリーダーの重要な要素と見なされる傾向も強く、第一印象が職場内の評価に影響を与えやすい。
 以上のように、タイの働き方には「ジョブホッピングが一般的」「女性トップが多い」など、日本ではあまり見られない特徴が多く、日本基準で考えると大きな違いが存在することがわかる。

(4)日本企業の強みと弱み
ヒアリングの結果、日本企業については以下のような特徴が指摘された。
まず 強み として挙げられたのは、
  ・勤勉さ
  ・誠実さ
  ・納期遵守
の3点である。これらはタイにおいても高く評価されており、「日本企業=信頼できる」というイメージを形成する重要な要素となっている。
一方で、弱み として以下の指摘が多くみられた。
  ・リーダー不在
  ・意思決定の遅さ
  ・過度な完璧主義
  ・「日本の商品はすごいでしょ」という上から目線の姿勢
 特に興味深かったのは、ある経営者の「日本企業はリサーチにお金をかけないのに、数千万円の投資はためらわない」という指摘である。現地の生活者の視点を欠いた“机上の分析だけの戦略”が、競争力低下の一因になっているという実感を、複数の経営者が共有していた。
 つまり、日本企業は誠実さと品質で信頼される一方、リサーチ不足や意思決定の遅さが成長の足を引っ張っており、現地の文化・生活者理解の欠如が大きな課題となっていると言える。

(5)比較から見えてきた「日本的経営」とは
 以上、タイとの比較から浮かび上がったのは、社会背景や国民性が経営スタイルに大きく影響するという事実である。どのインタビューでも、日本人の勤勉さ・誠実さ・納期遵守は高く評価されており、これらは日本的経営の重要な要素といえる。
 また、日本で「ワークライフバランス」という言葉が流行すること自体、仕事が人生に占める比重の大きさを反映していると感じた。日本では仕事への意識が高く、それが企業のあり方にも反映されている。
 一方で、「日本的」「タイ的」といった大きな枠組みで括ることの限界も感じた。経営とはアートであり、企業ごとに大切にする価値は異なる。しかし、その中にも確かに共通項がある。それをいかに抽出し、言語化するかが、今後の研究の重要課題である。

2.企業家殿堂プロジェクトの挑戦

(1)企業家の哲学を未来へ残す構想
 続いて、「企業家殿堂プロジェクト」の進捗を報告する。本プロジェクトは、企業家の哲学や生き様を未来世代に伝える取り組みであり、最終的には「企業家の殿堂」を展示するミュージアム建設を構想している。私が人生を賭けて実現したい夢である。
 しかし、そのスケールの大きさゆえ、企画を説明しても理解されにくく、協力につながりにくい状況が続いてきた。
 企業家の哲学は生活必需品とは異なるが、人生の岐路で人を支える「心のインフラ」である。しかし、緊急性が低いがゆえに若い世代が触れる機会は極めて限られている。

(2)「棚ぼた作戦」の決行
 このような、共感は得られても協力につながりにくい経験から、私は方針を転換した。
 興味のある人を探すのではなく、「人が自然に集まる場所」に企画を持ち込む。
 これを私は「棚ぼた作戦」と呼んでいる。来年度は年間三百万人が訪れる施設の近くで企画展を開催し、観光に訪れた人が偶然立ち寄る形で、企業家の哲学に触れてもらう機会をつくりたいと考えている。現在は来年度の企画構想に着手している。
 同時に、一人で活動を続けることの限界も痛感した。構想の実現には継続力と多様な視点が不可欠であり、思いを共有する仲間の存在が必須である。来年度はプロジェクトの本格的な組織化、NPO法人または一般社団法人としての法人化も視野に入れ、永続的に活動できる基盤づくりを進めたい。

3.おわりに

 以上、三年目下半期の五か月を振り返った。タイとの比較を通して日本的経営の姿を捉え直すとともに、「企業家殿堂プロジェクト」を通じて、無形の価値を社会に届けることの難しさと可能性を実感した。成果はまだ目に見えにくい。しかし、この試行錯誤の連続こそが、志を磨き、自分を鍛える過程であると信じている。

 今後も、志を形にする挑戦を一歩ずつ着実に進めていきたい。

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