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「松下電器は人を作るところでございます。併せて電気器具もつくっております。」[i]
この言葉は、日本を代表する企業の一つであるパナソニック創業者の松下幸之助(以下、創業者)が述べた言葉だ。創業者は「経営の神様」とも称され、その独自の世界観で「人」を重視する経営を展開してきた。
創業者の信念である「事業は人なり」という理念は、1934年に「店員養成所」を設立したことからも明らかである。この養成所では、小学校卒業者を対象に、3年間で旧制中等学校5年間の商業・工業課程を修了させるとともに、人間的な成長を促し、卒業後即戦力となる店員を養成した。[ii]この取り組みが、現在創業90年を迎える「パナソニック・オペレーショナルエクセレンス社組織・人材開発センター」(以下、T2DCとする)の原点であり、私が7ヶ月間(5月20日~12月13日)研修を行う場所でもある。
以下に、研修前半の2カ月間(5月20日~7月26日)において学んだ「企業に必要な3つの視点」について記す。
1.「人」を解き放つ !
「『人』『マネジメント』『組織』を解き放つ。」これは、私が所属するT2DCの今年度の経営方針である。[iii]2ヶ月間の研修を通じて、これら3つの視点の重要性を理解することができた。まず、「人」を解き放つことの重要性について述べる。
創業者は、一人ひとりが天与の才能を発揮し、その持ち味を生かして働くことの重要性を絶えず強調している。人生の大半を費やす仕事において、自分らしく生き生きと働ける環境は、従業員にとって非常に喜ばしいものである。しかし、現実には、自らの可能性を信じられず、抑圧され、熱意を持って働いていない社員も少なくない。
このような状況の中、今まさにパナソニックにおいて新たなムーブメントが生まれている。それが、社内で展開されている有志活動団体「ERG(Employee Resource Group)」である。ERGとは、「何かやりたい!」という熱意を持つ者たちが自主的に立ち上げた業務外の活動グループであり、「聴覚障がい者支援グループ」や「子育て応援グループ」など、多種多様なERGが存在している[iv]。
ERGは業務外の活動であるため、参加の敷居が低く、従業員が気軽に参画できる場となっている。こうした活動は、パナソニックグループ内外の境界を超えて、従業員がエネルギーを発散する場を提供している。このように、内発的な動機に基づいて業務外で自分の居場所を作ることは、個々のエネルギーを増加させ、本業へのモチベーション向上にも繋がる好循環を生み出している。
さらには、「会社」を単なる業務の場と捉えるのではなく、自分の「やりたい!」を実現できる場として利用することで、社員の帰属意識が高まり、従業員満足度の向上にも寄与する。このように、「人」の持ち味を最大限に引き出す取り組みを拡大することが、会社全体の輝きと成長に繋がると体感している。
2.「マネジメント」を解き放つ !
次に、「マネジメント」を解き放つことの重要性について述べる。マネジメントに携わる者にとって肝要なことは沢山あるが、大前提として絶えず学び続け、自身の価値観を更新することが重要である。この洞察は、私がT2DCで担当しているトップ層向け研修「レジリエンスプログラム」にて得られたものである。
本研修プログラムは、当初アメリカ西海岸でトップアスリートを対象として実施されていたものを大きく追加変更し、現在は医学的・生理学的知識に基づき、自身および組織と向き合い、事業の改善を図るための組織的な行動規範の構築に集団で取り組むものになっている。特に、トップの人間性、すなわち適応的知性の向上に焦点を当て、「リーダーこそが変わらねば組織は変わらない」という訴えを繰り返し行っている。
特筆すべきは、パナソニックホールディングス現社長や複数の事業会社社長などトップ層が本研修を受講しており、卒業生が300名を超える点である。参加者は、脳のパフォーマンスを最大化するためにランニングや補食(通常の三食では補いきれない栄養を補うこと)を始めたり、「組織の空気を変える研修」を部長クラスに向けて自発的に実施したり、部署内で日々のよい事柄を三つ互いに伝え合う習慣を始めるなど、本研修をきっかけとして組織開発を始めるなど、大きな行動変容を見せている。
このように、多くの部下を抱えるマネジメント層が価値観や行動を変革することは、組織全体に甚大な影響を及ぼし、部下の行動をも直接的に変容させることができる。本研修を通じて、企業の成長を図るためにはマネジメント層が学び続け、価値観や行動を日々アップデートするための制度を導入することが不可欠であるということを学んだ。
3.「組織」を解き放つ!
最後に、「組織」を解き放つことの意義について述べる。本テーマは私にとって最も不足していた視点であり、2か月間の研修を通じて、組織が一体となった時に発揮する驚異的なパワーを体感した。
創業者はかつて、「衆知を集めた全員経営――これは私が経営者として終始一貫心がけ、実行してきたことである。全員の知恵が経営の上により多く生かされれば生かされるほど、その会社は発展するといえる。」と述べている。[v]すなわち、企業の発展の秘訣は、全員の知恵を組織内で最大限に活用することにある。
個々の優秀さに頼ったとしても、一人の価値観や経験には限界があり、視野の狭さは否めない。しかし、多様な知見を結集することで、多角的な視点が得られ、より深い洞察が可能となる。現在、私は二つの研修企画を担当しているが、一人の能力では限界があるとこを痛感し、メンバーの多様な特性が組み合わさった時に生じるパワーの大きさに感動している。
ここで重要なのは、すべてのメンバーの意見が尊重され、組織に反映される風土の存在である。意見が言いにくい雰囲気や、組織に対する諦め感がある場合、本来組織の持つ力を最大限に引き出すことは困難である。どのような意見も無駄ではなく、すべての意見が必要である。互いの違いを認識しつつも個性を尊重し、石垣のようにお互いの特性を組み合わせる風土を企業内に築くことが、企業の輝きを際立たせる要素であると実感した。
以上が、2か月間で学んだ企業に必要な3つの視点である。「人」、「マネジメント」、「組織」のすべてが企業の成長にとって不可欠な視点であり、これらが相乗効果を生むようなメカニズムを構築することが重要である。まだ分析は粗削りであるが、残り5か月間の研修を通じ、より本質に迫った経営の要諦を掴み取りたい。
[i] 松下幸之助『会長訓話』(小冊子)松下電器産業/1961年
[ii] 59. 店員養成所を開校 1934年(昭和9年) – 松下幸之助の生涯 – パナソニック ホールディングス (holdings.panasonic)(最終閲覧:2024/7/26)
[iii] パナソニックオペレーショナルエクセレンス株式会社 組織・人材開発センター 内部資料より
[iv] PIW(Panasonic Group Intraweb site)内部資料より
[v] 衆知を集めること~松下幸之助『実践経営哲学』に学ぶ(6)| | 月刊「PHP」 (php.co.jp)
(最終閲覧:2024/7/26)
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Mizuna Kato
第44期生
かとう・みづな
Mission
経済性と幸福を両立する新日本的経営の探究及び若手企業家の育成