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営林実習レポート ~緑という宝物の継承~

「森林が荒廃して大変なのは分かる。しかし、何故新しい税が必要なのか!」

 平成16年の夏、ある会議室で県の担当部長達に県民の厳しい質問が飛んでいた。神奈川県税務課による新税導入の県民説明会のバックアップを私が担当した時のことだった。林業の長期低迷もあり、丹沢を中心とした森林は荒廃していた。これを立て直すため、神奈川県は水源環境税(いわゆる森林税)の導入の準備を進めていた。年間1,000円弱/人を住民一人一人に負担してもらう。そして、総額40億円弱の森林整備にまつわる予算を確保し、神奈川西部の水源地を再生、整備しようというものである。神奈川県西部の水源地ではまずまずの評判であるが、横浜、川崎などの都市部では森林整備と新税への強い反発があった。

 今回の営林実習は、和歌山県新宮市(旧熊野川町地域)で9月8日から23日まで行った。奇しくも昨年度(平成18年度)から、紀の国森づくり基金(税)という森林税が導入され、私たちの営林実習費用もその基金の補助対象となっていた。私は税を大切に、有効に使って欲しいという強い想いを持っている。基金の補助対象であることを聞いて、一段と気持ちを引き締めて今回の営林実習に臨んだ。

 実習での主な作業は植林のための地ごしらえと植樹、伐採と伐採のための道づくりであった。植林では40度を越えようかという急斜面に、桜とクヌギの木を植林した。多くの山では、戦後の国策によって杉や桧の単層林を作り、木材価格の低迷と森の砂漠化に悩んでいるという。そのような中で国策の大きな転換もあり、熊野川町森林組合では複層林化によって、多様な生物が住める豊かな森林づくりを目指している。

 植林の合間に同期の誰かが明るく言い放った。
「この苗が大きくなるのが楽しみだ。十年後に桜のお花見がしたい。十五年後には子供を連れて、クヌギにかじりつくカブトムシやクワガタムシを取りに来たいな!」誰もが未来の山の姿を想像し、夢をふくらませながら植樹を進めていった。

 植樹の翌日は雨の降りしきる中、伐採(間伐)作業を行った。林業の作業を進めるにあたって大切な要素は、道、機械化、人であるという。伐採のためにユンボ(パワーショベル)を使い、石や切り株を取り除きながら、切り出した材木を運ぶ道を作っていく。この道30年のベテラン、和田氏はユンボを手足のように使い、縦横無尽に道を切り開いていく。その後ろ姿に「山の職人」として誇りを感じた。そんな和田氏の指導のもと、杉の木の伐採に挑んだ。チェンソーを片手に持つ。杉の根本からてっぺんを見上げ、重心を確認する。倒す方向に受け口という切り込みを入れる。そしていよいよ、伐採に取りかかる。手の平6つ分の太さの幹に挑む。樹齢50年にもなる杉にゆっくりとチェンソーを当てていく。そんな中で、私は50年前から杉を植え、育てた人たちとこれまでの杉の営みに思いを馳せた。そして、メリメリという山々に響き渡る音を立てて、その木は倒れた。この杉が立っていた地はかつて集落があり、棚田が広がっていたという。集落を捨てて山を降りる時に、子孫のために杉や桧を植えていったという。きっと、私が植林した時のように子孫が嬉々とする姿、木から喜びと豊かさを得ることを夢見て植えたことであろう。

 林業は植林してから伐採するまで、長い歳月が必要だ。間伐材として利用するには30年。長伐期といわれる高級材は70年、100年といった歳月を要し、数世代をまたぐ一大事業である。熊野川町森林組合の田中組合長によれば、森づくりで最も大切なことは、森づくりのグランドデザインを描き、200年、300年先を見据えて取り組むことであるという。そして、森は日々刻々と変化するものであるが、それに対応しながらも、グランドデザインをコロコロと簡単に変えてはいけないという。つまり、林業とは幾世代前の祖先の努力の恩恵を受け、幾世代後の子孫のために植林という種まきをするという営みであり、長期的な視点が最も重要なのだ。

 私はこの営林実習を通して、森での作業に不思議な親しみと懐かしさを覚えた。それは何故なのかを考えた。森林と深くかかわってきた日本人の遺伝子が私を誘ったのか。あるいは過去の体験のなせる技なのか。幼少の頃を振り返った。私は千葉県船橋の地に生まれ、18年間育ってきた。船橋といえば千葉西部に位置し、都心まで電車で30分とかからない地である。それなりに都会育ちということになるだろう。だが昔を振り返る中で、緑の風景が脳裏から離れない。出身の小学校から自転車で20~30分ほど走れば、杉林が広がっていた。そして、その中心に15haの規模に及ぶ「船橋県民の森」があり、その緑の中を家族や友人と走り回ったものだ。小学校の遠足もそこであり、病身の父を連れてバーベキューをした思い出もある。都会の中の緑の楽園だ。都市化に伴う宅地化、工業用地化から森を守るために、この森が開園されたのだ。

 都市においても森は存在し、先人達が守る努力をしてきた。近年ヒートアイランド現象への対策として、屋上緑化や街路樹整備が進められている。田舎の地の森づくりが注目され易いが、森づくりが必要なのは田舎の地だけではない。都市においても長期的な視点を持って森づくりに取り組み、100年、200年先の世代のためにかけがえのない財産を残していきたい。

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津曲俊明の活動報告

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Toshiaki Tsumagari

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津曲 俊明

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千葉県船橋市議/立憲民主党

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