おもてなしの心で

　今回、私達23期生7名は3日間の日程で宗家研修を行った。それは私達のこれまでの体験の中でも何本かの指に入る貴重な体験であった。そして研修を指導してくださった業躰部の先生やいろいろとお心遣いを頂いた秘書室の方々、これまで私達を指導してくださった中島業躰先生、紺谷先生、加藤先生などご協力を頂いた方にまずはお礼を申し上げます。また、今日庵の見学の時にはお家元から直接お言葉を頂いた事を感謝します。

　研修を通しては、業躰の先生方からたくさんの貴重な話や「なるほどこれはこういう意味だったのか」というような話などを頂くことができた。そして茶道とは、文化とは、日本とは、ということを常に考えることができた。その中で私が自分の考えで導き出した答えは「おもてなしの心」であった。確かに他にも大事なことがあるかもしれないが「おもてなしの心」こそ、すべてに共通するものではないかと考えた。そしてなぜそういう答えを導き出したのかをここでもう一度振り返ってみたい。

　私はこれまで文化的なものにあまり触れることがなかった。当然、茶道も塾に入塾した4月から習い始めた。最初は誰にでもあることだろうが、「足が痛い」と「なんて決まり事が細かいのだ」が感想だった。しかし、週1回回数を重ねていくうちにその細かい動作がすべて歴史的に作られ、かつ合理的にできているのだということを知り、茶道の伝統性に自分なりに気づくことができた。そして、最初のほうだったと思うが中島業躰先生がお話された利休百首の「その道に入らんと思う心こそわがみながらの師匠なりけり」という歌があった。この歌に茶道を習うために大事なことが何かということすべて示されていると思った。それから確かに作法も大事だが、週1回の研修は「お茶の心とは」と常に考えながら研修をしていた。その分先生方には迷惑をおかけしていたかもしれないが。そして少なくとも「お客様を大事にすること」が中心なのだと考えていた。

　実際の研修は朝の作務から始まった、私達も毎日塾では朝三十分程掃除をしているため、あたりまえのように掃除をしていた。しかし、研修の中で町田宗芳先生が「結構なお手前でした」の意味は単にお茶がおいしかったということをいっているのではないという言葉を頂いた。お手前の意味とは、お茶を飲むだけなら三十分ぐらいで終わってしまうが、それだけではなく、亭主は前の日からどのお菓子を出そうか、どのお茶碗を使おうかと常にお客様の考えていたその心遣いすべてを意味するということだった。そうなると朝の掃除はただ単にきれいにするのではなく、お客様のことを考えてすることになる。これこそ「おもてなしの心」であろう。実はこの「おもてなしの心」は私が以前から興味を抱いていた言葉であった。

　この「おもてなしの心」のもとは茶道の心得の中にある「一期一会」だろう。これは一生に一度の出会いと心得て真心をこめて茶会を行うということだ。私は以前からこの言葉を大事にしてきた。よくこの言葉を一生に一度しかないような大事なときにだけ使うような人がいる。しかし、この意味は茶道では常に一瞬一瞬が「一期一会」であってそれを大事にするということだ。二日目の夜の懇親会で、私は幸いにも中島業躰先生のとなりに座りいろいろとお話を聞くことができた。このよう経験はもう二度とできないかもしれない。でも、よく考えてみればそれは他の人に対しても同じである。私のもうひとつのとなりは紺谷先生だった。紺谷先生に「今日庵で研修することは、もうないかもしれないが、でもこうして先生とここでお食事するの事ももうないことですから、どちらも大切なのですね」と話をしたら、先生はそれが一期一会の心なのですとおっしゃった。

　この「一期一会」の中にこそ日本文化、精神、伝統が息づいているのではないか。そこから自然と生まれてくることが「おもてなしの心」だろう。私は政経塾に入塾して以来、日本とは何か、伝統とは、ということを考えていた。そして茶道を学んでいてそれはお客様を大事にする、お客様のことを考えるというような「おもてなしの心」だという自分なりの考えをもつことができた。実はこのことは宗家研修に行く前からそうではないかと考えていたが、研修を終えるにあたってその深い意味を体で感じることができた。今後の私の考えの基としてもちつづけるだろう。

　いろいろと自分の感想を勝手に言ってしまったが、もちろん私はほとんど茶道のことはまだわかっていない。それこそまだ正座も十分にできない。しかしそのような私達がこのような体験をできたのは、他のたくさんの方々のお心遣いもあったでしょうが、やはり松下幸之助塾主のおかげである。あらためてその偉大さを知るとともに、どれだけ塾主が私達政経塾生に思いを込められているかを知った。その思いを胸に今後とも活動をしていきたい。