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地域と強力なつながりを築くまで:
コミュニティづくりのデザインとその実践(後編)

 本レポートは、人の森株式会社[1](神奈川県海老名市)における7ヶ月間の経営実践研修に基づき、神奈川県二宮町を舞台として、コミュニティづくりのデザインとその実践を論じるものである。後編では、コミュニティづくりの経験がない私にとって初挑戦となるコミュニティデザインを経て、実際にコミュニティづくりに着手し、直面した課題と克服策を論じていく。そして、そのために必要なリーダーシップについても説明する。
 まず、前編[2]において記述したように、人の森社員や二宮町住民にヒアリングを重ね、ワークショップとして、人の森社員と二宮町住民が対話する機会を設けることで、オープンプラットフォームとしての「たけのこ地区構想」を打ち立てた。「たけのこ地区」は、豊かな自然を保護し、二宮町住民や学生などの生活者が主体として活動できる開かれた場である。個人や企業、行政が主役となってそれぞれがやりたいことに挑戦することで、健康とライフタイムバリューを向上し、笑顔を創造することを目的としている。そこに、人の森がこれまで培ってきた人的資源が組み合わさっていくことで、二宮町住民だけではできない、二宮町と人の森だからこそできるものが生まれていくものと考える。

 このコンセプトと仕組みを実践する過程において、ビジョンの更新、共創コミュニティの創出、文化の醸成が必要であった。しかし、そこで直面したのは、「意識の統一」「人材・人事」「効果の定量化」に関する課題である。例えば、「まちを盛り上げるとはどういうことか」「そもそもコミュニティとは何か」「どのような価値を生むのか」というように、意識や用語の認識や理解レベルが社員や住民によってバラバラである点。また、「利益を多く生む事業が優先ではないか」「住民のペースに合わせるのが難しい」というように、それぞれの事情に背景があり、チームとして力を最大化できない点。そして、「KPI[3]は何か」「コミュニティは何にどこまで寄与できるのか」「コミュニティの価値は数値化できるのか」というように、効果の定量化が難しい点が挙げられる。

 他のコミュニティデザインやコミュニティづくりの現場においても、こういった課題に直面しているのではないだろうか[4]。このような課題を解決に導いていくためにも、コミュニティづくりにおいてもリーダーシップが求められていると言えるだろう。しかし、決定権限もなければ、サーバント・リーダーシップ[5]をはじめとして様々スタイルがあるリーダーとしての振る舞いも確立しておらず、それに付随するマネジメント等のスキルも不十分な筆者が中心となったプロジェクトにもかかわらず、結果として、必要なときに必要な人ものアイデアが集まってきたし、自分のアイデアが形を変えながらカタチになっていったように思われる。

 要因を考えてみると、むしろ経営では欠点となる性質こそがコミュニティの主体性を引き出すリーダーシップやマネジメントとして有効であったのではないだろうか。例えば、「地域は盛り上がってほしいけれど、騒がしいのや交通トラブルは嫌だ」「地域の人と協働したいけれど、仕事だから平日の日中以外は難しい」など、たけのこ地区に携わる住民や社員の要望や要件が曖昧で矛盾が多く、それに対処しなければならない。そのためには、曖昧性を受け入れ、どうしてそのように考えるのかを文脈や背景そのものから理解するために、自分のフレームワークを一旦棚上げにして考える必要があった。

 そして、人の森社員や二宮町住民の理解の仕方を理解するためにも、積極的に現地現場に行く、一緒に体を動かす、食べる、触れる、考えるということ通じて、全身で人の森や二宮町を感じる必要があった。そうする過程で、お互いの共通言語が生まれ、課題解決のアイデアが自然とあれこれ出てくるように感じられた。そのプロセスには、特定の所有者や管理者だけでなく、そこに関わるすべての人がお互いのアイデアなしには成立しない場が生まれていたのではないだろうか。これは、強烈なリーダーシップがなかったからこそできたことである。

 このような行動は、デザイナーがデザイン活動に取り組む際の信念や行動規範、振る舞いの分析から、過去や前例にとらわれず、新たな選択肢をつくることに能動的に関与しようとする態度と類似している[6]。そして、その態度によってこそ、「多様な解釈の中から特定のものを選別し、それを意味づけ、理解させ、納得してもらい、解釈の方向性を備える」ことが可能になる[7]。トップダウンでストーリーを浸透させるのではなく、メンバーの多様な認知と解釈が生きる方向に導くことがコミュニティづくりやコミュニティマネジメントの要諦ではないだろうか。そして、それは従来のリーダーシップでなくとも、自分らしいリーダーシップをデザインすることで可能になると考える。

 以上、前後編にわたり、人の森株式会社における経営実践研修に基づき、神奈川県二宮町を舞台としたコミュニティづくりのデザインとその実践を論じてきた。様々なコミュニティづくりが試みられる中、地域と強力なつながりを築くためには、昨今言われるようなアイデア重視ではなく、地域や企業において自分たちがどのようなリーダーシップを発揮するのかというリーダーシップ重視のコミュニティづくりも同様に重要ではないだろうか。一方で、コミュニティづくりをビジネスの観点から仕掛けるには、持続可能性の観点から収益化や集客モデルにも課題があるため、今後も取り組んでいきたい。

参考文献

・特許庁(2020)「デザイン経営」の課題と解決事例.

・八重樫文・大西みつる(2023)新しいリーダーシップをデザインする デザインリーダーシップの理論的・実践的検討.新曜社.

[1] https://hitonomoricorp.jp/#section_top

[2] 三藤壮史(2024)地域と強力なつながりを築くまで(前編).
https://www.mskj.or.jp/profile/masashi-mito.html

[3] KPIとは、Key Performance Indicator(キー パフォーマンス インジケーター)の略で、「重要業績評価指標」の訳。KPIの設定により、達成状況を定点観測することで、目標達成に向けた組織のパフォーマンスの動向を把握できるようになる。

[4] 特許庁(2020)「デザイン経営」の課題と解決事例.3-13項

[5] 従来のリーダーにある支配的イメージとは一線を画し、社員・顧客・組織に奉仕する姿勢で、人々が望む目標や社会を実現するために立ち上がるリーダー。互恵的リーダーシップという枠に括られる「より良い変化を起こすために他者に奉仕する」ことを軸とするスタイル。
https://mba.globis.ac.jp/careernote/1351.html

[6] 八重樫文・大西みつる(2023)新しいリーダーシップをデザインする デザインリーダーシップの理論的・実践的検討.新曜社.27-29項.

[7] 八重樫文・大西みつる.前掲注2.48項

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