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地域と強力なつながりを築くまで:
コミュニティづくりのデザインとその実践(前編)

 本レポートは、人の森株式会社[1](神奈川県海老名市)における経営実践研修に基づき、神奈川県二宮町[2]を舞台とするコミュニティづくりのデザインと実践を論じるものである。本編では、私にとって初挑戦となる「コミュニティデザイン」に焦点を当て、その背景、目的、および成果について論じていく。また、その過程で直面した課題と克服策を見つけるために必要な努力についても説明する。

 「コミュニティデザイン」とは、人口減少が進み、新しく公共施設を建てにくい時代において、リサーチやワークショップ、チームビルディング、サポートといった目には見えない要素を異なる地域や分野に合わせて個別に設計することにより、コミュニティの力が弱まっている社会や地域における人と人のつながる空間・プロセス・組織を独自のアプローチによって構築することをいう[3]

 さて、活動の現場は、東京<JR東海道本線>から約70分の距離にある神奈川県二宮町である。人口27,564人のうち、35.4%を占める9,749人が老年であり、2060年には、16,945名と推計される人口のうちの40%以上に当たる6,988人が老年とされ、税収の減少と社会保障費の増加が予想されている[4]。そのため、健康寿命の延伸という課題があるが、二宮町における要介護認定者数を見てみると、2017年から2021年の5年間、要介護(要支援)認定者数は1,485名から1,715名へ増加している[5]。中でも、要支援1は12.0%から18.4%へと増加しており[6]、要介護(要支援)に認定される以前の状態、すなわちフレイル状態の高齢者に歯止めがかかっていないことが見てとれる。

 原因は、運動不足と社会参加の減少が考えられる。まず、運動不足について、地方都市の例に漏れず車社会である二宮町においても、高齢者が状態に応じて、無理なくできる、一番身近な運動は歩行である。ウォーキングは、生活習慣病や認知症、ロコモティブ・シンドローム[7]の予防・改善に加え、メンタルヘルスから効果からドイツで医療として扱われることもある[8]。しかしながら、住民アンケートによると、将来重要だと考える移動手段は、自家用車からコミュニティバスやオンデマンドタクシーに取って代わられるだけで、徒歩が重要な地位を占めていない[9]

 そして、社会参加の減少ついて、高齢者に対して活動している主体は自治体や地域社協という状況で、決して多くはない地域活動の多くを子育て関連の団体が占めている。加えて、それらの活動は固定的で、交流も一部のメンバーに限られている。事実、二宮町で地域活動を行っている多くの団体が、年齢のギャップにより同じ活動ができない、また、興味があったとしても、どこで誰がやっているのかわからないなどの理由で、新旧住民の直接的、間接的な交流不足に悩まされていた。

 二宮町において、これらの原因を克服し、課題を解決するためには、人の森社員と二宮町住民とのコミュニケーション機会を増やし、「誰と何をどうやっていくか」というビジョンを描く必要があった。遊休地を人が活動できるように環境を整備しつつ、その整備の様子を二宮町住民の方々に見ていただきながら、対話を重ねた。興味を持っていただけた方とはFacebookグループでつながり、意見交換やそれを促すワークショップの企画を通じて、人の森と二宮町住民の協力でできることを可視化していった。

 その結果として、「たけのこ地区構想」というプロジェクトが立ち上がった。そのコンセプトは、「二宮町住民の属性に関わらず、ぶらぶらと歩いて楽しい歩行空間において、出会った人々が話し、眺めるなどの共通行動をとり、最終的には新たな発想を実現する活動と人々のつながりが竹林のように育まれる場」である。

 「たけのこ地区」では、徒歩15分圏内の小中学校やプール、文化財などの人が集まる拠点とつながる歩いて「楽しく健康に良い道」を通じて、みんなで育ててみんなで食べられる「シェア農園」で、育てた蚕や果樹で「糸を紡ぎ、布を染める」ことができる場所として、みんなで少しずつ「古民家改修」をしていく。これら4つを大きな柱として、二宮町の自然に近い衣食住が集まる場所を目指した。

 しかし、以上のような多様な地域ニーズやさまざまな地域資源が集まり、新たな活動を呼び起こしていく環境のデザインの必要性は改めて強調するまでもなく、よく耳にする話である。なるほど全国に目を向けてみると、あらゆる地域で上記のようなコミュニティづくりは試みられている。だが、成功している例はごくわずかだ。実際に、二宮町住民のチャレンジを支えるため、「たけのこ地区」を開かれた場として整備し、チャレンジャーを発掘し、横断的に連携させていく過程で様々な課題に直面した。その課題と克服策については、後編に譲る。

参考文献

・荒昌史(2022)ネイバーフッドデザイン.英治出版.

・坂倉杏介・石井大一朗・醍醐孝典(2020)コミュニティマネジメント.中央経済社.

・二宮町(2023)第2次二宮町地域福祉計画

・二宮町地域公共交通活性化協議会(2023)議題1地域公共交通アンケート結果について

[1] https://hitonomoricorp.jp

[2] https://www.town.ninomiya.kanagawa.jp/front.html

[3] 坂倉杏介・石井大一朗・醍醐孝典(2020)コミュニティマネジメント.中央経済社.
荒昌史(2022)ネイバーフッドデザイン.英治出版.

[4] RESAS (地域経済分析システム)
https://resas-portal.go.jp

[5] 二宮町(2023)第2次二宮町地域福祉計画.17項.

[6] 二宮町(2023)前掲注.17項.

[7] ロコモティブシンドローム(ロコモ:運動器症候群)は、加齢に伴う筋力の低下や関節や脊椎の病気、骨粗しょう症などにより運動器の機能が衰えて、要介護や寝たきりになってしまったり、そのリスクの高い状態を表す言葉。
https://www.joa.or.jp/media/comment/locomo_more.html

[8] クアオルトという。
https://kurort.jp/kurort/about_kurort/index.html

[9] 二宮町地域公共交通活性化協議会(2023)議題1地域公共交通アンケート結果について.1-11項.

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