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日本を海洋大国にするための第七歩:
日本の水産業成長に何が必要かーー
外国人技能実習生頼みの生産・加工現場や中国による日本水産物の全面輸入禁止措置を踏まえて考える

はじめに

 筆者は日本で外国人労働力に頼らないと回らない数々の現場に直面した。地元広島の牡蠣打ちも、枕崎のかつお節生産工場も、働いている半数が外国国籍の人々である。彼らがいなくなったら、日本の水産業はどうなっていくのだろうか。実際に、コロナパンデミックにより技能実習生が入国できず、労働力が不足し、生産量が落ちた工場も多かったようだ。[1]
 また、2023年8月24日の福島県原子力発電処理水放出に対して、中国政府は日本の水産物全面輸入禁止措置をとった。金額ベースでみると、わが国の輸出水産物の約46.7パーセント[2]は中国に送られているため、一部の水産関係者は打撃を被っている。
 流通や移住が多様化するグローバリゼーションの中で、このような想定外の状況に翻弄されている日本の水産業を、どのように成長させていくべきなのか考察する。

技能実習制度と移民政策

 鹿児島のある港で「船に乗れる定員が10人なら、今ではそのうち5人がインドネシアかフィリピンからの技能実習生だ。」と教えてもらった。また、広島の牡蠣打ち作業場のホワイトボードには、外国の名前がずらりとカタカナで並んでいた。彼らがいなくなったら日本の水産業が到底立ち行かないのは明らかである。
 日本政府は深刻な人手不足に対応するため、技能実習生や特定技能などの制度を整えてきた。日本における漁業従事者の人数は約13万人で、一貫して減少している一方で、外国人労働者の割合は年々増えている。[3]産業維持のために担い手不足を補う目的で外国人を雇用し続けるわけだから、ここで移民政策についてしっかり議論する必要が生じる。
 技能実習生は、一定の年数が経てば帰国してもらうというシステムである。しかし、現行の特定技能2号の場合、在留期間が無制限となっているので、自国に帰ることを前提していないわけであり、ほぼ移民と言っても過言ではない。家族帯同となっているので、日本社会で労働者でない移民も増加する。2023年6月9日の閣議決定により、それまでの建設と造船の2つの分野に限られていた特定技能2号であったのが、漁業なども加わり全部で11種類と拡大された。漁業も人的資源が著しく不足している産業だと自明となり、なし崩し的に漁業を通しての移民が増加する建付けとなっている。多言語・多文化を背景とした子供もどんどん増えていくだろう。つまり、漁業・水産業を含む日本経済の基盤を持続させるのと同時に、外国人受け入れの門戸を開くと多文化社会になるので、日本の生活のあらゆる面で制度やルールを整え、異文化に対するマインドを涵養していかなければならないのだ。

芝園団地のシチュエーションが全国に増えていく 

 埼玉県川口市に住民の約6割が外国人で、その内の7割以上が中国人だという芝園団地がある。住宅不足の解消が図られた、UR都市機構の築45年の団地だ。2023年9月11日に芝園団地自治会事務局を訪問し、日本における異文化共生の現状について話を伺った。1978年に建てられた当初入居したのは日本人だけだったのだが、一定の所得があれば収入証明の提出だけで、保証人要らずで入居できたことが要因で、1990年以降徐々に外国人が増えてきたそうだ。料理のにおいや生活音、ゴミの分別などで、生活習慣の違いが現れ、2013年ごろまでは事務局にも苦情がかなり寄せられたということだった。しかしながら、今は落ち着いてきて、各家庭がそれぞれの生活をしていて、ただ単に同じ空間で多国籍の人々が居住しているということだけだという話であった。日本人と外国人が特に目立って交流するという日常は見られない。都市への人口流出が止まらない現代に、外国国籍の人が日本人の人口を上回る芝園団地のような漁村がでてくるのは想像に難くない。

 芝園団地を15階から見下ろした風景。(2023年9月11日、撮影・筆者)

 

芝園団地内のエレベーターにある日本語と中国語二言語による張り紙。
(2023年9月11日、撮影・筆者) 

 日本の土地で、日本人は減り、多文化を背景にした人々が確実に増えてくる。グローバル、多様性、共生など言葉は出回ってはいるが、境遇や立場を超えて、一体どのような「日本」にしていきたいのかを考えていかなければ、外国人の労働力なしでは成り立たない水産業の未来も描けないであろう。

ノルウェーのサーモン戦略 

 時間の変遷や空間の移動に伴い、人々の習慣や嗜好(しこう)は変わる。国家としてサーモン戦略を打ち出し、他国の食生活に変革をもたらしたのが、ノルウェーである。彼らはまず、自国の水産物の輸出拡大に向け、市場開拓、プロモーション、リスク管理などの活動を行うための通商産業水産省の公的機関として、水産審議会(The Norwegian Seafood Council)[4]を1991年に立ち上げた。輸出量・輸出総額共に年々伸び続けている。[5]水産審議会は、ノルウェーの北部水産都市であるトロムソに本部を置いているが、東京、ソウル、北京、パリなど、海外にも12か所のオフィスを構えている。実際に、各地のどのスーパーや市場へ行っても北欧のサーモンが必ず扱われているうえ、日本の回転ずし店での人気ネタのトップに12年連続で君臨している。[6]ノルウェーサーモンの人気は止まることを知らず、人々の味覚を変えたと言っても過言ではない。

オール日本で旗振りを

 筆者は、このノルウェーサーモンの事例のように、日本の無形文化財の「和食」に欠かせない出汁文化を積極的に世界に普及させたいと考えている。独特な味と健康なる栄養素として、うま味を世界中に浸透させると、昆布、鰹をはじめとした出汁の原料が日本の水産物輸出を牽引してくれるだろう。活魚と異なり、保存期間が長い点も、世界情勢に影響される輸出入でリスクが低く、非常に有用である。
 水産庁の最新の水産基本計画には3つの柱がある。第一が「海洋環境の変化も踏まえた水産資源管理の着実な実施」、第二が「増大するリスクも踏まえた水産業の成長産業化の実現」、そして最後が「地域を支える漁村の活性化の推進」である。第二の柱の中に、輸出拡大が盛り込まれている。[7]例えば、農林水産省が推進する、農林水産物・食品の輸出プロジェクトで、北海道農政事務所や日本貿易振興機構(JETRO)、中小機構などが参画するプラットフォームを使った「オール北海道」という取り組みがある。輸出に意欲のある道内生産者や業者を募り、商社を巻き込んで輸出を後押しするというものだ。[8]外部委託のコンサルティング会社がマッチングするイベントや説明会を実施しているが、オール北海道ではなく、各生産者や各業者が個々で流通チャンネルを増やすことに終始しているだけである。日本の誇る水産物を武器に世界市場に切り込んでいくためには、国家戦略として大きく風呂敷を広げた方がいいのではないだろうか。

おわりに

 日本での「魚離れ」や「少子高齢社会」という現象は、世界の大部分で起こっている現実の真逆である。世界の人口も増え続けているし、世界における水産物の需要は1人当たりの魚介類消費量の増加と並行し、どんどん増えていく。世界全体での魚介類消費量は、過去半世紀の間に約5倍に増えた。[9]

 外国人材を単なる労働力と捉えた安易な政策では対処できない日本の漁業・水産業は、これからどう成長すべきか。余剰生産物を売るために世界でもマーケットを探していた以前に比べると、積極的に各生産者が都道府県レベルのサポートを受けながら、商社とコンサルティング会社のコネクションで結ばれ、販売先を増やしている。しかしながら、これからは国家戦略として、世界市場において「オール日本」体制で日本水産物、特に昆布や鰹節といった出汁の需要を創り出していってはどうだろうか。

[1] 笹川平和財団海洋政策研究所、オーシャンニュースレター第497号(2021.04.20発行)佐々木貴文、「水産業の外国人依存と持続性問題」 (最終アクセス日2023年12月7日)
https://www.spf.org/opri/newsletter/497_1.html?latest=1

[2]水産庁、令和元年度「水産白書」、第1部令和元年度水産の動向 第4章我が国の水産物の需給・消費をめぐる動き(4)水産物貿易の動向、
https://www.jfa.maff.go.jp/j/kikaku/wpaper/r01_h/trend/1/t1_4_4.html
(最終アクセス日2023年12月7日)

[3] 水産庁、令和3年度「水産白書」、第1部令和3年度水産の動向 第2章我が国の水産業をめぐる動き(3)水産業の就業者をめぐる動き、
https://www.jfa.maff.go.jp/j/kikaku/wpaper/r03_h/trend/1/t1_2_3.html
(最終アクセス日2023年12月7日)

[4] The Norwegian Seafood Council のオフィシャルウェブサイト
https://norwegianseafoodcouncil.com/
(最終アクセス日2023年12月7日)

[5] PR TIMES「ノルウェー水産審議会2021年水産物年間輸出統計の実績を発表」
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000011.000068035.html
(最終アクセス日2023年12月7日)

[6] Forbes JAPAN Web-News、「回転寿司の人気ネタランキング、1位は12年連続のド定番ネタ」
https://forbesjapan.com/articles/detail/61716
(最終アクセス日2023年12月7日)

[7] 水産庁、令和4年3月「水産基本計画」
https://www.jfa.maff.go.jp/j/policy/kihon_keikaku/attach/pdf/index-9.pdf
(最終アクセス日2023年12月7日)

[8] 同上(最終アクセス日2023年12月7日)

[9] 水産庁、平成28年度「水産白書」、第1部平成28年度水産の動向 第1章特集世界とつながる我が国の漁業~国際的な水産資源の持続的利用を考える~第1節世界の漁業の状況(1)増加し続ける世界の水産物需要、
https://www.jfa.maff.go.jp/j/kikaku/wpaper/h28_h/trend/1/t1_1_1_1.html
(最終アクセス日2023年12月7日)

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