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がんばらないおせち~日本の食と家庭を考える新しい提案~

昨年末の話になりますが、私自身、初めての書籍となる『がんばらないおせち(https://www.amazon.co.jp/dp/B082S6VPD4)』を電子書籍出版させていただきました。改めて、支えていただいた皆様に、厚く御礼を申し上げます。ありがたいことに、Amazonランキングでも反響を頂き、多くの方に喜んでいただくことができました。あれから4か月が経ち、現在、2冊目の執筆にとりかかっています。書籍の中では語れなかった裏側や私自身の思いを、ここに残したいと思います。
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●『がんばらないおせち』出版に至ったきっかけ
 きっかけは、ランチ交流会で知り合った家庭と仕事を両立する兼業主婦たちの何気ない会話でした。「今年おせちつくるのどうしよう」「おせちはつくるのが面倒」「今年はもう買っておしまいでいいや」・・・江戸時代から続く日本の伝統文化が、令和時代の主婦たちの負担となっていました。しかし、話を紐解いてみると、おせちが嫌い・おせちが食べたくないというわけではなく、おせちは食べたいけれど、つくることに抵抗がある・おせちは特別な料理に思えるなどと普段の料理よりハードルが高いイメージを持っていることが見えてきました。
一流のプロたちが監修しているおせちのレシピには、手間がかかる工程や、時間を要する内容が多く存在します。その印象からか、忙しい主婦たちにとって、おせちとは、がんばって背伸びしてつくる料理になっていました。おせちとは、ハレの日の料理ですが、普段の料理の延長線上にあります。もちろん、手間や時間をかけてつくるレシピはとても貴重なものです。ですが、それだけでは、おせちは料理好きや料理に慣れている人にしか手が出せないものになってしまう。もっと手軽に、料理が苦手な人、おせちをつくったことがない人、おせちをつくる時間がない人たちにも気軽に手が届くレシピを提案することで、日本の大切な食文化に触れてもらえるきっかけづくりができればという思いから、この本をつくろうと決めました。

●『がんばらないおせち』のこだわり              
 本をつくる上で、一番こだわったのが目次です。目次(https://www.amazon.co.jp/dp/B082S6VPD4)をみていただくとわかるのですが、そのおせちに込められた意味と、それを現代的にアレンジする手法が一文でわかるように明記することを意識しました。本当に料理なんてつくらないという人には、目次を読んでくれるだけでもためになるような構成にしています。レシピについても、試行錯誤を繰り返し、炊飯器で黒豆を炊いたり、材料二つでおせちを再現したり、いかに初心者が実践できる簡便さを追求するかにこだわりました。『がんばらないおせち』に書かれているすべてのおせちをつくっても、一般的なおせちレシピより、1/4程度の時間でつくることができます。 

●おせちの魅力 
 おせちときくと、食品メーカーがつくるおせち商品を食べれば充分だと思う方も多いかもしれません。ただ、おせちには、単なる日本の食文化と一言で片付けきれない魅力があります。

(1)粋な日本人の発想
 おせちには黒豆やエビの料理がありますが、“まめ”に暮らせるように、えびのように腰が曲がるまで長生きできますようにといったふうに、素材の名前、形、姿から、験を担ぎます。このような言葉遊びは、江戸に生まれたのですが、いまなお現代に続いているということは、当たり前のように見えて尊いものです。
食材や料理に、意味合いを付加して価値をつけ文化にすること、この江戸時代の庶民の流行が流行に留まらなく文化に昇華した姿には、現代を生きる私たちが後世になにを残していくかを考えていく上で、学ぶべき視点が多くあるのではないでしょうか。
 

(2)おせちは日本の農林水産業が詰まっている
 和食は、海外も認める健康食です。その所以は、自然の恵みを大切にし、多様な食材の素材そのものを生かすことなどにあります。これは、南北に長く四季に恵まれた日本の地理環境がもたらした財産です。昨今、農業体験や食育などが広まりつつありますが、昔のように農家との距離が近いわけでも、自然がそばにあるわけでもありません。しかし、和食、とりわけおせちという料理は、日本の農と食をつなぐ媒介ともなりうるのです。さらに、海のもの、山のもの、肉だけでない、野菜だけでない、おせちに含まれる多様な食の要素は、日本の農林水産業の縮図が描かれているように思います。

(3)おせちはコミュニケーションツールであり、現代こそ取り入れるべき視点
 久しぶりに会った親戚たちと、なにから話せばいいものか・・・そんな時、おせちという日本人の共通言語があることは、対話のきっかけにもなります。食事というコミュニケーションツールは、家庭内の対話を生む役割をもちます。
 また、おせちには年始の三が日くらい家事を休もうという意味合いも込められており、保存がきく品が多いことが特徴です。保存性や利便性の高い食事のつくり方はもちろん、家事を適度に休んだり主婦を労う考え方は、共働き世帯が増えてきた現代こそ大切にすべきかもしれません。       

(4)料理が上手になりたいと思う人ほど、おせちにトライしてほしい
 おせちには、和え物、焼き物、煮物というように和食の基礎が詰まっています。年に一回の行事で集中的に和食のいろはを体得できるおせちは、料理がもっと上手になりたいと思う人にぜひトライしてほしい行事食のひとつです。自分でつくり、素材や調理法について知ることは健康管理の第一歩にもなります。おせちづくりを通して、和食に親しむきっかけになればと思っています。

●おせちと志がどうつながっているのか?
 私は、食改善を通じて健康増進を促す活動をしています。それは、自分自身の入院生活から、健康であるということが、人生の選択肢の幅を広げることにつながると体感しているからです。個人の食生活はもちろん、食環境によっても健康は左右されます。私は、東日本大震災の支援活動時に食物アレルギーがあるため備蓄食が食べられない方がいるという現実に直面しました。誰もがいかなる状況下においても食べることも困らず、健康的な食習慣をおくることで社会の多様性を生み出す「食のバリアフリー」を実現することを私は志に掲げています。
 おせちの本と私の志がどうつながっているのかと思われるかもしれません。もちろん、本を一冊書いたからといって志が実現する訳ではありません。今回は、おせちを切り口に、日本の食や家庭が抱える課題と向き合い、新しい手法を提案することで、目の前の食事を考えるきっかけになればと思い、つくりました。本を出してから、連絡をいただく機会が増え、「その視点はなかった」「こんな本ほしかった」「悩みが解決できた」といううれしい声をきくことができました。決して大きな成果とは言えないかもしれませんが、こうした地道な積み重ねが、少しずつ意識や行動を変えていくんだと実感しています。

●今後の展望
 電子書籍出版の強みは、私の行動領域を超える範囲で、より多くの方々にサービスを提供できることにあります。新型コロナウイルス感染症が拡大する前の話になりますが、ビジネス交流会で名刺交換をさせていただいた際に、「もしかして、おせちの本を書かれている方ですか?」と聞かれたときには、拡散力の強さ、影響力の大きさに、可能性を見い出すことができました。             
 松下幸之助塾主は、塾生たちに、自分自身の政策や考えの具体策をもち、塾生生活の後半は、国内外へと講演行脚し練磨していくよう話していたそうです。徳川時代の飛脚と昭和の電話機を比較しながら、社会の生産性の追求を唱えていた方ですから 、40年経ったいまの塾生が、当時と同じような講演行脚していては、きっと怒られてしまいます。
 新型コロナウイルス感染症が拡大し、行動に制限がかかる時期だからこそ、時代に即した講演行脚の形を、自ら研究し、実践していく必要があると考えさせられるようになりました。
 これからの社会、健康への意識はますます高まります。食や健康の適切な情報が届く環境を整備し、食からはじめる健康管理を薦めることが、私の役割だと感じています。電子書籍だけでなく、WEB、動画、レシピ投稿などのバーチャル空間を生かしながらの実践活動を模索しているところです。自分にできることを小さく積み重ねていくことの大切さを、今回の電子書籍出版から感じました。バーチャル空間を生かした活動を実践していくことで、だれもが自分らしい健康とライフスタイルを手にし、多様性を生み出す社会をつくっていきたいと思います。

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髙橋菜里の活動報告

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Nari Takahashi

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第38期

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