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「消費」しない観光地経営に挑む

「消費」しない観光地経営に挑む
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「消費」しない観光地経営に挑む

神奈川県横須賀市に本社を置く株式会社トライアングル[1](以下:トライアングル)での研修をさせていただいて約3ヶ月が過ぎた。先のレポート(地域の可能性と新たな魅力を掘り起こす https://www.mskj.or.jp/report/3467.html )でも触れた、現在進行中のプロジェクトについて記す。
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1.無人島・猿島について
 
 トライアングルは神奈川県横須賀市において無人島・猿島への航路事業や、海上自衛隊とアメリカ海軍の艦船を間近で見ることのできるクルーズ「YOKOSUKA軍港めぐり」を中心の事業とする企業である。私はこの会社の営業企画部の一員として勤務し、研修をさせていただいている。
 今回記すプロジェクトの舞台となる猿島は2019年に約20万人の来島者を記録した横須賀観光の核となる場所である[2]。市内中心部からトライアングルの運航する船舶に乗り10分ほどで到着するというアクセスの良さに加え、東京湾における要塞が築かれた歴史を持っており、間近で兵舎や弾薬庫、レンガ積みのトンネルといったものを見ることができる点も特徴である。こうしたことから国の史跡や日本遺産に登録されており、人気映画『天空の城ラピュタ』の世界観が感じられるとインターネット上で話題になる[3]など若者からの人気も得ている。
 
2.「つづく みんなの猿島プロジェクト」
 
 しかし、こうして人気に火がつき来島者が急激に増えたことで、これまでの設備では間に合わなくなるという問題が生じてきた。ゴミ捨て場やトイレのキャパシティがその一例である。もちろん観光客の数が増えることは歓迎すべきことであるが、それと同時に起こるこうした問題を放置しておくと、管理運営の面でのコストが増加するというだけでなく、周辺の生態系変化や観光客の満足度の低下につながる。加えて猛威を振るう新型コロナウイルスによる影響もあり、多くの方がもう一度立ち止まって生活様式や環境について考え直すようになった。
 素晴らしい自然と資源を有するこの島で、どのように魅力を増しながらも豊かなまま次世代につないでいくのか。これまで多くの場所が行ってきたような開発を中心とする観光地を「消費する」行動から、その資源を活かして維持・持続・発展を実現する観光地経営へと考え方をシフトしていくことが求められるようになっているのではないだろうか。
 そしてこれは国連の設定したSDGs(持続可能な開発目標)にもつながっていく。こうした問題意識から、12の企業と団体が連携して猿島を世界に発信できる環境ショールームとする計画が始まった。それが「つづく みんなの猿島プロジェクト」[5]である。
このプロジェクトではSDGsの17個あるゴールそれぞれに「2030年の猿島のあるべき姿」を対応させている。たとえば、SDGsのゴール②「飢餓をゼロに」は「地域の一次産業を支える島」であり、ゴール③「すべての人に健康と福祉を」は「人びとの健康を守る島」である。[6]
 ゴミの分別を細分化させたエコステーションの建設や電動クルーザーの就航と無人運航、自然エネルギーの活用や食品ロスを出さないフードループの取り組み、環境にやさしいバーベキューなど多岐にわたる施策を2030年に向けて実現させる。そうして楽しみながら学び、それが観光につながるという循環を生み出していくことを目標としているものである。加盟団体や地元の方々と話し合いや未来へのアイデア出しを繰り返しながら、さらに夢を大きくしようとしていることも特筆したい。
 私は営業企画部の中でこのプロジェクトに携わらせていただいているが、これが決して単なる夢物語でないことを肌身で感じている。エコステーションの建設はクラウドファンディングによる資金調達も含め間もなく始まり[8]、無人運航の実証実験もスタートした。[9] こうしたワクワクは自分だけ、当事者だけが感じていても意味がない。周囲の方、まだ横須賀・猿島に来たことのない方に伝播させその良さが広まっていくよう、今後も研修、また個人の活動として取り組んでいきたい。

3.おわりに


 私は人口減少時代における横須賀という街の形として、特に観光の面からは内側(市民)の【再認識】と外側(観光客)の【新発見】を循環させる必要があると考えている。横須賀に暮らす人々には「ここはこんな楽しみ方ができるのか」「これはこんなおいしかったのか」というような体験をしてもらい、観光で来た方には「また来たい」「今度は家族・友人を連れていきたい」と感じてもらい、街のファンを増やしていく。先述したように、こうした流れを作り出すためには新たな開発だけではなく、地域の持つ資源の活用と掘り起こしによって魅力を高めていくことが必要不可欠である。
そのフィールドとして猿島は絶好の舞台であり、トライアングルでの学びは大きなものがある。お客様のお叱りも含めた反応が直に伝わり、猿島や地域を良くしたいと心から思っている人たちと最も近い場所で関われるのは現地現場で学んでいるからに他ならない。素晴らしい人たちに囲まれながら研鑽を積み、引き続きこの大きなチャレンジを続けていきたい。
 
【注】
1.【TRYANGLE WEB】YOKOSUKA軍港めぐり / 無人島・猿島 / ヨコスカBBQ のトライアングルより(https://www.tryangle-web.com/) 2021年5月24日最終アクセス


2. 猿島公園の年間入園者数が初めて20万人を達成しました(2019年3月19日)|横須賀市より(https://www.city.yokosuka.kanagawa.jp/4130/nagekomi/20190319.html) 2021年5月24日最終アクセス


3. 東京から約1時間!無人島「猿島」がまるでラピュタの世界だと話題 | RETRIP[リトリップ]より(https://rtrp.jp/articles/47123/) 2021年5月24日最終アクセス


4. https://sarushima-eco.com/より 2021年5月24日最終アクセス


5. つづく みんなの猿島プロジェクト 2020→2030より(https://sarushima-eco.com/) 2021年5月24日最終アクセス


6. 猿島未来宣言2030より(https://sarushima-eco.com/assets/pdf/future.pdf) 2021年5月24日最終アクセス


7. つづく みんなの猿島プロジェクト 2020→2030より(https://sarushima-eco.com/) 2021年5月24日最終アクセス


8. https://camp-fire.jp/projects/view/398105 (建設のためのクラウドファンディングページ) より 2021年5月24日最終アクセス


9. 丸紅・三井E&S造船・横須賀市など、無人運航船の実証実験を実施: 日本経済新聞より(https://www.nikkei.com/article/DGXLRSP535743_S0A610C2000000/) 2021年5月24日最終アクセス


 
(写真1)無人島・猿島の様子[4]
(写真2)「つづく みんなの猿島プロジェクト」未来図 [7] 2030年に猿島はこうなっていたい、という想いが表されている。
(写真3、4)プロジェクトに関わる事業者や地元の方が猿島に集まり、猿島の未来と夢を語り合う「猿島ミーティング」を開催。横須賀・三浦半島の素晴らしい食材を口にしながら参加者はアイデアを出し合い、出た意見や案はグラフィックレコーディングとして共有された。(いずれも2021年4月26日筆者撮影)


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