論考

Thesis

自治体経営実践① ~自治体における行政事業レビュー~

本稿は、令和4年(2022年)10月に参加したA市及びB町における行政事業レビューに有識者チームの一員として参加した際の所感をまとめたものである。

1 行政事業レビューとは

行政事業レビューとは、実施する全事業について、Plan(計画の立案) – Do(事業の実施) – Check(事業の効果の点検) – Action(改善)のサイクル(「PDCAサイクル」)が機能するよう、点検・見直しを行うもので、いわば「行政事業の総点検」とでもいうべき取組である[1]。点検にあたっては、有識者として大学教授や弁護士、税理士などが出席し、その点検結果については、予算概算要求や執行改善等に反映する努力をしなければならない。経営において費用の適正化・削減(コストカット)と収益の増加という二つの局面があったときに、行政事業レビューは主に前者を進めるうえで大変重要な意味を有している。特に、所管する事業の予算を原課[2]ベースで大幅に見直すことは難しく、そこに外部性を取り入れることで適切な予算要求につなげることは有意義である。その一方、予算削減の議論がブラックボックス化しないよう透明性を担保することに留意が必要となる。なお、行政事業レビューと聞くと、旧民主党政権時代の「事業仕分け」を思い起こすことも多いが、現在の行政事業レビューは、旧民主党政権時の平成23年(2011年)6月7日に閣議決定された「行政事業レビュー(国丸ごと仕分け)の実施について」を廃止して、平成25年(2013年)4月5日決定の「行政事業レビューの実施等について」に基づき、実施されている。また、メディアへの露出等から中央官庁での行政事業レビューが想起されるかもしれないが、地方自治体においても同様の取組みがなされている。

2 自治体における行政事業レビューの現状と課題

筆者は神奈川県庁職員時代に加え、今年度A市とB町[3]の事業レビューに有識者チームのオブザーバーとして参加した。以下、それらの経験から見えてきた現状と課題について言及したい。

(1)内省機能の弱体化

事業レビューは原課あるいは担当職員に対して、当該事業への内省を促すことに大きな価値がある。なぜ事業を実施するのか、事業の結果どのような地域の理想像に寄与するのか定点的に振り返りを行うことで、その事業の有意性が担保される。しかし、事業レビューにあたっては、事前にレビューシート(図-1)を職員が作成するが、たとえば事業の目的等においては前年度の使いまわしのケースも多く、改めて職員がそれらを振り返る契機となっていないことが多々ある。大半の場合、ジョブローテーションによって事業の担当を引き継ぐケースであることから、事業開始の経緯等も明確に把握できていないことが多く、実際に事業レビューの場でも、「当時担当ではなかったので把握していない」という回答は多い。当然に議会ですべての事業を精査することは不可能であり、多くの事業は行政の内省によって適切に管理されなければならない。その意味で事業レビューへの期待は大きく、いかに内省機能を担保するか今一度吟味する必要がある。

■図-1 事業レビューシート<例>

出典:消費者庁HP 令和2年(2020年)度行政事業レビュー「消費者月間」レビューシート

https://www.caa.go.jp/policies/budget/review/2020/assets/review_sheet_2020_003_0012.pdf(2022年12月20日閲覧)

(2)事業効果の中長期的な検証

専ら、事業レビューにおいては単年度視点で事業予算や補助金額は適正だったかを点検するが、事業の効果検証については長期的にどのような傾向にあるのかを確認しなければならない。図-1では過去数年の実績も記載されているが、筆者が参加した事業レビューでは単年度成果のみの記載するフォーマットを用いているケースも存在した。特に、普及啓発事業や予防的意義の強い事業(たとえば、がん検診の促進事業であれば、検診促進によってがんによる死亡率に影響が出るまで当然にタイムラグが存在する)では長期的傾向を踏まえて検討することが不可欠である。単年度の事業レビューであると、この点を捕捉することが難しい。

(3)縦割り的な事業点検

また、事業レビューでは各々の事業に対して点検を行うため、全庁的な視点で精査をすることも難しい。たとえば、散見されるケースとして市民団体Xに対して複数の課が補助金を提供している場合、それらを総合的に勘案して市民団体Xへの助成を見直すべきであるが、事業レビューでは基本的に1つの事業における原課との議論になるため、断片的な見直しとならざるを得ない。また、たとえば、福祉部門の高齢者向け買い物支援事業と都市整備部門の地域公共交通の利用促進事業など事業に一定の重複や類似性が認められる場合、部門を越えて事業一本化や差別化について議論することが重要であるが、現状そのような精査が困難である。

以上、事業レビューにおける現状と課題について指摘した。ただし、自治体によって事業レビューの密度には、相当なグラデーションがあることに留意が必要である。事業レビューシート1つとっても各自治体で異なることや、成果指標の質も大きく異なる。(3)の「縦割り的な事業点検」で指摘した点についても、自治体によってはその点を認識し、関係課の全てが事業レビューに出席するケースもある。まずは先進的な自治体の水準に小規模自治体の水準を揃えることが必要だろう。その上で、事業レビューにおける結果を可能な限り予算要望に反映させなければならない。住民会議等の所定のプロセスを踏みつつも、自治体経営の健全化に必要な事項についてはしっかりと説明をし、事業の見直しを推し進める覚悟と姿勢が求められるだろう。

[1]内閣府HP https://www.cao.go.jp/yosan/review.html(2022年12月20日閲覧)
[2]特定の案件を担当している課を指す。
[3]非都市圏の自治体。守秘義務の観点から市町村名は伏せることとする。
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坂田健太の論考

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Kenta Sakata

坂田健太

第41期

坂田 健太

さかた・けんた

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持続可能な地域づくりに資する自治体経営の確立

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