Thesis
日本語学校生と聞いて、どんなことを連想するだろうか。 マスコミから得られる情報によって、不法滞在、不法就労、苦学生といったことをイメージするのではないだろうか。
日本人学生と何ら変わらない日本語学校生
過去に不法就労というようなことがあったかもしれないが、現在の日本語学校生たちはまったく違う。
卒業後は、8割が大学・大学院・短大・専門学校などに進学する。(注)
私自身も、3ヶ月間の財団法人アジア学生文化協会・日本語コースでの研修生活をとおして、日本人の学生となんら変わらないといった印象を持った。
変に気負ったところもないし、苦労しているふうでもない。明るく、楽しい日本語学校生活を送っている。自然体で受験勉強に励んでいる。
平均的な1日は、9時から15時まで日本語、15時から17時まで基礎科目(数学や英語など)の授業が入っている。その後、就寝時間まで4~5時間、宿題や復習をする。
特に、ファッションに関しては、日本人そのものである。女子学生たちは、マッドマニキュアやミュールなどファッションの最先端を取り入れている。男子学生たちも、長髪にしたり、ヘアバンドをしたり、おしゃれな学生が目につく。
日本語の先生によると、以前は、一目見ればどこの国の学生かすぐに分かったが、今は区別がつかないらしい。
皆あか抜けており、ファッションもボーダレス化が進んでいる証拠である。
自分の学費は自分で稼ぐ学生たち
受験生がアルバイトをするという点は、日本と異なる。統計によると、日本語学校生の6割が飲食店を中心にアルバイトをしている。(注)
アルバイトの目的も、大半の日本人学生とは若干異なる。それは、学費や生活費を稼ぐことを目的としている点である。
データがないので定かではないが、中国人学生に限ると6割以上の学生がアルバイトをしている。
中国では、アメリカと同じように、高中(日本の高校)を卒業したら、両親からは独立して学費や生活費を自分で稼ぎ出すそうだ。ある中国人学生は、現在、金銭面で両親の世話になっているのでとても恥ずかしい、早く大学院に入りアルバイトをして両親の負担を軽くしたいと言っていた。
中国の高中(高校)を卒業して来日したある女子学生は、朝6時から8時まで授業が始まる前、そして放課後も2時間、ビル清掃のアルバイト(就学生は1日4時間まで就労活動が許可されている)をしているそうだ。予習・復習は、それから行う。彼女の担任の先生によると、授業中まったく居眠りをしないそうである。彼女は、先日、日本語学校生では非常に数少ない奨学生に選ばれた。
日本人の友人が欲しい学生たち
そして、彼らは、日本人との交流を切望している。特に、自分と年齢が近い人と話がしたい、友人になりたいという願望を持っている。
日本語学校で勉強していても、ふだん接する日本人は先生だけ、いつも一緒にいるのは同じ国からきた学生で、日本語の実践として日常会話をする機会が非常に少ない。
学生の中には、同世代の日本人と話がしたいという理由から、アルバイトをやりたくて資格外活動の許可申請を頼みにきた女子学生もいた。
偏見の払拭を
日本では、日本語学校生は、学校を隠れみのにして出稼ぎしているといったイメージを払拭できずにいる。しかし、8割が進学しているという事実から、これが誤った見方にすぎないということは明白である。残りの2割も多くが、日本人の配偶者や家族滞在の人たちである。
また、彼らは貧乏人ではない。自国できちんとした教育を受け、かなり生活水準も高い人たちである。愛国心やプライドも一般的な日本人よりはるかに高い。へたな同情心や哀れみも不要である。
彼らは、ひとりの同等な人間として扱ってもらいたいと思っているのだ。
われわれ日本人の無理解や誤解が、日本語学校生を傷つけている。身近にいる日本と諸外国との懸け橋の芽をどうか摘まないで大切にして欲しい。
(注)96年10月 財団法人日本語教育振興協会による生活実態調査より
Thesis
Yasuko Takano
第17期
たかの・やすこ
東京大学大学院法学政治学研究科 助手・留学生担当
Mission
留学生政策、入管政策、移民政策、 国際交流、夫婦別姓、ワークライフバランス