論考

Thesis

構造改革には政治のリーダーシップが不可欠

長年日本の証券系研究機関に勤め、米国の首都ワシントンから日本・世界を見つめてきた植木塾員(第3期生)。その卓越した分析能力と経験を買われ、現在は政治家の政策秘書として活躍している。植木塾員に、今、日本がおかれている危機から脱出する方策について語ってもらった。

日銀は、2000年度末に向けて金融市場安定化に万全を期すため、二度に渡る公定歩合引き下げを決定した。しかし、株価の低迷が示すように、わが国にとって財政・金融政策の発動余地は極めて限られている。国・地方合計の政府債務残高が666兆円(2001年度末見込み)に膨れ上がる中、公共事業など財政発動による景気浮揚効果はもはや限界にあり、一段の金融緩和余地は小さい。頼みの綱であった米国景気も、昨年末以降、急速に減速傾向を強めてきている。新世紀を迎えた日本経済はまさに八方ふさがりの感が強い。しかし、日米協調という観点から見れば、意外にブレイクスルーが開けてくる可能性がある。
 ブッシュ米新政権で経済政策担当補佐官に就任したリンゼー元FRB(連邦準備制度理事会)理事は、昨年12月1日にワシントンで「米新政権の対日政策の課題」と題する講演を行い、日本に対して極めて友好的かつ示唆に富むメッセージを送っている。同氏の主張は、「過去8年間、米国政府は日本の財政・金融政策をコントロールしようとして外圧を使ってきたが、これは間違っている。財政・金融政策は、各国国内の政治的関心事であり、国際的な交渉の道具にすべきことではない。今、日本にとって必要なことは構造改革、とりわけ財政再建である。日本が本気で財政再建に取り組むのであれば、日本は米国市場(輸出とポートフォリオ投資)に依拠する必要があるだろう」というものだ。つまり、米国が日本の財政再建に伴う需要の落ち込みを補うために日本の輸出を受け入れる。一方で、日本は米景気減速下におけるドル相場、米資本市場の安定のために、積極的に米国に投資する。日本が構造改革を行うならば、こうした日米間の協調政策を打ち出すことで、両国の利害は一致するという考えだ。
 リンゼー氏は、かねがね財政赤字を拡大して景気回復を図るという日本の従来路線は誤りとの主張を繰り返しており、財政再建を含む構造改革の断行こそが日本経済再生の処方箋であると訴えていた。また、クリントン政権下でサマーズ財務長官(当時)らが日本にいちいち財政出動を指図するやり方にも批判的であった。
 こうした米国側からの賢明かつ友情あふれるアドバイスにもかかわらず、わが国政府にはこのメッセージ(構造改革の断行による経済再生と、外需主導型政策転換による構造調整コストの軽減)を真摯に受け止めて、構造改革に踏み出そうとする決意が見受けられない。ケーエスデー中小企業経営者福祉事業団(KSD)事件、外務省の機密費(報償費)流用事件、米ハワイ沖での米原潜による宇和島水産高校実習船への衝突・沈没事故をめぐる危機管理問題など様々な問題が続出し、政局は7月の参議院選挙を控え、流動的要素を強めている。今政治に求められていることは、構造改革に対する強い決意とリーダーシップを内外に示し、日米間で緊密なマクロ経済政策の連携を行い、この難局を打開していくために知恵を絞ることではないだろうか。
 


植木博士(うえき ひろし)
衆議院議員加藤紘一事務所政策担当秘書。1958年東京生まれ。一橋大学卒業。松下政経塾3期生。日興リサーチセンター入社後、香港事務所、経済調査部、ブルッキングズ研究所を経て、ワシントン事務所長を務める。その後、野村證券金融研究所主任研究員を経て、現職。

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植木博士の論考

Thesis

Hiroshi Ueki

植木博士

第3期

植木 博士

うえき・ひろし

ゴールドマン・サックス証券株式会社 マネージング・ディレクター 政府関連担当部長

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日米マクロ経済政策 日米政治制度 シンクタンク

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