松下政経塾 The Matsushita Institute of
Government and Management

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1998年4月

塾生レポート

シンガポールに学ぶ両立する財政改革と景気浮揚
籠山裕二/卒塾生

 
4月19日より渡米しあわただしくなるので、少し早いが月例報告を行う。
一昨年11月の総選挙で自民党が勝利した後、橋本内閣は抜本的な財政改革を 断行すると宣言した。その後、省庁再編案・歳出削減案・特殊法人改革案等、そ の中身は骨抜きにされた部分も多いが、方向としては財政構造改革は進んでい た。昨年11月には、財政構造改革法も成立したのである。
しかし、最近、橋本首相及び自民党は早くもこの財政構造改革法を改正しよう としている。景気回復をさせるためには、政府支出を増大し財政赤字を拡大させ ても、公共投資による景気刺激が必要との判断である。
だが、それで本当に景気が回復するのだろうか。あるいは、回復する兆しが見 えてくるのだろうか。おそらく、今回の公共投資が景気回復に結び付くと考えて いる人は誰もいないであろう。
そもそも、今日の極端な財政赤字を招いた原因は、バブル崩壊以後の税収の減 少とともに、景気刺激のために使われた、毎年何十兆円規模の公共投資にある。
それだけの財政支出をしながら、一向に景気は回復しなかった、どころかさらに 悪化の一途を辿ったのである。今回の公共投資の拡大も同じ結果(景気浮揚には 結びつかず、さらに財政赤字を拡大させる)になることは、火を見るより明らか である。

一昨日のG7では各国から、日本政府は更に景気刺激策をとるべきだと指摘さ れたが、気をつけなければいけないのは、各国は日本経済を長期的視野にたって 心配している訳ではないということである。円安の進行に伴い、日本の国際収支 の黒字が更に拡大することを怖れているのである。つまり、何が日本のとるべき 道であるか、自ら判断しなければならない。
では、どのように日本経済を立て直すべきか。シンガポールの経済政策を例に 考えてみたい。
シンガポールは、相反する二つのイメージを常に持っている。一つは自由な経 済活動、もう一つは規制の最も厳しい国というものである。そして、この二つと も間違ってはいない。①国土が狭い、②人口が少ない、③資源がない、という三 重苦を背負ったシンガポールは、地場産業の育成よりも、低い関税率や法人税率 の適用により外資を誘致することで、産業を発展させてきた。この外資導入政 策・低い税率などが自由貿易政策とともに自由なイメージを作っている。また、 国内市場が極端に小さいため、シンガポールの産業は常に世界で競争力のあるも のでなければならない。このため、行政指導を徹底により、高い生産性を維持し ている。つまり、特定部門の産業を育成し、他は衰退しても良いと判断している のである。この過去にとらわれない極端な産業政策が、行政指導の厳しい国とい うイメージを作っている。
過去にとらわれない産業政策とは、一切の既得権益を保護しないことである。
上記の三重苦のため、常に国際市場で競争することを強いられた結果であるが、 それが返ってシンガポールの強みとなっているのである。既得権益という"しが らみ"にとらわれないので、冷静に、どうすれば経済が活性化するか判断出来、 着実にそれを実行できる。また、国民も既得権益の上に安住することなく、常に 市場で評価されるよう努力している。
今日の日本経済を活性するためには、公共投資による景気刺激ではなく、抜本 的な構造改革が必要である。それを阻害しているのは、既得権益を保護しようと する人たちである。公的部門や許認可業種への市場原理の導入と、自由な競争の 確保のために行政指導を行うようにすれば、経済は活性化する。今すべきこと は、これ以上財政赤字を拡大することではない。ムーディーズ社による、日本国 債の格付け見直し検討も財政赤字が一因なのだから。
以上

1998年4月 執筆
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