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2020年6月

塾生レポート

食料自給率に「労働力自給率」の指標を ~農業における外国人労働力の現状と課題~
波田大専/松下政経塾第39期生

新型コロナウィルスの感染拡大に伴い、この春来日する予定であった外国人技能実習生が入国できなくなり、外国人労働力に依存する農業現場では深刻な人手不足に直面しています。本レポートでは、食料自給率の指標として新たに「労働力自給率」という観点を提唱し、外国人労働力への依存を高める農業や食料自給体制の脆弱性について警鐘を鳴らします。

 

1.外国人労働力に依存する日本の農業

 我が国の基幹的農業従事者数は、2000年には約240万人でしたが(注1)、2019年時点では約140万人となり(注2)、この20年で約4割減少しました。日本農業研究所によると、2040年にはさらに約35万人にまで減少すると推計されており(注3)、平均年齢67歳(注4)と言われる農業現場では今後も労働力不足の深刻化が懸念されています(図表)。
 そこで、近年は技能実習や特定技能の在留資格で就労する外国人が日本の農業生産を支える大きな力となっています。厚生労働省の外国人雇用状況の届出状況によると、2009年には「266人に1人」であった農業・林業で働く外国人労働者の割合は、2017年には「74人に1人」と急増しており、特に農業の外国人依存度が最も高い茨城県では、「21人に1人」が外国人で、20代に限ると約2人に1人が外国人となっています(注5)。


図表 基幹的農業従事者の推移

注1.農林水産省「農林業センサス」,第2巻 農家調査報告書(総括編),2000年,表番号21
注2.農林水産省「農業構造動態調査」,調査結果の概要,2019年, p.6
注3.日本農業研究所「農家人口、農業労働力のコーホート分析」,大賀圭治,2015,p.98
注4.農林水産省「農業構造動態調査」,確報,2019年,表番号2-1-2-オ
注5.日本経済新聞「農業の外国人依存度、1位は茨城県 20代は半数」, (2018.8.9)

2.新型コロナウィルスの感染拡大による影響

 JA茨城県中央会によると、県内JAでは中国やベトナム、タイ、インドネシア等から約1,300人の外国人技能実習生を受入しており、今年度も多くの実習生を新たに受入する予定となっていました。しかし、新型コロナウィルスの感染拡大によって実習生が日本に入国できなくなったことに伴い、県内の農家では営農計画を変更して作付面積を縮小する等、やむを得ない対応を余儀なくされています(注6)。
 技能実習生は、植付けや収穫等の農繁期のみの季節労働者と異なり、住み込みで1年~最長5年の実習期間のもと、年間を通じた主力の労働力として受入されていることから、パートやアルバイトでその穴埋めをすることは難しい状況にあります。これを受けて法務省は今年4月、緊急対応として技能実習生の異業種への転職を認めることとしました(注7)。しかし、茨城県外国人材支援センターによると製造業や宿泊業を希望して来日している実習生に農業への転職を認めたところで実習生の意向と折り合わず、受入側の事務手続きも煩雑であることから、農業への転職に結び付く事例はほとんど無いのが実情です(注8)。
 2019年4月には新たに「特定技能」の在留資格も認められ(注9)、今後も農業現場における外国人材の活躍はいっそう増えることが予想されますが、過度な外国人労働力への依存は今回のような非常事態の際には致命的な打撃を受けるリスクを包含することが明らかになったと言えるのではないでしょうか。

注6.JA茨城県中央会中央会, (2020.5.15取材)
注7.法務省「新型コロナウィルス感染症の影響により実習が継続困難となった技能実習 生等に対する雇用維持支援」, (2020.6.15閲覧)
注8.茨城県外国人材支援センター, (2020.5.15取材)
注9.法務省「新たな外国人材の受入れ及び共生社会実現に向けた取組(在留資格「特定 技能」の創設等), (2020.6.15閲覧)

 

3.食料自給率における「労働力自給率」

 我が国の食料自給率(カロリーベース)は、1960年の79%(注10)をピークに年々低下の一途を辿り、2018年度には37%(注11)と過去最低を更新しました。食料の大半を輸入に頼る我が国においては、ひとたび貿易が遮断されれば致命的な窮地に立たされます。アメリカの政治学者、イアン・ブレマー氏は今回のコロナ危機を契機に国際社会はいっそうナショナリズムと保護主義に向かうと警告しており(注12)、世界人口の急増によって地球規模の食料危機も懸念される中、食料自給率の向上は我が国にとって喫緊の課題です。
 2020年2月、農水省は「飼料自給率」を考慮した食料自給率の新指標を導入しました(注13)。輸入飼料で育った牛や鶏等を国産とみなせば、食料自給率は37%ではなく46%になると言うものです。しかし、飼料自給率がわずか25%の日本において、飼料の輸入が遮断されれば畜産物の生産は成り立ちません。輸入飼料に過度に依存した畜産物を果たして本当に国産と言えるでしょうか。
 「労働力自給率」についても同様の問題を指摘できます。現在のところは、農業の外国人依存度が最も高い茨城県でも労働力自給率は95%(21人に1人が外国人)を維持していますが、既に述べた通り今後の基幹的農業従事者数は現在の約140万人から20年後には約35万人にまで減少する見込みです。ここで不足する約105万人を全て外国人労働力で補うと仮定した場合、労働力自給率は25%(140万人のうち105万人が外国人)にまで低下することとなります。
 外国人労働力に過度に依存して生産された食料を、額面通り「国産」と捉えることは極めて危険です。真の食料自給率を捉えるにあたっては、飼料の自給率と同様に、今後は「労働力の自給率」についても考慮に入れる必要があるのではないでしょうか。

注10.農林水産省「平成22年度 食料・農業・農村白書 全文」,2010,巻末付録,p405
注11.農林水産省「食料自給率とは」,(2020.6.15閲覧)
注12.NHK「ニュースウォッチ9」, (2020.5.5)
注13.日本経済新聞「食料自給率に新指標 牛肉輸出増で飼料を除外」, (2020.2.13)

4.今後に向けた提言

 これまでに述べた農業現場の現状や課題を踏まえ、今後に向けた我が国の進むべき方向性について次の2点を提言します。
 第1に、最先端のロボット技術やICTを活用した「スマート農業」の普及推進です。労働力不足が深刻化する中、外国人材になるべく依存せずに農業生産を維持するためには、少ない人手でも効率的に生産できるための仕組み作りが不可欠です。近年注目されるスマート農業の分野では、人が乗っていなくても自動で走る無人のロボットトラクターや、完全自動で空から農薬を散布するドローン等、省力化に繋がる画期的な技術が既に数多く確立されています。しかし、法整備が追い付いていないがために結局は機械の監視のため人が必要となってしまう等、思うように普及が進んでいないのが現状です。農業現場の労働力不足はもはや待ったなしの状況の中、政府による抜本的かつ早急な規制改革が不可欠と考えます。
 第2に、技能実習や特定技能等、期限付きの外国人材受入制度の見直しです。前述のスマート農業は画期的な技術ですが、一方で全ての農業が機械化・自動化で対応できるわけではありません。茨城県では、収益性の高い野菜の生産に転作を奨励した結果、ハクサイを越冬時に紐で縛る作業や、トマトやピーマン・生食用トウモロコシの収穫作業等、機械化できない手作業が増え、結果として外国人労働力への依存が強まった経過があります。もちろん、これらの作業も技術革新によって将来的には機械化が期待できるかもしれませんが、生産年齢人口の減少に歯止めがかからない我が国においては外国人労働力への依存はもはや不可避なものと考えられます。外国人労働力に依存すること自体が問題であるとは思いません。問題はこうした人達の在留資格が期限付きであることに起因するのではないでしょうか。技能実習や特定技能の制度では1年から最長5年の在留期間が定められており、その趣旨はこれらの制度が決して移民政策ではないと示すためのものです。しかし、このように外国人材を安価な労働力として都合良く利用し、使い捨てにしようとする我が国の姿勢こそが、今回のコロナ危機のような有事の際に裏目に出てしまったものと考えられます。その場しのぎの労働力としての一時的な受入ではなく、日本に定住してこの国の農業や食料生産を担う人材として受入するような大きな政策転換が今求められているのではないでしょうか。

<参考文献>
[1] 農林水産省「2000年世界農林業センサス報告書」
https://www.maff.go.jp/j/tokei/census/afc/2000/houkokusyo.html (2020.6.15)
[2]農林水産省「平成31年農業構造動態調査」
https://www.maff.go.jp/j/tokei/kouhyou/noukou/ (2020.6.15)
[3] 日本農業研究所 大賀圭治「農業人口、農業労働力のコーホート分析」
http://www.nohken.or.jp/28-2ooga063-102.pdf (2020.6.15)
[4]日本経済新聞「農業の外国人依存度、1位は茨城県 20代は半数」
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO33984730Z00C18A8000000/ (2018.8.9)
[5]法務省「新型コロナウィルス感染症の影響により実習が継続困難となった技能実習生 等に対する雇用維持支援」
http://www.moj.go.jp/nyuukokukanri/kouhou/nyuukokukanri14_00008.html (2020.6.15)
[6]法務省「新たな外国人材の受入れ及び共生社会実現に向けた取組(在留資格「特定技能」の創設等)
http://www.moj.go.jp/nyuukokukanri/kouhou/nyuukokukanri01_00127.html (2020.6.15)
[7]農林水産省「平成22年度 食料・農業・農村白書 全文」
https://www.maff.go.jp/j/wpaper/w_maff/h22/zenbun.html(2020.6.15)
[8]農林水産省「食料自給率とは」
http://www.maff.go.jp/j/zyukyu/zikyu_ritu/011.html (2020.6.15)
[9]NHK「ニュースウォッチ9」 (2020.5.5)
[10]日本経済新聞「食料自給率に新指標 牛肉輸出増で飼料を除外」
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO55587020T10C20A2EE8000/(2020.2.13)

2020年6月 執筆
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