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福祉
2019年8月

健康幸福な自治体経営の模索
澤田拓人/松下政経塾第38期生

ヴィジョンに基づく、これまでの研修とこれからの研修について、実践レポートという形で総括した。

 

目次
1 ヴィジョン 健康長寿社会の実現
2 これまでの実践活動
3 これからの実践へ

1 ヴィジョン 健康長寿社会の実現

 日本は、現在、世界で最も長寿の国であり、同時に最も急激に高齢化社会に突入している。長寿は、人にとって喜ばしいことである。しかし、高齢化は社会全体には負の影響が大きいと語られることが多い。特に社会保障費の増大と生産年齢人口の減少、経済規模の縮小と財政負担拡大を同時にもたらすものとして日本の国家的な課題となっている。
 『高齢社会白書』(内閣府)[1]の推計では、2025年には、社会保障費全体が2015年と比し、20%増の148兆9000億円にのぼるという。その主因は、2025年には、団塊の世代が全員75歳以上の後期高齢者となり、医療費・介護費などの社会保障費が増大するからとのことである。このような高齢社会がもたらす諸問題を、私は日本のものづくり技術を活用して、IoTやAI、ロボットなど新技術を開発・普及によって解決を図るべきであると考えてきた。
 望まれる理想社会とは何か。その問いへの私の答えは「健康長寿社会」である。「健康長寿社会」は、まず健康寿命が長くなくてはならない。健康寿命とは「健康上の問題で日常生活が制限されることの無い期間が長いこと」である。健康寿命が長いだけでなく、いつまでも若々しい精神を堅持し、元気・活発に活動し続けることができれば、個々人にとっても社会全体にとっても望ましい。人々は生きがいを持って、豊かな生活を送りながら、自身の幸福追求を行うことができ、社会全体は、医療費・介護費の削減をはかることができる。
 世界で最も早く超高齢化社会に突入し、そして少子高齢化による課題に直面している日本には、アジアに、そして世界に、少子高齢化のもたらす課題の一つの解決モデルを示す使命がある。そのモデルの一つとして、健康寿命をより長くし、同時に医療費を削減し、個々人が生きがいをもって豊かな生活をおくることができる社会がある。
 だからこそ、私は、「健康長寿社会」というヴィジョンの実現を目指す。

2 これまでの実践

 神奈川県は、人口減少や超高齢化社会を迎えるに当たり、県民の多種多様の課題を克服するため、生活支援ロボットの実用化と普及を目指している。その具体策である「さがみロボット産業特区」の調査を行ってきた。
 神奈川県は、県央地域(10市2町=相模原市、平塚市、藤沢市、茅ヶ崎市、厚木市、大和市、伊勢原市、海老名市、座間市、綾瀬市、寒川町、愛川町)に、JAXAをはじめ、先端技術を有する企業や研究機関が数多くあり、これらの技術を活用し、課題解決をロボットによって目指す、「さがみロボット産業特区」を政策として進めている。その政策の一環として、「国家戦略特区」と「地域活性化総合特区」の二つの特区制度を通じて、規制緩和と優遇制度を活用し、企業と連携を推し進めながら、生活支援ロボットの開発・普及に力を入れている。
 松下政経塾の最寄り駅・辻堂の駅前には、「さがみロボット産業特区」での取り組みの一つである湘南ロボケアセンター株式会社があり、「ロボットスーツHAL」を活用して、 脊髄損傷、脳卒中、ギランバレー症候群の方のリハビリを行っている。
 この「ロボットスーツHAL」を活用することによって、これまでのリハビリでは歩行困難であった方が、歩行可能となり、日常生活を一人でこなせるようになる等の成果をあげている。技術活用によってハンディキャップを克服し、県民の安心・安全に貢献していて、まさに「健康長寿社会」実現への取り組みと言える。さらに、この「ロボットスーツHAL」を活用している治療現場(横浜市港南区・長田病院)での実地調査を行った。長田病院では、脳卒中によって左側の体が動かせなくなってしまった、50代の男性の、30分間のHALを活用したリハビリに立ち会い、高齢者の介護・医療分野での技術活用の可能性が大きいことを肌で感じることができた。同伴された家族は、「普段は車椅子で生活しており、家族のサポートがないと日常生活が困難だが、将来的にはリハビリを通じて、一人で立ちあがり、歩けるようになってほしい」と言われていた。
 リハビリ担当の理学療法士からは、「最初に比べてリハビリはだいぶ進んでいる。このままリハビリを続ければ杖を使っての歩行も出来ると思う。HALの活用で治療の幅が広がったことを実感している。ただ、活用のための規制緩和や特例措置だけではなく、医療制度や保険制度も見直さないと、本当に必要な患者さんにサービスを届けるのは難しい」と聞くことができ、ロボットの普及面に関しての政治に対する要望に接する機会を得た。
 この他にも、横浜市港南区の特定養護老人ホーム芙蓉会で、ロボットによる介護の現場調査を行った。芙蓉会は、「さがみロボット産業特区」によって8つの機器を導入している。特に認知症ケアで注目されているのが、介護ロボットである。動物が人間に与えるセラピー効果を分析して、認知症患者のケア機能を担っている。また高齢者の歩行を補助するロボットや、離床を助けるロボット、データを採取し、“見える化”するセンサーや見守りシステム等々と多岐にわたっている。それらは、すでに、介護士や入居者を支えていた。
 特に、注目したのは、介護士の負担軽減と高齢者へのサービス向上の両立を目指して開発された「PALRO」いうコミュニケーションロボットだ。「PALRO」は、高い言葉の聞き取り能力と言葉と連動した動きで、高齢者とコミュニケーションをとることができ、介護予防のための運動を介したレクリエーションやクイズ、歌など様々な機能を有している。その性能の豊かさを、私自身、その現場で強く感じとることができた。
 そして、「導入当初は、現場で求められていることと『PALRO』のできることが、なかなか一致していなくて、持て余していた部分もあったが、開発会社に要望してアップデートしてもらった結果、今はみんなに喜ばれる『PALRO』になった」と介護士から聞いた。
 現在の「PALRO」の有する機能は、現場の要望に開発会社が応えるべく、アップデートを繰り返し、日々改善につとめたという地道な作業の成果である。普及・活用を通じて、現場の要望に応えるアップデートの重要性を学んだ。
 上記のように、神奈川県の「さがみロボット産業特区」を通じた、ロボット技術の活用を調査し、技術活用による社会・地域の課題解決のためには、多くのプロセスが必要であることを学び、以下の3点が重要であると把握した。
①県内企業の連携による開発と商品化のための実証現場と規制緩和
②製品の普及と補助制度
③導入現場と開発機関のフィードバック
 開発現場と導入現場の連携は、時間も要し、多くの制度的問題もあり、またコストが発生するので、長期的な計画に基づく取り組みが必要である。全国でもこの分野の最先端である神奈川県では、10年以上も前から、上記のような取り組みをしている。その取り組みからは、技術活用は、即効力のあるものではないことを知った。さらに、環境整備を要し、普及には長期的に継続していく根気強さが求められることをも学んだ。政治的決断によって、環境を整備し、将来の課題に向けて事前に取り組む「さがみロボット産業特区」は、これからの日本が歩むべき方向性の一つを示しているものであると確信している。

3 これからの実践へ

 これまでの実践を踏まえて、これから私の目指す健康長寿社会を実現する為には、「健康上の問題で日常生活が制限されることの無い期間」を伸長させる方策を探求するべきであると考える。私自身の故郷である愛知県は全国において健康寿命が全国で2番目に長く[2]、更に日進市は愛知県において最も平均寿命の長い自治体[3]である。日本国内で地域別に健康寿命の差が発生する理由は明確になっていないが、愛知県では地域文化として活発な交流活動が挙げられる。愛知県の場合は喫茶店文化である。高齢者が朝から喫茶店に通い、地域の人と交流しやすい環境から、活発な活動が生み出され、健康寿命の伸長に繋がっていると愛知県出身の私自身実感する。               
 これから、私の目指す健康長寿社会を実現する為に、2つの取り組みを志向する。
 一点目は、これまで神奈川県で行われてきた、最新技術の活用によって、健康状態へリハビリを通じて自立できる医療体制の構築を、ロボット産業が集積している愛知県で行うこと。
 二点目は、健康を害する病気への予防、日常生活における健康政策を通じて、病気になるリスクを軽減させるまちづくりによって、市民の健康寿命の延伸を目指す。
 一点目については、これまでの実践によって、多くのことを学んできたが、これからは、二点目の病気の未然防止となる、日常生活における健康政策をも重視し、その研究・研修にも力点を置くように努める。
 SWC首長研究会[4]が、市民の保険データを一元化し、クラウドで見える化を行い、客観的な評価指数に基づく、市民の健康改善等、ビッグデータを活用した最新の健康長寿政策を研究している。この研究会の成果は大いに期待できそうである。
 日進市は、最新技術を活用し、かつ最新の健康長寿政策を研究・採用し、高齢者がいつまでも生きがいをもって地域や社会の中で活躍できる健康長寿社会を構築し、健康寿命日本一を目指すべきである。そうすれば、社会的課題でもある医療費の削減も可能となる。繰り返すが、愛知県では、すでに高齢者の喫茶店での交流が活発であり、いわば高齢者の社会参画があり、それが健康長寿につながっているという利点も有している。
 今後、上記の二つの取り組みをもって、健康寿命日本一を達成する自治体経営、つまりは住民の永続的な幸福を具現化するための自治体経営を志向する。広く衆知を集め、長期展望の確立・課題解決の方策を探求して行く所存である。

 

[1] 内閣府HPより引用 https://www8.cao.go.jp/kourei/whitepaper/index-w.html (2019.7.27確認)
[2] 厚生労働省 平成30年第11回健康日本21(第二次)推進専門委員会 資料1-2
[3] 厚生労働省 平成27年市区町村別生命表の概況
[4] 筑波大学教授 久野譜也氏の提唱する科学的根拠に基づく健康づくりを自治体で実行し、健康寿命の延伸実現を目指す、基礎自治体首長による研究会。

2019年8月 執筆
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