Thesis
健康長寿政策を推進する見附市での調査で得た学びから、少子高齢化問題を解決し、かつ健康長寿社会を実現するための自治体経営のあり方を考察した結果を報告します。
高齢化問題をテーマに健康長寿社会の実現を目指して政経塾で実践活動を行っております。日本は急激に高齢化社会に突入しています。高齢化は社会全体には負の影響が大きいと語られ、国家の課題となっていることは周知のことだと思います。内閣府の調査(『高齢社会白書』)によると、2025年には社会保障費全体が2015年比20%増の148兆9000億円にのぼり、更に2025年には、団塊の世代が全員75歳以上の後期高齢者となって、医療費・介護費などの社会保障費が増大する未来予測が立てられています。
そのような現状において、私は健康長寿という切り口から、これからの日本のビジョンを考えています。健康寿命とは「健康上の問題で日常生活が制限されることの無い期間のこと」を指します。健康寿命が長く、いつまでも若々しい精神を堅持し、元気・活発に活動し続けることができれば、個々人にとっても社会全体にとっても望ましいといえます。これからの日本では、ただ長生きをするのではなく、自分が自分らしく生きて、質の高い生活を可能な限り長く送れるかに目標を転換すべきではないでしょうか。
高齢化の課題を解決し、構築すべき理想社会とは何か。その問いへの私の答えは健康長寿社会です。まず、これまで世界一平均寿命が長かった日本が、高齢者の生き生きとした活動を通じて、健康寿命でも世界一となり、健康長寿社会を実現すべきなのです。だからこそ、私は、健康長寿社会というビジョンの実現を目指し、政経塾で実践活動を行っています。
今回は新潟県見附市での実践活動を報告いたします。新潟県県央部に位置する見附市では、健康長寿を軸にした市政を2002年から19年にわたり推進し、様々な面でその効果をあげてきた先進自治体です。私が見附市の取り組みで注目しているのは、筑波大学と官学連携を行い、さまざまな健康長寿政策の効果のデータによる見える化を推進している点です。具体的に挙げますと、見附市では体力年齢の若返りと医療費への抑制効果の実証をめざし、市民へむけた「健康運動教室」や歩数計をもちいて日々の歩数によってマイレージが溜まる「健幸ポイントプログラム」等を実施しています。更に成果を見える化し、市民の更なる参加へ繋げています。実際に健康運動教室では参加者の一人あたりの年間医療費を継続的に測定し、3年以降同年代の方と比較した結果、年間104,234円の抑制効果があることを明らかにしました。更に継続6カ月後には、体力年齢も実年齢よりも約15年以上の若返り効果があることを実証しています。このような取り組みの中から、高齢者を含め、多くの市民に一日の歩行距離が健康長寿に結びつくことを科学的な根拠を元に証明しました。さらに注目すべきは、自発的に歩きたくなる豊かな交流や活力あふれるまちづくりを展開し、健康長寿を謳った他律的、誘導的な健康政策ではなく、市民生活そのものを豊かにすることで、健康長寿を付随的に得られるようにまちづくりの理念を定め、政策を実行している点です。
そして、見附市では健康長寿を軸にしたコンパクトシティを推進し、国土交通省と総務省から評価される実績を残しています。ほとんど外出しないと陥る健康リスクを解決すべく、高齢者が外出したくなるまちを目指して、施設機能と交通アクセスの整備を行いました。具体的には市内3地区に外出したくなる施設を集約し、さらに3地区と市内各地を繋ぐ公共交通網を整備することで、高齢者の積極的な外出と歩行を促し、医療費の抑制や介護認定率の低さに効果をもたらしています。実際に後期高齢者の一人あたりの医療費は、国と比較した場合、約20万円の差があり、さらに国は医療費が増加傾向にありますが、見附市の場合は低下傾向にあります。
実際、外出したくなる施設として、設置されている「見附市市民交流センターネーブルみつけまちの駅」は、市内北部にあり、市民活動や買い物をする市内最大の施設で、多くの市民でにぎわっていました。また、市内中央部に位置する「みつけ健幸の湯 ほっとぴあ」は商店街の入り口に設置されており、炭酸泉や岩盤浴などの健康増進に効能がある施設を備えるだけでなく、レストスペースなども充実しており、年代を問わず多くの市民の憩いの場となっていました。二つの施設の充実・繁栄ぶりから、見附市は、健康長寿を目指すだけではなく、住み続けたくなるまちづくりに、努力・邁進していると実感しました。
今回の研修で学んだことは、健康長寿とは人が豊かに生きるための手段であって、目的ではないということです。なによりも市長をはじめ市職員の方はこの地域で生活する市民の方により充実した生活を送ってもらうためにという軸から、健康長寿を切り口にまちづくりに努めている姿勢からそのことを痛感しました。これから日本の自治体ではますます高齢化問題が顕在化していくことになるはずです。そのような時、どのような理念に基づいて行政改革を進めていくのかが問われると思います。
全国の地方自治体は、今後、行政サービスの合理化推進のため、コンパクトシティ化による都市機能の選択と集中につとめる必要があり、かつ見附市が行ったように、将来課題を見据えて、市民一人一人の幸福と自治体ひいては社会全体の幸福とが一致するようにとの明確な理念を持った経営を行うべきである、ということを学びました。
そして、見附市では健康長寿とは目的ではなく、高齢者一人ひとりの活力あふれる積極的な活動によって副次的に得られるものであるということを知りました。これからの健康長寿社会においては高齢者が自治体内外において外出したくなる、ハード、ソフト両面での整備が重要であるということがわかりました。ハード面では高齢者が外出しやすくなるためのインフラや施設の整備と、ソフト面では健康教室を含めた交流の空間を整備することであるということです。それは、結果として高齢者を含めた全ての住民の住みやすさを高めることにも通じると思います。
このたびの研修を通じて、健康長寿社会とは、高齢者だけでなく、そこで生活する全ての人が生き生きと活動できる社会のことであり、そのような社会を実現するように環境を整える経営が、自治体に求められていると実感いたしました。
Thesis
Takuto Sawada
第38期
さわだ・たくと
Mission
健康長寿に根差した自治体経営の探究