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外交・防衛
2019年6月

『新しい日本式平和主義』実現へ向けての挑戦 〜防衛産業の振興による国防力強化を通じて〜
小甲顕史/松下政経塾第37期生

本レポートは、基盤部分(産業面、技術面など)から国防を強化する方法の探求と実践についてまとめた4年間の総括レポートである。

 
【目次】
Ⅰ 総括レポートの位置付け
Ⅱ 素志の経緯
Ⅲ 国防の現状と今後
 1.昭和から平成の国防のあり方
 2.平和の保つ上での世界の常識
 3.自衛隊現場の努力
 4.日本式平和主義の限界とこれからの『新しい日本式平和主義』
Ⅳ 自衛隊装備に係る産業の実態
 1.防衛産業とは?
 2.防衛産業の具体例について
Ⅴ 自己の取組
Ⅵ まとめ

 

Ⅰ 総括レポートの位置付け

 総括レポートでは、自らのテーマである『国防』に関し、
 ・テーマを掲げるに至った経緯
 ・我が国の国防についての現状と自己の所感
 ・所感に基づく自己の活動
  →基盤部分(産業面、技術面など)から、国防を強化する方法
   の探求と実践
 ・卒塾後の活動方針
  →主として、産業面・技術面から国防に貢献する活動
について、述べて行く事により、いかに自らが塾是(世界の平和と人類の繁栄・幸福)に貢献出来るかを考えて参りたいと思います。

Ⅱ 素志の経緯

 私は、大学卒業後に航空自衛隊に9年間勤務した後に、公益財団法人松下政経塾に入塾しました。航空自衛隊では、戦闘機やペトリオットミサイル(地対空用の迎撃ミサイル)を管制する要撃管制官(GCIO : Ground-Control Intercept Officer)と、自衛隊の装備品に関する研究開発部門に所属し、沖縄県の久米島分屯基地を初任地として、防衛大学校や府中基地などに勤務しました。研究開発担当者として、府中基地で勤務している期間(2013年〜2015年)においては、安全保障に関わる事柄として、次の3つの事項が世間で大きな注目を浴びました。
 
 ・憲法解釈の変更(集団的自衛権の限定的容認)
 ・平和安全法制
  ・防衛装備移転三原則
 
 これらの方針転換や法整備は、当時では「戦後最大の転換点」、「これまでの方針を180度変えるもの」などといった、センセーショナルな言葉で報道されていました。しかしながら、何ら憲法や法の理念といった本質は審議されませんでした。防衛装備移転については、“武器輸出”や“日本の軍事大国化の再来”などといったフレーズも多く見られました。国会審議では、この法律の存在により日本が戦争に巻き込まれる可能性が出て来る、さらには自衛官が海外に行って人を殺す・殺されるなど、国権の最高機関としての立法府としての議論としては期待外れのものでした。
 国防では、誰が、何を、どこで(who・what・where)、いつ(when)、どの様に(how)守るかを予め考えておくことがとても重要であり、それを決定するのは国民(代表者としての国会議員)です。しかしながら、当時の国会論争の限りでは、国会議員は、なぜ(why)守るかすら、考えていないと、自衛官としての自分は感じていました。このままでは、国民・国土を守り抜き、繁栄させた形で子孫に受け継ぐことが出来ない―そう確信し、自らがその5W1Hを考え、実践するべく、防衛大臣・国会議員を目指すに至り、その素地を涵養するため、松下政経塾に入塾致しました。

Ⅲ 国防の現状と今後

 本章では、自己のテーマである国防について、戦後から今日に至るまでの概略を述べて参ります。

1.昭和から平成の国防のあり方

 アジア・太平洋戦争の結果、日本はアジア諸国を戦場とし、多大な犠牲を強いたのみならず、ほとんど世界を敵に回し、沖縄戦・米国による広島と長崎への原爆投下などにより、国家滅亡の寸前まで追い込まれました。
そうした経験から、戦後(特に昭和時代)、これまで我が国は一切戦争や戦闘行為に関わらないという、国際社会できわめて独特な“日本式平和主義”を貫いて来ました。この平和主義によって、1945年以降、今日に至るまで日本は戦死者を1人も出さないという“成果”を得ています。平成に入ってからは、世界の平和維持は全ての国(特に主要国)の責任といった考え方が広まり、紛争が発生した場合には、直接的に自国の安全保障に係らない地域にも軍隊を派遣する国が増えて来ました。そのような時代の流れから、我が国は平成初期にいわゆる「PKO法」を制定し、平成末期にいわゆる「平和安全法制」の制定、「憲法解釈」の変更を行い、世界の潮流に適応してきました。
 本年、平成から令和の御代へと移り、新たな歴史を我が国は踏み出しました。平成においては、昭和の日本式平和主義の理念自体は受け継ぎ、法令や政策面において微修正を加えることで約31 年間を過ごしてきましたが、令和においてもその路線を引き続き継続して行けるのか甚だ疑問です。

2.平和を保つ上での世界の常識

 その日本式の平和主義が世界では全く通じないのは、今に始まったことではありません。例えば、1990年代初頭に発生した湾岸戦争では、日本は戦地に自衛隊を送ることなく多国籍軍に対して、約130億ドルの資金援助を行いました。しかし、クウェート政府が発表した、イラクからの解放に貢献した国に対する謝意に関するメンバーから日本が外されていました。当時の政府は、この屈辱的な現状を鑑みて、国連平和維持活動法(PKO法)を成立させ、カンボジアの復興に自衛隊を派遣しました。その後政府は、イラク、ソマリア沖、南スーダンなどに続々と派遣しており、国連を通じた世界の平和維持活動に実際に人(自衛官)を派遣するようになりました。現在は、自衛隊の海外派遣の必要性は国民に深く浸透し、十分に支持されるに至っています。
 一方で、21世紀に入り冷戦終結後30年以上の歳月が経ちましたが、世界は平和であるとは言い難い状況にあります。例えば、ストックホルム国際平和研究所の発表では、2017年の世界の軍事費の総計は約1兆7890億ドルであり、過去最高を記録しています[1]。また、国連安全保障理事会常任理事国である米国、中国及びロシアの経済的、外交的、軍事的なせめぎ合いは、加熱の一途をたどっています。
我が国は地政学的に、世界的にも有数の軍事国家・軍事力が集まっている所に位置しており、いくら我が国が世界の不安定な情勢に関わろうとしなくても、否が応でも我が国は巻き込まれます。つまり、
 
・我が国が世界に無関心であっても、世界は我が国に関心がある
・我が国が戦争を避けても、戦争は我が国に寄って来る
      
ということです。平和を保つことが、きわめて困難なのは議論を待ちません。例えば、世界最強の軍隊を持つ米国は、日本と日米安全保障条約を結び、ヨーロッパ諸国と北大西洋条約を結び、オーストラリア・ニュージーランドとANZUS条約を結んで世界に防衛網を張り巡らせ、自国の戦力と同盟国の戦力を結集させて世界の国々とともに、自国の本土防衛を確実にしようとしています。また、平和で高福祉の国とイメージされる北欧諸国でも、例えばスウェーデンは、戦闘機や潜水艦といった強力な兵器を、自国内の産業や技術のみで生産し得る体制を整備するとともに、武装中立を目的として核武装を企図した研究を行っていた時期がありました。
 いかなる国においても、“平和”や“安全”を手に入れるために国内外で大変な努力をすることは当然であることが分かります。

3.自衛隊現場の努力

 我が国も平和のために戦後、様々な取り組みをしています。イラクやソマリア沖に自衛隊を派遣したのも、日本のエネルギーは中東からの石油に大きく依存しているので、その石油を安定的に確保するためでした。日本から遠く離れた地域への自衛隊派遣は、巡り巡って我が国の安定的なエネルギーの確保(エネルギー安全保障)といった国民生活のライフラインの安定的確立に貢献することになります。また、基地問題の解決に取り組むことも、平和維持に大きな意味を持ちます。
 現在、沖縄では、普天間基地移設に関して、政府と県との交渉が続いています。その沖縄に筆者が勤務したおりの10年ほど前の体験ですが、制服で街中のスーパーなどに行くと労いの言葉をかけられるなど、自衛隊に対する感情の良さを感じていました。一方で、筆者の自衛隊時代の大先輩が勤務されていた昭和40〜50年頃に関しては、業務をするに当り大変に苦労したと聞きます。沖縄の基地では、地元の住民や機関の信頼を得るために、基地のお祭りや、親子での戦闘機の体験搭乗(もちろん地上にてエンジンを切って、の状態です)へ積極的に招待し関係を築いて来ています。そうした上に、現在の自衛隊への信頼があるのです。今日においては、そうして自衛隊の先達が勝ち得た、信頼が形となって現れています。この様な事実は、社会の随所で垣間見ることが出来ます。
 例えば、ゴジラ映画の変遷を追う事でも自衛隊に対する信頼、社会での位置付けが分かります。1950年代については、ゴジラに対処するため、自衛隊が出動するシーンがありますが、自衛隊はなす術なくゴジラに蹴散らされ、無残に敗走する姿が描かれています[2]。一方で、最も新しく公開された“シン・ゴジラ”につきましては、陸海空自衛隊が連携し、果敢にゴジラに立ち向かう姿が描かれ、首都防衛の要としての位置付けが明確に打ち出されています[3]。
 両者の描かれ方は、全く180度の正反対のものです。自衛隊を取り巻く状況は、半世紀以上の時間を掛けた自衛隊やその関係者・支援者の努力により、大きく変わって来たことが分かります。以上はあくまで具体的な例です。これからは、我が国は国外での自衛隊の様々な取組を通じ、世界平和に貢献することにより、世界からの自衛隊及び日本のイメージを向上させることを続けて行くことになります。

4.日本式平和主義の限界とこれからの「新しい日本式平和主義」

 先達の自衛隊の理解・信頼を得るための努力はもとより、「Ⅱ素志の経緯」で述べた、憲法解釈の変更などは、これからの政府の我が国の安全確保に関わる意思表示です。しかしながら、近視眼的であると言わざるをえません。
 例えば、平和安全法制については図表(「平和安全法制」の主要事項の関係[4])に示す通り、事象の発生に係る、
①シチュエーション(状況)としては、有事から平時へ、
②ロケーション(場所)としては、国内から国外へ、
対応出来る仕組みになっています。 

 国外での自衛隊活動、有事を前提とした活動を予め想定した法令制定は、戦後の我が国にとっては、画期的なことです。しかしながら、未来に起こること全てを予測することは出来ません。いかに網羅的に法律を制定したとしても、制定時に予想し得なかったことが起こることは避けられません。
 一般的な国家事業については、立法や行政判断のみならず、事後的に慎重な司法判断も仰げます。例えば、いわゆる“ハンセン病に係る国家賠償訴訟”や“一票の格差問題”などが挙げられます。
 しかしながら、国際問題の内、特に安全保障は、事後的に判断し修正することは出来ません。一度失われた、国民の命や財産を取り戻す事は不可能であるからです。従って、国防に関する問題について、全て法律をもってカバーし、国の安全を保つことは初めから無理な話なのです。そのため、あらゆる事態を想定し、想定外を無くすなどといった議論は不毛なのです。安全保障は、数ある国家事業の内で最も特殊であり、通常の議論や考え方では最終的な国家の意志を誤る危険性すらあります。
 さらに、現在においては、世界の多様化が進み、その波は安全保障分野にも押し寄せて来ています。より複雑な事象に、我が国は対応して行かねばならず、これまでの戦争や紛争から距離を置く事により、国の安全を保つ“日本式平和主義”は、古典的であり効率が悪く、最早限界に到達していると言わざるをえません。
 国防については、万が一の備えである事後対処のみならず、未然に防ぐ予防が重要です。(例えば、外交交渉や戦闘機・潜水艦などの抑止力を保持することなどが挙げられます。)今後は、Ⅱで述べた国防の意思決定の5W1Hのうち、どの様な(how)国防の体制が望ましいか?あるべき姿か?―をより具体的に考える必要があります。さらに言えば、少子高齢化についても確実に現場を圧迫しています。仕事は増えるが、人は減る―個人個人の仕事量は凄まじく増加しています。
 我が国は、国内の事情や国外の事情に(後追い的に)対処する国防体制を敷くのではなく、具体的に我が国を含む世界の安全保障のあるべき姿を描いて、それの実現、それへの到達に邁進すべきです。これを「新しい日本式平和主義」と、本レポートでは呼ぶことにし、以下の方針を改めて提案します。

“宇宙・サイバーなどの新しい安全保障空間の利用が顕著で、テロリズムなど国境のボーダレス化や非国家組織との対峙が顕著な今日であっては、多国間連携による安全保障体制の意義が一層深まっていると考えられる。また、技術革新も著しく一国での兵器開発も難しい状況である。こうした傾向は今後、将来に渡って加速して行くと思われる。我が国もそうした世界の潮流の中に存在しており、積極的こうした状況に対応し、潮流を牽引して行くことが自国の安全保障に資することそのため、日米安全保障体制の深化は、運用面でも装備面でも促進させて行くべきである。さらに言えば、日米両国以外のアジア・太平洋諸国も日米安全保障体制の枠組みと連携し太平洋版のNATOと言える多国間安全保障体制まで発展させることが、個別的な国家防衛ではなく、集団安全保障体制が通常となった今日では、日米のみならずアジア・太平洋地域の平和と安定により資すると考えられる。”(塾生レポート『国防に関する理念の再考』、小甲顕史、2018年5月)[5]

 筆者は、特にこれまでの経歴(自衛隊の開発担当者、弁理士資格保有者)などから、国防に係る多くの事業のうち、上記の方針のうち、下線を付した“産業政策”や“技術開発”に取り組むことにより、新しい日本式平和主義に貢献したいと念じています。
 次章以降では、「国防力」のうち如何に産業は技術の側面から貢献するかについて述べて参りたいと思います。

Ⅳ 自衛隊装備に係る産業の実態

1.防衛産業とは?

 我が国では、自衛隊の装備品製造に関わる産業については、『防衛産業』と呼称されています。国会での定義では、最終需要者が防衛省である装備品・物品の製造や生産に関わる産業とされています。自衛隊には、多種多様な装備品が存在するため、電気通信産業や自動車産業の様に、近い技術分野によって構成される産業ではなく、あらゆる技術分野を網羅的に包含する産業分野です。産業のうち、防衛産業だけが持つ特徴について、以下に列挙します。
①防衛産業の製品の供給先は、これまで武器輸出三原則等の関係から、実質的に防衛省(旧防衛庁)に限られています。そのため、他の産業に見られるコスト削減や輸出によるマーケット拡大が事実上図れないといった特徴があります。また、供給先が防衛省に限られていたため、仕様や調達数量が全て需要側により決定されます。
②自衛隊装備品に係る予算については、近年微増していますが、大幅な増加については今後も難しい状況です。   
③米国、欧米諸国では企業全体の売上のうち防衛部門の売上の割合が8割を超える防衛専業メーカーが存在します。一方、我が国の防衛産業では、プライム企業の防衛部門の売上は数%~10%程度に留まり、防衛部門の事情は企業の経営判断に殆ど繋がらず、企業の統合・再編による業界における効率化などが難しい特徴があります。一方で、中小企業等のサプライヤー企業に関しては、売上の5割以上を防衛省が占めるものもあり、防衛産業における業界内においても、全体の売上のうち、防衛分野が占める割合の差が顕著です。
④防衛省と大学、企業の間の産学官連携に対して、軍事研究の促進につながるとして日本学術会議が懸念を表明しています(4)。そのため、防衛産業及び防衛省が関わる産学官連携は、その他産業の産学官連携よりもハードルが高くなっています。
 これらの特徴は、防衛産業にとって今後の課題となりえるものです。こうした課題を克服してゆくことが、将来にわたる防衛産業の発展の鍵となります。

2.防衛産業の具体例について

 筆者は、政経塾の研修において防衛産業の実態を調査するため、経営者や技術者へのヒアリング及び工場見学等を実施しておりました。ここでは、特に弾薬及びミサイル製造に係る企業について紹介致します。
 弾薬製造に係る日本工機株式会社は、東京都に本社を置き、福島県に製造工場を持つ企業です。同社は、弾薬を金属加工、火薬製造から評価試験まで一貫して行える国内で唯一の会社になります。弾薬製造の現状としては多品種(口径が12.7mmの小型の銃砲弾から、100mmを超える大型の砲弾があり、戦車、護衛艦から戦闘機などの装備品によって、様々なサイズの弾薬が使用されています)、かつ、少量生産(日本では主として訓練で用いられるため)であるため、生産活動の観点からは非効率な面があり経営上の課題となっています。そうした課題を、例えば人材の多能工化(複数の製品や工程を担当出来るための技術、ノウハウを身に付けること)や生産ラインの効率化などによって克服するよう努めています。
 同社は、上記の取組のほか、技術転用(スピン・オフ)といった方法により、新しい分野での開発を行っています[6]。同社は、弾薬に用いられる爆薬を技術転用し、防犯用のネットランチャー、トンネル掘削用爆薬などの開発を行っています。爆薬について、その技術を文章では、『適時に、所望の威力で、瞬間的に、使用者が安全に、エネルギーを使用する事が出来る化合物』と記述する事が出来ます。爆薬は単に物質を破壊する事のみを目的として用いるのみならず、様々な用途で用いている例になります。
 また、同社の技術は、防衛分野ではなく、学術分野の範疇である宇宙開発にそのまま用いられています。同社が参画する「はやぶさ2プロジェクト」では、小惑星探査に係るプロジェクトのうち、小惑星の一部を破砕して、サンプルを採取して地上に持ち帰るところに同社の技術が用いられています。適切な威力を制御出来る爆薬の製造技術は、防衛分野のみならず宇宙探査の学術分野にも応用出来るものであることを示している具体例になります。防衛産業は、売り上げが限定的である“防衛分野”に加えて、技術転用などの方法を用いて、会社としての利益を確保しています。しかしながら、機密情報やノウハウの確保などの理由から、法律やガイドラインなどの規制が多いことや、支援政策などが乏しいことが現状です。 

Ⅴ 自己の取組

 筆者のこれまでの活動としましては、防衛産業の実態を探るため、
  ①防衛産業
  ②国会議員事務所
を主な現場として、活動をしてきました。前章で紹介した企業はそうした活動の中で訪れた企業であります。また国会議員事務所においては、防衛産業に係る政策の意思決定過程を見聞し、政策面に産業の実情の声がどの様に反映されているかを確認しました。こうした活動を踏まえ、日本の防衛産業の振興策について以下に記す、「防衛装備品に係る知的財産管理をすること」と「日本版FMSの創設」を提案致します。

(1)防衛装備品に係る知的財産管理をすること

 我が国の技術革新を促進するためのより有用な手段を構築する必要性から挙げました。先述の企業の例のほか、防衛省が発表した、『将来戦闘機に関する研究開発ビジョン』にある通り[7]、戦闘機に係る技術の他の民生技術への転用(いわゆるスピン・オフ)や、民生技術の防衛装備への転用(いわゆるスピン・オン)が促進されてきます。実際に、現代社会において生活や産業の根幹となっているインターネット、GPS等については軍事目的で発明されたものの民生分野の応用になります。このことから、防衛・民生分野の技術の相互移転は、爆発的な経済・技術革新を生む可能性を孕み、いわゆるパラダイムシフトの可能性を示唆するものです。そうした、スピン・オフ又はオンを促進させるためにも、産業財産権制度(特許、著作権など、知的財産に関わる財産)を活用するべきです。
 また、書誌的事項でありますが、日本の特許に関わる公開情報(特許公報)に関しましては、権利者の名前のみならず、発明者の個人名が掲載されています。すなわち、どの会社のどの技術者が、どのような開発能力を持っているかが、合法的に流出しています。日本には、原子力や生化学など軍事転用が容易な技術分野・発明に関しましても余すところなく、公開されています。日本以外の大多数の国家は、安全保障上重要な技術については、政府が公開を差し止める制度(秘密特許制度)があり、機微技術の流出を防止しています。(日本も戦前存在していた制度でありますが、戦後廃止されています。)現在においては、政府や民間を問わず、中国や北朝鮮などへの重要技術の流出防止が強調されていますが、制度としては全く不十分な状況です。
 防衛装備に係る技術を守るためには、こうした極めて初歩的な問題点から1つ1つ議論の俎上に上げてゆく必要があると考えております。

(2)日本版FMSの創設

 FMSとは、生産した完成品を外国から直接購入するものです(対外有償軍事援助制度、FMS : Foreign Military Sales)。我が国は、先般青森沖で墜落し、大きく報道されたF35A戦闘機に関しましては、米国からこのFMSにより、いわゆる輸入をしております。FMSを実施することにより、装備品を供給元と供給先の国家で共有しますので、同盟国同士であった場合は、さらに関係性が深まります。北大西洋条約(NATO)や日米安全保障条約が歴史上、長期かつ安定した軍事同盟である理由としては、こうしたFMSをはじめとした装備品の共有があるからです。筆者が提唱した、新しい日本式平和主義については、日本は米国のみならず太平洋諸国をも含む広域安全保障体制を構築する必要性について述べました。そのためには、単に共同訓練などを実施するのみならず、装備品を共有するなどといった物質的な面で相互依存関係になる必要があります。我が国の防衛産業にとっても、供給先が防衛省のみならず諸外国にも増えてゆくことは、市場拡大にも繋がり、メリットが大きいと考えております。しかしながら、防衛装備は高度な機密情報が含まれていますため、ノウハウや機微情報の管理はこれまで以上に精緻なものにする必要があります。軍事技術をはじめとする機微情報についても、根本である技術そのものは、要素としては、通常の技術として同じであるため、前記“防衛装備品に係る知的財産管理”と併せてなす必要があります。

Ⅵ まとめ

 これまで、筆者の今日に至る迄の活動、活動に基づく防衛産業振興策について提案して参りました。防衛産業振興に関しましては、政府のみならず、長年に渡り政党や業界団体が一様に頭を抱えている課題であり、実践は並大抵の事では無いことは承知しています。
 しかしながら、長期間に渡り、多くの実務家が取り組みつつも、解決や実現に結びついていない課題であるからこそ、生涯を掛けて身を投じるべきテーマだと信じています。
 卒塾後の第一歩として、まずは一介の弁理士として、実務にあたり、塾生期間に培った現場感に磨きをかけ、防衛産業(防衛技術)の権利化・保護に特化した特許業務法人の経営者になることを目標と致します。その後においては、経営者としての能力を基に主として、安全保障に直接関わる国政担当者(又は産業育成などにより、安全保障に間接的に関わる地方議員、首長)として、全般的な国家の安全に貢献して参りたいと考えております。
 もとより、卒塾後が本番であると十二分に承知しています。『新しい日本式平和主義』の実現に向けて、今一度身を引き締め、邁進する所存です。

【脚注】
[1]ストックホルム国際平和研究所,“https://www.sipri.org/”.
[2]東宝株式会社,“https://www.toho.co.jp/library/index.html
[3]東洋経済,“https://toyokeizai.net/articles/-/133280”.
[4]内閣府HP“https://www.cas.go.jp/jp/houan/150515_1/siryou1.pdf”『平和安全法制の概要』)
[5]松下政経塾塾生レポート“https://www.mskj.or.jp/report/3406.html.
[6]日本工機株式会社,“http://www.nippon-koki.co.jp/.”
[7] 防衛省,“https://www.mod.go.jp/j/press/news/2010/08/25a_02.pdf
 (上記:2019年7月26日閲覧)

2019年6月 執筆
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