論考

Thesis

女性の自立支援に向けて

目次

1.はじめに

2.必要とされる女性支援

 (1)教育

 (2)仕事

 (3)金融アクセス

3.おわりに

1.はじめに

 私が現在取り組んでいるテーマは、「女性の自立支援」である。なぜ女性の自立支援が大切だと考えるのか、その観点から論じていきたい。

 世界人口の半数を占め、全労働時間の3分の2に貢献し、そして世界中のほとんどの子供を育てているのは女性である。女性の多くは、家庭の中で家事労働を担い、人類史の中で多大なる貢献をしてきた。しかし、女性達が社会の中で与えられる権利は、男性と平等でないことが多い。女性だからという理由で、学校に通わせてもらえない、低年齢で結婚をさせられるなど、自分の意志で自分の道を歩んでいくための基盤が足りない。

 私自身が上記の状況について知ることになった一つのきっかけは、「花嫁を焼かないで―インドの花嫁持参金殺人が問いかけるもの」という一冊の本であった。インドやネパールの地域で残っている慣習で、ダウリー(結婚時の持参金)という制度がある。これは、新婦側が新郎側に支払うもので、この持参金の金額が少ないと花嫁は、嫁いだ家で虐待にあったり、最悪のケースでは殺されたりする場合もある。新郎側の身分や学歴、年収が高いとさらにダウリーの額は大きくなることもある。そのため、女子が生まれると一家にのしかかってくるダウリーの金額が大きくなることから、女子の誕生を忌み嫌う傾向が見られたり、女子を多く産んでしまった母親が家庭の中で冷遇されたりなどの憂き目に遭う人もいる。本の中では、生きたままサリー(インドの伝統的な女性衣装)に火をつけられ殺される女性の事例もあった。しかしこうした事件が表に出ることは少なく、新婦側の遺族が裁判に訴えたとしても証拠不十分で不起訴となることが大半で、ほとんど泣き寝入りである。この文化的な制度や慣習が長く続くことで、男尊女卑の傾向は弱まることなく一層強まってしまう。

 地域や歴史の中で長く続いてきた慣習や、人々の中に根付いてきた思想を一掃することは容易いものではない。では、このような状況の中で、女性が自分の意志を持って、人生を力強く進んでいくためには何が必要なのかを次から論じていきたい。

2.必要とされる女性支援

私は女性が自分の意志を持って、人生を力強く進んでいくためには①教育と②仕事と③金融アクセスの3つが必要だと考える。

(1)教育

 第一段階として、まず教育があげられる。元世銀副総裁である西水美恵子氏の著書に記載された“マンドの奇跡”が教育の重要さを物語っている。

 パキスタンで最も貧しい地域は、南西の片隅にあるバルチスタンという場所にある。そのまた片隅のマンド村に、小学校から高校までの一貫校、マンド女学院がある。女学院の偉業に感動した人々が、誰からともなく「マンドの奇跡」と呼びはじめ、定着した。この地域では、イスラムの慣習が重なって、マンドの女性達は近年まで生涯外出を禁じられていた。女子教育などもってのほかだった村の女学院は、長老ジャラル氏と家族一同の尽力のたまものである。クウェート留学を終えたジャラル氏の娘たちが教師となり、ジャラル家の家財を投じて塾を開いたのがその始まりだった。(1981年創立)「良母は千の教師に勝る」と、村の男衆を説得したそうである。その原動力になったのが、マンド村内の経済格差だった。金持ちの子息はパキスタンの最大都市カラチや海外に留学し、女性や貧しい村人のほとんどが、代々非識字のまま取り残された。何世紀にもわたって貧富の差が拡大し続けるマンド村での経済格差の根を絶つすべを、教育格差の解消に見たジャラル氏。「教育は人生の選択域を広げ、未来への展望を開き、自助自立の貧困脱出を可能にする。」と話し、女学院を開いたが、効果はすぐに表れる。勉学に励む娘たちは、兄弟の学習意欲を挑発するどころか、非識字を恥じる父や母にも読み書きを教えた。村の識字率はあっという間に上昇し、衛生状態や栄養不良の改善を伴い、労働生産性の向上に直結した。小売業や、農耕機具の修理・整備業など、自営サービス業を起業する村人も現れた。南アジア諸国のことわざには、「一人の男子に授ける教育は、一人の人間を教育する。一人の女子に授ける教育は、未来の世代をも教育する」という言葉がある通り、女性をはじめとする万人に教育を施すことは、当人だけではなく、その家族そして地域をも発展させる大きな鍵となるのである。

 統計的にも、女子に教育を与えることは、直接家族の健康や経済発展、乳幼児死亡率の低下につながっている。例えば、読み書きのできる母親は、子どもに予防接種を受けさせる可能性が50%高いという統計がある。つまり、女子への教育は、もっともシンプルで、達成可能な貧困撲滅策なのである。

 多くの開発途上国では、社会的に女子の教育の重要性が軽視されていて、男子生徒や教員から社会的差別が繰り返されることがある。女子教育が軽視されてきた傾向は成人識字率の男女差を見れば一目瞭然で、南アジアでは男性が66%なのに対し、女性は40%と断然低くなっている。国レベルで見ると、女性の識字率が低い国はサハラ以南のアフリカと南アジアの国がほとんどだ。教育の機会を奪われるということは、生産的な仕事ができなくなるのと同時に、家族や自分自身を守れなくなり、社会的不安定を増やすことにもつながる。

 女子が1年長く初等教育を受けると、その子の収入は約11%増加し、全ての女子が中等教育を修了すれば5歳未満児の死亡率は約49%減り、1年で約300万人の命を救うことができるという統計結果がある。にもかかわらず、女に生まれたというだけで家庭内に閉じ込められ、教育や外で働く機会を奪われてしまっている。女性だからというたったそれだけの理由で。男性優位の考えが根強い地域では、女性への家庭内暴力や性暴力の問題が深刻化している。司法が公正に判断しないこともあり、加害者の男性が罰せられないばかりか、逆に被害者である女性が差別されてしまうこともある。彼女たちは行き場を失い、人身売買の犠牲になったり、追い込まれて自殺したりしてしまうケースもある。

 現在、「Support for Women’s Happiness(以下、「SWH」)」のメンバーとして、ラオスで活動をさせてもらっているが、現地で雇用している女の子達の中には、自分の年齢も分からず、初等教育さえ受けていない子もいる。教育を受けていないことの弊害は、上記でも詳細を記載しているが自分の体感として感じているのは、長期的な計画を立てることが困難になるということだ。自分は将来こんなことがしたいと思い、その思いを実現するにはどうしたらいいのか考え、実行していくことができない。今日一日をどう生きるかが大事であり、将来のための勉強や、経験を積んでいくことができない。教育を通して得られるのは、学問的な知識だけではなく、自分の未来を思い描き、行動していく力なのだ。

(2)仕事

 私はこの実態についてかものはしプロジェクトやジョイセフという女性支援に特化した国際協力団体でのインターンを通して調査してきた。特にかものはしプロジェクトでは、「子どもが売られる」という問題に焦点を当てて活動しており、売られる子供の大半が女子であることが分かっている。最初はカンボジアで活動を行っていたが、現在は問題が収束し(現在のカンボジアでの児童買春は2%以下になっている)、その活動拠点をインドへと移している。特にインドでは、西ベンガル地方から都市(多くはムンバイなど)に売られてきている子たちが多いという。中には近隣諸国であるネパールやバングラデシュからも売られてきている子もいる。特にネパールの女の子たちは、インドの子たちよりも若干肌の色が白く、白い肌が好まれるインドにおいては、売春宿で非常に好まれるのである。女の子たちが売られる理由は様々ではあるが、この児童買春の問題の根本は、「貧困」が引き金になっている。両親が借金で困っていたり、少しでも家計を助けようと都市に仕事を探しにいって騙されて売られている子もいる。特にインドの西ベンガル地方では、他の地域と比べて女性が外で働くことに寛容である分、“仕事”を口実にブローカーに騙されて売られてしまうという実態がある。

 世界中の人身売買の被害者が売られてしまう平均の金額はなんとわずか90ドルであり、国連薬物犯罪オフィス(UNODC)によると人身売買は闇取引市場において薬物取引、銃器売買に次ぐ3番目の"収益事業"となっている。人身売買における収益は、概算でも320億ドル、日本円に換算するとなんと24兆円にも上る。(国際労働機関2005年報告より)

 このような人身売買を防ぐためには、“貧困”という問題に向き合う必要があり、貧困からの脱却には、最初に述べたように子供たちへの教育だけではなく、大人には“仕事”が必要である。かものはしプロジェクトでは、カンボジアのシェムリアップにコミュニティーファクトリーという工場を持っており、ここでは“I Love Cambodia”と“SUSU”という2つのブランドの製品を製造している。作られる製品は、カンボジアで取れるい草を活かしたコースターやブックカバーといったお土産にもなる生活雑貨などである。この工場で雇われているのは、近隣の貧しい70世帯の家庭の女性であり、このおかげで安定した収入を得ることができている。実際に2018年の1月に視察に訪れたが、託児所があり、子育て中の女性も安心して働くことができる環境が整っていた。また働く女性達が自立していくために、文字の読み書き、計算、栄養のある食生活の指導、貯蓄の知識、キャリアプランの設定などを教える講義を定期的に開催している。カンボジアは特に、個人商店などが多く、自分で手に職をつけて店を出す、起業するという感覚が強い。工場で人気のある仕事は、ミシンでの縫いの工程であり、ミシンの技術が身に付けば将来一人で起業できると考えている女性も多いと聞いた。中でも、女性が自分の意志を持って人生を力強く進んでいくためには教育や仕事を通して自分に対しての“自信”を育んでいくことが重要だと考える。その点、モノづくりは、日々の成長の成果が見やすく、個人の成長スピードに合わせて、ステップアップしやすい。

 SWHの活動で、5月からラオスに入っていたのだが、そこでは新たな試みとして、日本の伝統文化である「手毬」の製造を行うことになった。手毬を作ることになった経緯としては、株式会社CANさんが、東北の応援のために、秋田県由利本荘市や山形の鶴岡市で作られている御殿毬の技術者が高齢化し、技術の継承ができなくなっているという危機感を持ったことから始まる。1つの手毬を作るのには、非常に手間暇がかかり、日本での大量生産は難しいということで、SWHの活動地であるラオスでこの手毬を量産できないかという依頼がきた。そこで早速、技術指導に入ったのだが、元々刺繍文化が残るラオスにあっては、手先が器用な人が多く、2週間という短さで日本のクオリティと変わらないレベルのものを作れるようになった。今後、ラオスの女の子達が、経済的に自立していくためには、安定的にこの手毬を生産し、日本国内で販売していかなければならない。そのためにやらなければならないことは山積みではあるが、手毬事業のおかげで、女の子たちはラオスの平均月収を手にすることができるようになった。この経験は、彼女たちにとって大きな自信になっていくかと思う。

(3)金融アクセス

 女性の自立支援において、教育と仕事の両面について論じてきたが、他にも仕事で独立していきたいと思う女性達への金銭的な支援も重要だと考える。貧しい人々に対し無担保で小額の融資を行う貧困層向け金融サービスであるマイクロクレジットについてはノーベル平和賞を受賞したムハマド・ユヌス氏のグラミン銀行が有名である。「貧しい人々も起業家としての能力を持っており、資金さえあれば商売を始めて利益を得ることができる」との信念の下、様々な革新的なスキームを取り入れ、返済率の高い貧しい人々のための銀行を作り上げることに成功した。このグラミン銀行の成功により、世界中至る所で同様のマイクロクレジット機関が設立され、貧困層への融資が積極的に行われるようになった。このグラミン銀行の成功の秘訣には、「グループ貸付」と呼ばれる制度があり、これは、貧しい人から担保を取る代わりに、5人組のグループを作らせて、誰か一人でも返済できなければ、他の4人は今後一切借りられなくなる、という仕組みを取っている。しかし最近の研究によるとグループ貸付制度の有効性に対して、疑問符がつけられるようになってきた。とういのも、フィリピンでは、無作為に選んだ既存のグループ貸付センターを、個人貸付に移行させる、という実験が行われ、その結果、個人貸付に移行しても、返済率は変わらないという結果になった。しかも、個人貸付の方が、新規顧客が多かったという。その新規顧客の大部分は、既存の顧客の友人や親類であった。グループ貸付だと、自分が返せない場合に肩代わりさせてしまうので、親しい人には勧めにくいのだが、個人貸付だとその心配もないため勧めやすくなり、新規顧客が増加することになったという結果が出た。グループ貸付は返済率を高めることには貢献しておらず、しかも新規顧客の参入を引き下げている。より個人に焦点を当て、金融の知識を習得した後に、キャリアプランの設定、返済計画を含んだ貸付制度が求められていくのではないかと感じる。現在、日本の笹川平和財団は、2017年に東南アジア地域の女性と女性起業家の支援を目的とする「アジア女性インパクトファンド」を設立した。東南アジア地域では、多くの国や地域で様々な社会背景から女性の就職率が低く、女性が収入を得るためには自ら「起業」する以外に選択肢がない状況にあることから、女性の金融アクセスの改善を図るという背景がある。「アジア女性インパクトファンド」は、東南アジア地域の女性の経済的エンパワーメントおよびジェンダー平等の促進を目指しており、具体的には財団の運用資産の一部をマイクロファイナンスや女性関連のESGファンドなどの女性の地位向上に資するビジネスへの投資に振り分ける。さらにこの投資により得られた収益を東南アジア地域の女性起業家への投資や起業家支援機関等のプログラムに活用することで社会的インパクト投資の効果の最大化を図るという仕組みだ。現在このファンドについては始動したばかりであるため、どれぐらいの効果があるのかは図れていないが、女性の金融アクセスにより焦点を当てたファンドの有用性については、引き続き調査していきたいと思う。

3.おわりに

 世界に置かれた女性の立ち位置や、問題に対して、女性が自分の意志を持って、人生を力強く進んでいくためには教育、仕事、金融へのアクセスであることを論じてきた。本年度からは、国際学校建設支援協会の石原代表の元で、学校教育の重要性を学ぶ他、「Support for Women’s Happiness」という団体の事務局長として、女性達の自立支援に直接携わり、モノづくりを通した自立支援を行っていきたいと思う。また、笹川平和財団の取組に関しては、引き続きリサーチを行い、東南アジアでの女性起業家への投資や起業家支援機関等のプログラムの基盤となる指標づくりに参画していきたいと思う。

◆参考

・「花嫁を焼かないで―インドの花嫁持参金殺人が問いかけるもの」1990/4 謝 秀麗

・「国をつくるという仕事」2009/4 西水美恵子

・Comparable Estimates of Returns to Schooling Around the World(World Bank Group 2014)

・Education transform lives (UNESCO 2013)

【WEB】

・かものはしプロジェクト HP

http://www.kamonohashi-project.net/activity/factory/

・World Vision HP

https://www.worldvision.jp/children/

・ユニセフT•NET通信 No54

https://www.unicef.or.jp/kodomo/teacher/pdf/sp/sp_54.pdf

・プランジャパンHP

https://www.plan-international.jp/join/girls/

・笹川平和財団 プレスリリース

https://www.spf.org/media/article_24247.html

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川本里佳の論考

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Rika Kawamoto

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第37期

川本 里佳

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